軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「やればできるではないか。では次は魔力だ。お前は魔力で鑑定品をなでておる。そんなことでは恩寵品は鑑定できんぞ。ましてや迷宮深層の恩寵品はな」

「待て。恩寵が付いていると鑑定しにくいのか?」

「当たり前だ。恩寵の数が多いほど、魔力を通しにくい。未熟な鑑定士のなかには、〈鑑定〉をかけながら恩寵をみのがしてしまう者がおる」

「ほう」

「お前のようにやたら多量の魔力をそそぐ必要はない。必要最低限の魔力をそそぐのが、鮮明な結果を心のなかに得るための秘訣だ。ただし、鑑定品の奥底まで魔力を届けるのだ。鑑定品を〈鑑定〉の魔力で貫き通すような気持ちで魔法をかけてみよ」

「よくわからん。すまんが一度見本をみせてくれ」

「一度だけじゃぞ」

老鑑定士はもう一度〈鑑定〉を実演した。

レカンは最高の注意力をもって〈魔力感知〉を発動し、老鑑定士の魔法を脳裏に刻み込んだ。

美しい魔法だった。老鑑定士から発した魔力は、研ぎ澄まされた名剣のように、まっすぐ大胆に〈彗星斬り〉を貫いた。恐れもためらいもない、ただ純粋な一筋の魔力だった。

(このじいさん、みてくれはひねくれているが)

(心根はまっすぐで純粋なんだろうなあ)

「魔力の放出を終えたあとも、しばらく杖の構えは崩すな。完全に鑑定内容を認識し終えてから、やわらかくそっと杖をはずすのだ」

「わかった。やってみる」

レカンは目を薄く閉じ、杖を剣に突きつけ、慎重に魔力を練った。この鑑定に必要な最低限の魔力はどの程度かと心のなかを探ってみると、おのずと杖から答えがあった。求められただけの魔力を放出する準備を調えると、かっと目をみひらき、呪文を唱え始めた。

「すべてのまことを映し出すガフラ=ダフラの鏡よ、最果ての叡智よ」

まるで今までと魔力の収束度がちがう。魔力に硬さなどないが、例えていえば、ふわふわとしたものが鋭利な姿に変わったような手応えだ。

「わが杖の指し示すところ、わが魔力の貫くところ、霊威の光もて惑わしの霧を打ち払い」

杖の先に魔力がせり出している。先鋭で透明な魔力だ。自分が何をするのかをよく知っている魔力だ。手綱を放せば今にも鑑定対象に向かって、まっすぐに飛び出してゆくだろう。

「存在のことわりを鮮らかに照らし出せ」

わずかな魔力が、急激に力ある存在へとふくれ上がる。解き放つべきときは、今だ!

「〈鑑定〉!」

明確な形を持つ〈鑑定〉の魔法が、剣に突き刺さり、その存在の奥深くに分け入ってゆく。それはテルミン老師がみせてくれた見本と寸分ちがわない魔力制御だ。

魔力は剣の表から裏へ突き抜けるのではない。そんな薄っぺらな旅を、レカンは命じていない。剣の内部に撃ち込まれた〈鑑定〉の魔法は、深く深くその内側へと突き進み、本質の潜む場所へまっしぐらに向かってゆく。それは宇宙の果てに到達せんとする旅だ。

そして魔力は行き着くべき所に行き着き、明らかにすべきことを明らかにし、すっと消え果てた。レカンはいまだ杖を構えたままだ。

からみ合った糸がするするとほぐれるように、レカンの心に鑑定結果が浮かび出た。

〈名前:彗星斬り〉

〈品名:魔法剣〉

〈攻撃力:中〉

〈硬度:中〉

〈ねばり:中〉

〈切れ味:大〉

〈消耗度:なし〉

〈耐久度:万全〉

〈出現場所:ツボルト迷宮百二十一階層〉

〈制作者:〉

〈深度:百二十一〉

〈恩寵:魔法刃(攻撃力大、切れ味極大、長さ大〜極大)、破損修復〉

※魔法刃:魔力をそそぐと魔法の刃が生成される。長さはそそいだ魔力量による。魔法刃を維持するためには魔力を供給し続ける必要がある。

※破損修復:剣身が損傷を受けた場合、自然に修復される。

「おおおお!」

「読めたかの?」

「読めた! 読めたぞ! この剣が読めた! それだけじゃない。〈深度〉まで読めた!」

「なに? お前の練度では、〈深度〉までは読めぬはずだが」

「だが読めた」

「ふむ。剣一つを〈鑑定〉するのでも、情報の求め方はあまたあり、そのあまたある鑑定項目のなかから明確な目的意識をもって項目を設定して鑑定できるようになれば中級だ。さらにあまたある鑑定内容の意味をことごとく理解し、実戦のなかでそれがどう使われ得るかを深く学び、剣の過去と未来を遠望し、その存在の深みを読み取ることができれば上級だ。普通は上級に達しなければ〈深度〉は読めんのだが」

「だが読めた」

「お前が嘘を言うわけがない。だから読めたのだろうな。不思議なことだが。それにしてもお前の魔力制御は精緻だな。細かなひだまで見事に制御しきっておる」

「ふむ。そうかな」

「待てよ。お前はこの剣を自分で得たのか?」

「当たり前だ」

老鑑定士は少し考え込むふうだった。

「お前は今までも、多くの迷宮に潜ってきたのか?」

「ああ」

「そのせいかもしれんな」

「そのせいとは?」

「お前の体は迷宮の階層を覚えておるのだ。この階層はこう、この階層はこうと、肌で感じておるのだ」

レカンは、この世界の迷宮には、まだそれほどの回数潜っていない。しかも百二十一階層などという深さはこの世界では初体験だし、もとの世界でも二度ほどしか経験がない。また、ツボルト迷宮に潜っていて途中で階層数がわからなくなったことがある。とてもどの階層がどうなどと覚えているとはいえない。だが、この老鑑定士がそう言うのなら、そうかもしれない。

「人間には〈深度〉はない。だが何か〈深度〉に代わるようなものがあるのかもしれん。お前の〈深度〉は、この剣に追いついておるのだ」

そう言われれば、少しふに落ちるものがある。つまりレカンとこの〈彗星斬り〉は、存在として同格なのだ。

考えてみれば、まともな鑑定士が迷宮の深層で探索するわけがない。だから今まで、よほど〈鑑定〉技能を磨いた者にしか〈深度〉は読めなかったのではないだろうか。

「こんなに短時間で〈鑑定〉をきちんと習得したものははじめてだ。お前には鑑定士の才能がある。冒険者などやめて、わしのところに来んか」

「そう言ってもらえることはうれしい。だがオレは冒険者だ。死ぬときも冒険者でありたい。だからその話は断らせてもらう。今日〈鑑定〉のわざを教えてもらったことには心から感謝する」

レカンは立ち上がり、胸に手を当て、深々と頭を下げた。

「〈鑑定〉についてわからぬことがあったら、いつでもわしを訪ねてくるがよい。わが弟子レカンよ」