軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「コグルス領主からの使者ですか?」

「そうだ」

「あたいをコグルスに呼びたいと?」

「そうだ」

コグルス領主からの使いがヴォーカに来た。

領主であるクリムス・ウルバンが直接対応したところ、驚くべきことを使者は言った。

功臣であるザック・ザイカーズ老人が重篤な病にあり、赤ポーションも〈回復〉も悪化をわずかに食い止めるほどの効果しかない。ついては大金貨一枚をお支払いするので、〈薬聖の癒し手〉たるエダ殿にお越しいただいて治療にあたっていただきたい。もちろん旅費と滞在費はコグルスが支弁する。それが口上であった。

「エダ。君の意思をまず聞きたい。ワシはそれを尊重する」

エダは考え込んだ。

ザック・ザイカーズとこの町の関係について、領主クリムスがレカンと話をしたとき、エダもそばで聞いていた。そのときは何のことやらよくわからなかったが、今やレカンはいないのである。自分でその意味を把握し、自分で答えを出さなくてはならない。

覚えている情報を頭のなかで整理していった。だが、整理しきれない。だから口に出してこう言った。

「あたいを呼び出す目的は何なんでしょう」

クリムスもノーマも何も言わない。彼らにも答えがないのだ。

「一つ考えられるのは、本当にザックが病気で、助けを求めているということ」

かみしめるようにエダは言った。

「それとも、あたいをおびき出して捕らえて人質にするつもりかもしれない」

自分などを人質にしてもあまり意味はないだろうが、ヴォーカ領主へのいやがらせにはなるだろう、とエダは思った。この点エダの自己評価は低すぎる。

「あるいは、その両方か」

ほかに可能性はないだろうか。エダは知恵を絞った。

「ほかの誰かに〈浄化〉をかけさせたいのかもしれない。うーん。どう転んでもろくな話じゃないですね」

コグルスに行って自分が幸せになるような未来を思い描くことは、エダにはできなかった。だが、だからといって、この招請を断った場合、どうなるか。

「あちらの領主様が頭を下げて頼んできたのに、それを断っちゃうと、クリムス様の顔がつぶれちゃいますよね」

「エダ。君に何かがあれば、顔がつぶれるどころの話ではない。そしてまた、ワシの都合で君の意志や願いを損なうようなことはしたくない。君の願いを聞いたうえで、最大限それに沿って手を打とうと思う」

エダとしては、クリムスが頼むのなら、コグルスに行ってみてもいいと思った。だがその場合、たぶんすんなりとは帰らせてもらえない。

「うーん。こんなのはどうでしょう」

「ほう。話してみてくれ」

「依頼は承知した。正規の料金である大金貨一枚で、冒険者エダは施療師ノーマの立ち会いと指導のもとで、ザック殿に〈浄化〉をかけることを引き受ける。ただしエダは、薬師スカラベル導師の願いを受けてヴォーカ領主と申し合わせをしている。その申し合わせにより、ヴォーカの町のなか以外で〈浄化〉を使うことができない。したがって、ザック殿には、ヴォーカにお越しいただきたい」

クリムスは目をみひらいた。

ノーマも驚きを顔に浮かべている。

「素晴らしい。素晴らしい回答だ。エダ、素晴らしいぞ」

「そうかなあ。えへへへへ」

「私も驚いたよ。ヴォーカ以外では〈浄化〉を使えないというルールはいいね。実にいい。それは今後とも破ってはならないルールとして遵守すべきだ。しかもそのルールを守らねばならない理由付けとしてスカラベル導師を引っ張り出すとは。見事だよ、エダ」

「えへへへへ」

「よし。今から使者に返答をする。君たちも同席してくれ」

三人は使者に会い、クリムスはエダの提案の通り回答した。

使者は翌朝早くコグルスに帰った。

クリムスは、非常に機嫌がよかった。

面倒事が避けられた、とクリムスは思っていた。

クリムスの考えによれば、治療のためとはいえ、この期に及んでザック・ザイカーズがヴォーカの町にやって来るわけがなかった。常識で考えて、来られるはずがない。もし本当に病気だとしたらなおさらである。エダの提案は、事実上〈浄化〉を断っており、しかし形式上は了承しているという点で素晴らしいものだった。

だが、使者は、すぐに再びやって来た。

その口上を聞いて、クリムスは耳を疑った。

「願いを聞いていただきありがたく思う。さっそくにわが次男リオル・シャルバトーを責任者とし、功臣ザック・ザイカーズをヴォーカに移送する。願わくば奇跡の治療により、かの者に神の恩寵を。イェール。以上が、主君コグルス領主ダリル・シャルバトーの口上でございます」

呆然としながらも、クリムスはかろうじて聞くべきことを聞いた。

「い、いつ、ザック・ザイカーズ殿は到着されるのか」

「は。私が出発したすぐあとにコグルスをたったはずですので、三日後には到着いたします」

まずは宿泊場所を準備しなくてはならない。幸い迎賓館がある。だが世話のできる人間がいない。ろくに掃除もしていない。

だが、〈手当を受けたければこっちに来い〉と呼びつけておいて、相手が本当にやって来たら泊まる場所がない、世話できる者がいないなどということは許されない。

使者を送り出した瞬間から、領主とその部下たちの死にものぐるいの奮闘が始まった。

幸い、薬聖の訪問が決まってあわてていたころに比べて、領主館の人員は倍ほどに増えている。それほど常務が増加しているのだ。敷地のなかに、新しい建物が次々に建っている。その職人も出入りしている。

そうした人員や職人を総動員し、また各貴族家から少しずつ使用人を貸してもらい、領主館は以前とはひと味違う底力を発揮した。