作品タイトル不明
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レカンは、シーラが、つまりニケが〈彗星斬り〉を使っていた場面を心のなかに思い描いた。伸ばすも縮めるも自由自在の鮮やかな戦いぶりだった。
(いずれはあそこまでいきたい)
(だがすぐには無理だ)
当面の目標を、最低限の魔法刃の生成と維持においた。
この剣の場合、最低の魔法刃の長さは二倍だ。つまりちょうど一歩だ。そのうち手元の半歩分は金属製の刃身を魔法刃が包んでおり、その先は魔法刃だけが半歩分ある。言い換えれば、最低限の長さで魔法刃を出したとき、完全に魔法刃だけでできた部分は半歩だということだ。最大限で出したときは、その四倍、つまり二歩だ。
最低限の長さでも一歩の長さの刃渡りがあるわけだが、これは決して短くない。ロングソードとしては、ごく標準的な長さだ。
(まずはこの長さで使いこなせるようになろう)
やるべきことは、この長さで魔法刃を発現できる最低の魔力量を込める練習だ。
そして同時に、魔法刃を維持できる最低限の魔力量をつかむ必要がある。
いったん魔法刃を生成したあとは、ごくわずかな魔力をそそいでおけば、魔法刃は維持される。ところが供給魔力がある一点より低くなると、魔法刃は消えてしまうのだ。いつも多めの魔力をそそいでいれば問題なく維持できるわけだが、それは魔力のむだ遣いだ。
レカンは練習に没頭した。
気がついたらふらふらになっていた。
魔法の出し入れにも体力のようなものを消費する。魔法的体力とでもいえばいいだろうか。
魔石から魔力を吸うのにも魔法的体力を使う。少量を一度や二度ならどうということもないが、大きな量を一度吸えばかなりこたえる。魔力を吸うという行為自体にもある種の疲労があるし、吸った魔力がすぐには体になじまないため、一種独特の気持ち悪さがある。
魔力の放出にも魔法的体力を使う。歌の好きな人間でも、大きな声で一刻も歌い続けたら、喉は荒れ、臓腑は疲弊し、立っているのも困難になる。そしてもう声など出したくない気分になる。それと同じだ。
調子に乗って魔石から魔力を吸っては魔法刃を出す練習をし続けたため、レカンは疲れきってしまった。へとへとである。めまいと頭痛と吐き気がひどい。
魔石も大量に消費してしまった。小さい魔石はもう捨ててしまうが、空っぽにした中魔石と大魔石に魔力を充填するためには、三、四日、いや五、六日はかかるだろう。そのあいだ魔力をほかのことに使わなければの話だが。
レカンは、よろけながら〈ラフィンの岩棚亭〉に帰り着いた。
夕食時間はとうに終わっていて、ツインガーとブルスカが飲んでいた。
レカンの食事はちゃんと残っていた。
レカンの消耗具合をみて、ヨアナが心配してくれた。
「あれあれまあ、どうしたんだい? あんたのことだから何もありゃしないと思ってはいたけどね。あんまり遅いから。強い敵と出会っちまったのかい?」
「うむ。手ごわかった」
7
翌朝、レカンは起きることができなかった。ひどく酒によった翌日のような状態で、とても起き上がることができない。自分で〈回復〉をかけると、少しだけましになったが、やはり気分の悪さは消えない。そのまま昼まで寝て過ごした。夜は酒も飲まずに早々と寝た。
翌日も出かける気にはならなかった。
遅めの朝食をとり、一眠りして、昼過ぎに起きて昼食を取った。
ぼおっとしながら茶を飲んでいたが、突然、ぼんやりとした目に強い光が宿る。
(ほう)
(来たな)
〈生命感知〉には数多くの赤点が映っているが、他とは明らかにちがう強い光点が三つ、こちらに近づいてくる。
そのうちの一つは、みおぼえがある。一昨日迷宮事務統括官に会ったとき、隣の部屋にいた女だ。たぶん侯爵家筆頭魔法使いだ。だが、侯爵家筆頭魔法使いの赤点は、二番目の強さでしかない。一番強い点は、明らかに彼女をしのいでいる。
(おいおい隠し球か?)
光の強くない赤い点が五つ、一緒に移動している。魔力のない同伴者なのだろう。
やがて、八つの赤い点は、〈立体知覚〉の探知範囲に入った。
(馬車だな)
(大きめの馬車だ)
(あれじゃここには入ってこれんぞ)
(馬車を引く馬のほかに馬が二頭)
(騎士か)
(お)
(こいつは)
先頭の人物は徒歩なのだが、長身だ。レカンより背が高い。この人物が最大の魔力を持った人物だ。
(騎士ではないな)
(冒険者か)
馬車が止まった。なかから出てきた人間は、歩いて〈ラフィンの岩棚亭〉に近づいてくる。
(二人は馬車の留守番か)
こちらに六つの赤い点が近づいてくる。
(おっ)
長身の人物が先頭を歩いているのだが、驚いたことに、二番目に歩いているのは、どうやら迷宮事務統括官だ。あんな身分の高い人物が、わざわざこんなところを訪ねてくるというのは、かなり珍しいことにちがいない。
六人がさらに接近してきたとき、レカンはあることに気づいた。
(先頭ののっぽ野郎は)
(魔力量が並外れているだけじゃなく)
(ものすごい使い手だ)
(だがこの感じ)
(この感覚は)
(まさか)
(まさか)
それは懐かしい感覚だった。思わずレカンは声を上げそうになった。
まさかこういう感覚が存在し、それを味わうことになるとは思わなかった。
だが間違いない。疑いはない。今近づいてくる人物は、まさにそれだ。
六人が〈ラフィンの岩棚亭〉の前に到着した。
ノックの音がする。
返事を待たずにドアが開く。
「入るぞ」