軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「〈 雷撃(グィンバル) 〉!」

怒鳴るようにレカンが呪文を唱えると、レカンの周囲を取り巻くように雷が生じた。そしてレカンの後ろ側で、どさりとぽっちゃりが倒れた。ぽっちゃりは戸口から逃げ出すつもりだったのだ。

レカンはくるりと振り返り、倒れたぽっちゃりの喉元に、剣を突きつけた。

その右目は閉じたままだ。

「〈回復〉」

自分の目に回復をかけた。視野は戻ったが完全ではない。とはいえ、〈立体知覚〉を持つレカンは、視覚に異常が生じても戦闘力はそこなわれない。

「なぜトログは、ナークとネルーを人質に取れば、ゾルタンに言うことを聞かせられると考えたんだ?」

何事もなかったかのようにレカンは質問を繰り返した。

ぽっちゃりは、倒れたままで両手を上げて降参した。威力は弱めて放った攻撃だったが、それにしても効き目が薄い。抵抗装備でも持っているのだろう。

「あたしがそう報告したからです」

「なに?」

「イライザ様が出ていかれたあと、ゾルタン様は宿の主人夫婦とずいぶん親しそうだった。特に客が帰ったあとのゾルタン様と主人夫婦の会話を聞いてて、あたしはぴんときたんですよ」

ということは、この男はあの夜〈ラフィンの岩棚亭〉の近くにいたのだ。

(そうか)

(向かいの客か)

レカンは周囲の気配には注意している。イライザが訪ねてきたあの夜は格別に注意を払った。〈ラフィンの岩棚亭〉の周りには怪しい気配はなかった。向かいの家には家族以外の気配があったが、また客を泊めているのだろうと思い、気にもしていなかった。このあたりの家は、べつに宿屋でなくても、頼まれて人を泊めなにがしかの謝礼を受け取ることはよくある。あれがぽっちゃりだったのだろう。しかしあそこからこの部屋の会話がきちんと聞き取れたとすると、〈遠耳〉の魔法か、それに類するスキルをこの男は持っていることになる。

「そもそも、あやしいなとは思ってたんです。この宿の家族はゾルタン様にとって恩人なのに、全然近寄る気配がない。あたしがこの町に来て以来ずっとですよ。でもあの夜の親しさはただごとじゃない。つまり危険な目に遭わせないように、近づかなかったんです。あたしはそう思いました」

そこはレカンも不思議に思っていたのだ。

ナークは、ずいぶん長いあいだゾルタンと会っていないようだった。だが、あの夜のゾルタンからは、ナークの祖父に抱く恩義を強く感じた。また、ナークやその父に寄せる親しみも感じた。ふるさとのない男なのだ。孤独な男なのだ。どうして〈ラフィンの岩棚亭〉に近寄らないのか疑問に感じた。

「お前は、ゾルタンについて、何かトログから指示を受けていたのか」

「ええ。まあね。弱みを探れって言われてました」

これで聞くべきことは聞いたろうか。

いや。まだだ。

「ナークとネルーは、どこにいる」

「統括官執務室の横の会議室です」

「見張りは何人いる」

「部屋のなかにはたぶん誰もいません。部屋の外に騎士が二人」

「それだけか?」

「あたしが知ってるのはそれだけです。でも、統括所には騎士や腕の立つ人がごろごろいると思いますよ」

「ふむ」

これで聞くべきことは聞いた。

レカンは剣を持ち上げた。振り下ろしてぽっちゃりの首を斬り落とすのだ。

「待った! 待った! 待った! 殺さないほうがお得ですよ!」

今にも振り下ろす構えを保ったまま、レカンは聞いた。

「ほかに言い残すことは」

「今あたしの命を取らないでくださったら、あたしは当分のあいだ旦那の部下になります」

レカンはもともとぽっちゃりを殺す気ではなかった。こんな小物を殺してもしかたがない。だが、抜き打ちをかわした身のこなしをみて気が変わった。こいつは生かしておいては危険だ、と思ったのである。

「自分で言うのも何なんですが、あたしの情報収集力はちょっとしたもんですよ。聞き取り調査や潜入や盗み聞きも一級品。記憶力は絶品というわけで」

必死で命乞いをするぽっちゃりの顔をみつめながら、レカンは面白みを感じていた。絶体絶命の危機にあるというのに、この密偵はどこかおどけたところがある。この奇妙な余裕のようなものは、死の瞬間まで失われないものなのだろうか。

ゆっくりと剣を下ろしていく。

「何なら神殿に行って神官様の前で誓いを立ててもいいですよ。今後二度と旦那の敵に回ったり、旦那の不利になることはしません。旦那の命令に従います」

剣の先がぽっちゃりの喉元に達した。

「旦那や旦那のお仲間のおためになる情報を集めますよ」

声がずいぶん小さくなった。それはそうだ。喉に剣先を突きつけられた状態で、大声が出せるはずがない。

かっ、と目をみひらいて殺気を放った。

なんとぽっちゃりは、その殺気を受け流してしまった。つまり逃げもおびえも反撃もしなかったのである。相変わらず罪のなさそうな目でレカンをみつめ返している。

(こいつの腹のすわり方は)

(尋常ではないな)

レカンは剣をするりと鞘に収めた。

このぽっちゃり密偵を生かしておくのも面白いだろうという気になったのだ。

ぽっちゃりは顔に笑いを貼り付けたまま、すうっと立ち上がった。

「この手紙はゾルタンからオレへの呼び出し状だが、どこに呼び出したかお前とトログは知っているのか?」

「それは教えてもらってませんが、迷宮でしょうねえ。ゾルタン様はおっしゃってましたよ。自分が呼び出せばレカンは来るって」

そうだ。

その通りだ。

ゾルタンに呼び出されたのだから、レカンは行く。

そこで何が起きるとしても。

「消えろ」

レカンが命じると、ぽっちゃりはへこへことお辞儀をし、とぼとぼ歩いて立ち去った。無害な一般人そのもののようすで。