作品タイトル不明
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「おい、聞いたかい、みんな!」
ブルスカが再び大声を上げた。
いつのまにか周りには大勢の冒険者が集まっている。不思議なことに、誰も彼もがそれなりにできる。特に前のほうにいる冒険者はかなりの腕利きぞろいだ。
「騎士トログは、レカンが迷宮で血を流して手に入れた剣が欲しかったんだ! その剣を奪うため、〈骸骨鬼ゾルタン〉の恩人の孫をさらったんだ! そしてゾルタンに命じた。恩人の孫の命を救いたければ、レカンを殺して剣を奪えと!」
すさまじい批判の声が冒険者たちから上がった。
「わかるか、みんな! 冒険者が自分で得た剣を、騎士トログは奪おうとしたんだ。罪もない夫婦を人質に取って! 冒険者同士を無理やり戦わせるという方法で!」
怒号が巻き起こった。
(ああそうか)
(大きな声を出しているのは)
(〈グリンダム〉の知り合いたちなんだろうな)
ということは深層組の冒険者たちである。今〈あちら側〉の冒険者の数はぐっと減っているはずだ。その状態で有力な深層組の冒険者たちに強い反感を抱かれたら、迷宮の経営に重大な支障を来すだろう。
この二日間をブルスカは有効に利用して、深層組の冒険者たちに仕込みをしておいたのである。
「迷宮法を知ってるな! 〈迷宮から出たとき所持する物の所有権は所持者もしくは所持者たちにある〉という法を、騎士トログは踏みにじりやがったんだ!」
怒りの声が爆発した。それが鎮まってきたとき、再びブルスカは何か言おうとしたが、騎士ハイデントが手でそれをさえぎった。
「騎士オルグ。貴殿の息子騎士トログは、迷宮法を踏みにじったと批判されている」
「あ、あのようなたわごとを、まさか本気に」
「騎士トログが犯した罪のとがは、貴殿にも及ぶ。しかも虚偽の申し立てをもって騎士トログの罪をごまかそうとしたのだから、貴殿自身も罪を免れぬ」
「お待ちください!」
「貴殿に最後の機会を与える」
「……えっ?」
「すなわち、ゾルタン殿の代理である冒険者レカンと決闘し、身の潔白を証明する機会を与える」
騎士オルグの顔が真っ青になった。だが、しばらくすると、笑いが顔に浮かんだ。
「ふっ、ふふふふ。はっはっはっ。ハイデント様、その言葉、信じてよろしいのですな」
(おいおい)
(それはハイデントに対してものすごく失礼な言い方じゃないか?)
「何をだ?」
「私が、この冒険者に決闘で勝ったときには、罪は問われないということです」
「貴殿がレカンに勝利したときは、ゾルタン殿をめぐるいきさつについて騎士トログに非はなかったと認めよう」
「ははっ。ありがたき幸せ! おいっ。あの盾を持て!」
部下が一枚の大きなタワーシールドを運んできて、馬上のオルグに渡した。
オルグは盾を持つといきなり魔力を込めた。
盾から何十本という魔法の矢が生まれ、レカンに襲いかかる。
「〈火矢〉!」
たちまちレカンの周りに何十本という〈火矢〉が生まれ、魔法の矢をことごとく撃ち落とした。
もちろん魔法の矢を撃ち落とさなくても、〈インテュアドロの首飾り〉が結界を張ってレカンを守ってくれた。しかしレカンの後ろには迷宮の出入り口があり、そこから出てきた冒険者たちが、事の成り行きをみまもっている。
(しまったな)
(何人か死ねばオルグに非難が集中したのに)
(ついうっかり後ろの冒険者たちをかばってしまった)
目玉が落ちるのではないかというほど、騎士オルグは目をみひらいた。
レカンの右手が持ち上がり、手のひらがまっすぐ騎士オルグに向けられた。
「〈炎槍〉!」
一条の光芒が走った。
ふつう、〈炎槍〉は赤色をしている。
しかしこの〈炎槍〉は青白い色をしていた。
そして、誰もみたことがないほど、太く、長い〈炎槍〉であり、あり得ないほどまぶしい光を放ち、みる者たちの目を焼いた。
〈炎槍〉がオルグに着弾しようとするとき、オルグの持つ何かの装備が障壁を形成した。だが、レカンの〈炎槍〉は、その障壁をあっさり貫通した。
青く澄んだ空のかなたに〈炎槍〉が消え、人々のくらんだ目が視力を取り戻したとき、騎士オルグの首の上には何もなかった。
ぐらり、とオルグの体が傾き、馬上から転落して石畳の上に落ちて、大きな音を発した。
何人かの騎士が、それぞれ別の騎士数人ずつに拘束され、魔道具のようなもので気絶させられた。ベンチャラー家の、もしくはオルグ派の騎士たちなのだろう。まるであらかじめ打ち合わせをしてあったかのような鮮やかさだ。
「皆の者、聞け!」
騎士ハイデントの声が響く。
「ベンチャラー家の父子が、わがツボルトの民草を咎なくして拘束し、その民草を人質として貴臣ゾルタン殿をして意に反して冒険者レカンと決闘させたことは明白である。その目的は冒険者レカンが迷宮で得た恩寵品の不当な奪取にあり、迷宮法にふれる疑いがあるうえ、冒険者レカンは貴臣ゾルタン殿と盟友であり、それを殺し合わせた非道は許されてはならぬ!」
おお、おお、と騎士たちが声を上げる。
「かねてよりひそかな告発があった! 騎士オルグと騎士トログは迷宮から得られた希少な恩寵品を秘密に売り払って富を得ていると。それが真実なら、ベンチャラー一族の罪は決して許されるものではない」
ここで言葉を切った騎士ハイデントは、さらに大きな声で宣言した。
「これより、ベンチャラー本家の屋敷に突入し、捜索する! ベンチャラー一族の者すべてを捕らえよ! あらゆる場所を探せ! 不当に得た富とその証拠を、あますところなくみつけだせ!」
百名の騎士がこれに呼応してときの声を上げた。さすがの深層冒険者たちもひるむほどの恐ろしさと力強さだ。
「続けえ!!」
騎士ハイデントを先頭に、魂も砕けるほどのひづめの音を響かせて、百人の騎士は貴族街の方向に走り去っていった。
「いやいや、大変なことになっちゃいましたね」
レカンの近くにぽっちゃりがやってきた。
「おい、ぽっちゃり。さっきオルグから奪って、バイアドに渡したのは何だ」
人々すべての視線が騎士ハイデントに集まっていたとき、ぽっちゃりは騎士オルグ・ベンチャラーの死体に近寄り、ごそごそしていたが、そのあと騎士バイアド・レングラーに近寄り、何かを渡していたのだ。騎士バイアドは、領主補佐付の騎士だと名乗っていた。つまり騎士ハイデントの側近だ。
「ああ、赤い指輪ですか。あれは隠し金庫のふたを開ける鍵なんですよ」
「隠し金庫?」
「ええ。騎士オルグ様の私室のね。大丈夫ですよ。ちゃんと金庫の場所はハイデント様にお伝えしてありますから。もっともハイデント様は、ちゃあんと調べ上げてあったみたいですけどね」