軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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レカンは目を覚まして、上半身を起こした。

すぐ横にゾルタンの体がよこたわっている。

大量の血が流れ出たはずなのだが、迷宮の床には、どす黒いしみがあるものの、さほどの出血のあとは残っていない。

ゾルタンも、右腕がないことと、喉が切り裂かれていることと胸に穴が開いていることをのぞけば、眠っているようにみえなくもない。死のおぞましさや悲しさを、レカンはゾルタンの死体から感じることはできなかった。

鎧の穴はほとんどふさがっている。右脇腹は切り裂いたし、胸の中央には大きな穴を開けたというのに、今はわずかな裂け目と小さな穴があるだけだ。

(幻魔緑蜂の鎧に自動修復をつけてたんだな)

目についたものがある。〈ウォルカンの盾〉だ。

真っ二つに割れた〈ウォルカンの盾〉の残り半分が少し離れて落ちている。

(恩寵品の修復なんかできないんだろうな)

そうは思ったが、一応拾っておくことにする。

立ち上がると、すっかり疲れが取れていて体調がよいのに気づいた。

すたすたとあるいて、破片を拾って〈収納〉にしまう。

折れてしまったゾルタンの聖硬銀の剣も拾って〈収納〉にしまった。

ひどく体が軽い。

今すぐに全力で走ったり、跳び上がったりしたい。そんな欲求を体から感じた。

今ならどんな動きもできるという、一種の全能感のようなものがある。

(ふふ)

(まだ体が興奮から覚めていないようだな)

寝る前に感じていた疲労感や虚脱感は、きれいさっぱり消え去っている。

〈収納〉から〈不死王の指輪〉を取り出して、眺めた。

「〈鑑定〉」

〈名前:不死王の指輪〉

〈品名:指輪〉

〈出現場所:ダイナ迷宮百階層〉

〈深度:百〉

〈恩寵:無敵〉

※無敵:心の臓が十回打つ時間、あらゆる攻撃からダメージを受けない。発動呪文は〈ティーリ・ワルダ・ロア〉。この恩寵は一日に一度だけ発動する。

何度みても信じがたい性能だ。それにしても、〈あらゆる攻撃からダメージを受けない〉という言葉の意味が、よくわからない。物理攻撃も魔法攻撃もということなのだろうか。麻痺や睡眠などはどうなのだろう。何をもって〈攻撃〉と認定するのだろう。

その答えが知りたければ、実際に使ってみるほかない。

それを考えるとわくわくする。

腹が減っているのにレカンは気づいた。

肉体のほうもそうだし、魔力のほうもそうだ。

(うん?)

(眠る前に〈ザナの守護石〉が魔力補填をしてくれたはずだし)

(魔力回復薬の効果も切れてないはずなんだがな)

あのとき、〈ザナの守護石〉から流れ込んだ魔力は、確かに魔力の飢えを解消してくれたはずなのだ。だが今は、魔力の空腹を感じている。ただしそれは、疲労を伴う空腹ではなく、元気にあふれたいわば健全な空腹だ。

大きめの大魔石を取り出して魔力を吸った。

ところが大魔石一個分の魔力を吸い尽くしても、魔力の空腹感はなくならなかった。これは不思議なことだ。この大きさの大魔石なら、二個でレカンの全魔力量にあたるはずなのだ。

変だなと思いながら、もう一個大魔石を出して魔力を吸った。驚いたことに、二個目の大魔石からも魔力を吸い尽くした。であるのに満腹とはいえなかった。

もう一個でも魔力を吸えそうな気がする。

ここに至ってレカンは自分の感覚が正常ではないことに気づいた。

酔いが回って、しかも気持ちが高ぶっているときは、料理を食べても食べてもまだ食べられそうな気がするものだ。それは感覚が麻痺しているからであって、そういうときに満腹するまで食べようとするのは愚かなことだ。

レカンは階層の入り口に向かった。階段に入る前に、振り返って礼をした。長い礼だった。それから第五十階層に跳んだ。

階段から第五十階層に踏み込むと、入り口近くで八人パーティーの冒険者が何事かを相談していた。そのそばを通り過ぎる。

一人で階層の奥に歩いてゆくレカンを、八人が不思議なものをみる目でみた。

誰もいない場所に出ると、レカンは〈不死王の指輪〉を出して左手の薬指にはめた。左手をぐっぐっと握り込んでみる。

(だめだ)

(銀の指輪と当たる)

〈不死王の指輪〉をはずし、中指にはめていた銀の指輪を薬指に移すと、〈不死王の指輪〉を人さし指にはめた。

(人さし指にはあまり指輪ははめたくないが)

(この指輪は細くて薄くて邪魔にならないから)

(まあいいだろう)

〈インテュアドロの首飾り〉を外して〈収納〉にしまう。

〈収納〉から〈ハルフォスの杖〉を取り出して左手に持つ。〈驟火〉の魔法を教わったときシーラからもらった杖だ。ニーナエ迷宮の主との戦いでは決定的な役割を果たしてくれた。魔力制御の速度付加と、魔力収束の精度付加がつく、非常に優れた杖だ。腰には〈ラスクの剣〉を吊ってある。

その状態で魔法を練って、部屋に踏み入った。

「〈障壁〉」

対物理の〈障壁〉を張る。四体の〈黒肌〉と二体の〈赤肌〉がいるが、今となってはあまりに動きが遅く感じる敵だ。

のろのろと〈黒肌〉四体が攻撃を始めるのを待った。

なぜか四体とも斧を持っている。

やっと攻撃が始まった。

〈障壁〉は非常にうまく張れていて、安定して攻撃を受け止めている。ここまで揺らぎのない状態で〈障壁〉が張れたのははじめてかもしれない。

一歩前に踏み出してみた。

〈障壁〉に異常はない。安定している。

三歩前に歩いてみた。

まったく揺らぎがない。〈障壁〉はきわめて安定している。このぶんなら、そうとう自由な動きができそうだ。

相変わらず〈障壁〉に問題はなく、〈黒肌〉たちの攻撃を受け止めている。

そのうち、〈赤肌〉が口を開いて、ぼあああ、と声を上げ始めた。

(よし)

レカンはタイミングをはかり、魔法攻撃が発せられる直前に〈障壁〉を解いた。

「〈ティーリ・ワルダ・ロア〉!」

全身が少しだけ白くくすんだ。

〈黒肌〉の斧攻撃と〈赤肌〉の魔法攻撃がレカンを襲う。

だが痛くもかゆくもない。

斧が当たると多少体に衝撃があるが、本来の衝撃から比べれば、ごくわずかだ。

想像以上の効果である。

レカンは左手に杖を持ったまま、右手で〈ラスクの剣〉を抜き、六体の敵を斬り倒した。

指輪の効果が消えた。

(オレの心臓が十回打つよりも長持ちしたような気がする)

(この次の実験ではそこを確かめてみよう)

これであと一日は使えない。

レカンは階段に移動して地上階層に転移し、外に出た。