軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「レカンだ」

レカンが名乗ったあと、奇妙な沈黙が生じた。

やがてイライザは視線をレカンから外した。

「今はそうお聞きしておこう。こちらに」

そう指し示したのは豪華なソファーだ。

イライザは、レカンが座るのを待っている。レカンは不審に思った。

(この前騎士トログと会ったとき)

(トログは勝手に先に座った)

(だが今日はトログの上司で、ここでたぶん一番偉いやつが)

(オレが座るのを待っている)

(このちがいは何なんだ?)

レカンには、ほかにも気になることがあった。隣室である。

隣室はやたら広く、腕の立ちそうな人物が二人、たぶん騎士だ、それとかなりの魔力を持った魔法使いが二人いる。そしてたくさんの魔道具らしき物がある。その四人と騎士トログと、そして糸目男を同時に相手取ったら、簡単には勝てない。そしてこの建物は敵だらけということになってしまう。

(まあ今のところ殺気はない)

(取って食おうというわけでもないようだ)

(とりあえずは成り行きに任せるか)

レカンはソファーに座ることにした。だが、ソファーとテーブルのあいだが狭くて座りにくい。

「〈浮遊〉〈移動〉」

かなり重いソファーと思えたので、〈浮遊〉をかけてから〈移動〉をかけた。ソファーを半歩ほど下がった位置で着地させる。

どっかりと深くソファーに座り、右足を左膝の上に乗せた。高位貴族の前でみせるにはいささか不作法な姿勢だ。であるのにイライザも騎士トログも文句を言わなかった。そのことが不審だった。

イライザも座り、目で糸目男に合図を送った。糸目男は深く頭を下げてから部屋を退出した。

「それにしてもパルシモ侯爵もお人が悪い。レカン殿を派遣なさるなら派遣なさるで、ひと言お知らせくださってもよかったのに。歓迎こそすれ、妨害などしないのに」

「何のことだ?」

「それにしても噂とはあてにならぬものだ。パルシモ侯爵秘蔵の魔法騎士団は、魔法は見事なものだが肉弾戦を戦う体力やわざはないと聞いていたのに。それともレカン殿が特別なのか?」

「すまんが、あんたが言ってることがわからん」

本当にわからなかった。だが、パルシモという名には覚えがある。ザカ王国の大迷宮のなかで東南のはずれにパルシモ迷宮があり、〈魔法の迷宮〉とも呼ばれている。パルシモ侯爵というのは、パルシモ迷宮都市の君主であるはずだ。

「もしかして、以前パルシモ迷宮の攻略に騎士団の派遣を依頼してこられたとき、お断りしたことを悪く取っておられるなら、それは誤解だ。あのときは事情があって、騎士団を派遣できなかったのだ」

「もう一度言うが、あんたが言ってることが、オレにはわからん。何か勘違いしているんじゃないか? オレはパルシモとは何の関係もない」

イライザは、形のよい眉をこまったように寄せ、小さくため息をついた。

「秘密鑑定の部屋で、レカン殿は油断されたようだ。その外套に付与した〈箱〉から杖を取り出したそうだな。ところが取り出すまで、その外套には杖を入れているような様子はまったくなかったという。杖をしまったあともだ。これは普通の〈箱〉ではあり得ないことだ」

そういえば最近、誰も気にしないようなので、レカンもあまり気にしなくなっていたが、レカンの〈収納〉は、この世界の〈箱〉と大きくちがっているのだ。

(しまったな)

(ちょっと気を抜きすぎたか)

(〈彗星斬り〉のほうはわざわざ〈箱〉に入れて持ち運びしてたのに)

(杖のことはうっかりしていた)

「そんな〈箱〉は、どこにもありはしない。パルシモ魔法研究所が最近開発したという〈 自在箱(ラフタールーフ) 〉以外にはな」

(おいおい)

(そういう〈箱〉が実際にあるのか?)

「われわれとても、パルシモ領のことに、まったく無関心であるというわけではないのだよ」

(それって)

(密偵を忍び込ませていると宣言していないか?)

「お茶をお持ちしました」

「入れ」

外から糸目男の声がして、騎士トログが返事をした。

使用人二人が両側からドアを開け、ワゴンに乗せた茶を侍女が室内に運び入れ、それに糸目男が続いた。

侍女が茶をカップに入れているとき、糸目男が折りたたんだ紙片をイライザに渡した。

茶はテーブルに置かれ、侍女と糸目男は退出した。

「熱いうちに召し上がるがよい」

「ふむ。いい香りだ」

口に運んで湯気を鼻腔に吸い込んだ。ふくよかで、渋みと甘みのただよう奥行きのある香気にレカンは包まれた。

わずかにすすってみれば、さらりとしているのに不思議な手応えがあり、強烈なこくがあった。舌の奥にじいんと味がしみてくる。

「うまい」

「それはよかった。ところでレカン殿の魔力量は、わが侯爵家の筆頭魔法使いより多いそうだ。こんな魔力量を持つ魔法使いが、魔法都市パルシモ以外にいるというのかね」

魔力量を量る魔道具があるのだろうか。ヤックルベンドとかいうやつなら作っていそうな気もする。それとも、隣の部屋にいる魔法使いが、魔力を感知する技能の持ち主なのだろうか。

「もしかして、その筆頭魔法使いというのは、隣の部屋にいる二人の魔法使いのうち、奧側に座って大きな魔道具みたいなものを操作している女か?」

イライザの表情が凍った。