軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「〈深度〉というものを知ってたか?」

「知ってはいました。だけど、迷宮品のランクというか格を表す数値ぐらいに思ってました」

「ふむ」

「レカン殿は、何に驚いておられたんですか?」

「驚いてなどいない」

「では何を心配していたんですか?」

「心配などしていない」

「ふうーん」

「九十階層に行くぞ」

「今日は休養日にしませんか」

「昨日充分休んだろう」

昨日は〈グリンダム〉との共同探索だった。今まで十体の魔獣を二人で相手していたのに、五人で相手するようになり格段に負担度が減った。

それなのに今日は二人で九十階層に行こうというのだ。九十階層には十体の敵が現れる。アリオスが文句を言うのも無理はない。

ところが実際に九十階層に入ってみると、不思議なほどあっさりと十体の敵を倒すことができた。恩寵剣も出た。

「うーん。やっぱり大型個体と普通個体では相当に手応えがちがいますね」

「それもあるが、九十四階層まで潜っているのも大きいだろうな」

「迷宮というのは恐ろしいところですね。それと、レカン殿のその剣も素晴らしいですね」

「やらんぞ」

その剣とは〈オドの剣〉のことだ。前回九十階層の大型個体と戦ったときには、〈ラスクの剣〉を使っていた。今は壊れるのを覚悟で〈オドの剣〉を使っている。

鑑定師の老人との対話で、レカンはこの剣がこの世界で持っている特殊な価値に気づいた。そしてこんな武器を人前で使うのはまずいと思った。

だが、迷宮で戦っているうちに心が落ち着いてきた。

考えてみれば、この剣が持っている機能である〈切れ味付加〉〈威力付加〉〈重量付加〉は、この世界の恩寵剣にもある。三つも一度についているのは珍しいかもしれないが、剣自体の性能は、さほど破格というわけではない。

つまり、使っているところをみられても、異常だとは思われない。

かりに〈鑑定〉をかけられたとしても、恩寵品だということはわかるが、細かなことはわからない。もしわかったとしても、それが付与師による後付けの恩寵だとはわかるわけがない。

そう考えてみると、〈オドの剣〉を使うのに何の遠慮も必要ない。

もう一つ気づいたことがある。〈アゴストの剣〉だ。

ニーナエ迷宮の主と戦ったとき、レカンは〈ザナの守護石〉の守護を最大限に解放して全力の斬撃を女王蜘蛛にたたきつけた。

それなのに、〈アゴストの剣〉は折れなかった。びくともしなかった。普通の剣であれば耐えられずにぽきりと折れていても不思議はない威力だった。

〈アゴストの剣〉の堅牢性は異常に高い。

そのことに、もっと早く気づくべきだった。

ちなみに、レカンが手持ちの剣何本かに〈鑑定〉をかけて試してみても、〈深度〉を読み取ることはできなかった。たしかあの老人は、〈鑑定〉が上級に進めば〈深度〉が読めると言っていた。今のレカンには〈深度〉は読めないのだ。

「よし。次の部屋にいくぞ」

「はい。もう、どうとでもしてください」

この日は結局、九十階層の近場の部屋を十か所制覇した。移動距離が短いと探索はらくだと思った。恩寵品は全部で四つ出た。恩寵のつかない武器も三つ出た。青紫のポーションと赤紫のポーションも出た。

翌三十二日は〈グリンダム〉との共同探索で九十六階層まで進んだ。恩寵武器が三点出て、大金貨九枚で売れた。買い取り所をみわたしたが、テルミンとかいう老鑑定士はみあたらなかった。

三十三日にも共同探索を行った。二部屋で普通個体と戦ってから大型個体に挑み、九十七階層まで進んだ。

三十四日は休養日となったので、アリオスとともに九十階層の普通個体の部屋を十五か所回った。ポーション類の当たり日だった。恩寵剣も一本出た。

三十五日は共同探索で九十八階層まで進んだ。恩寵剣が一本出て、大金貨八枚で売れた。レカンは売却をブルスカに任せ、自分は買い取り所には入らなかった。

三十六日も共同探索を行い、九十九階層に進んだ。レカンはこのまま九十九階層の大型個体を倒して百階層に進もうと言ったが、残る四人から猛反対された。ならば翌日に挑戦しようとレカンは言ったが、これも四人は承服しなかった。

「レカン。百階層というのは、特別なんだ」

「だから早く行ってみたいんだろうが」

「あんたの感覚がわからない。とにかく万全の準備を調える必要がある」

「そうさ。連日の快進撃で疲労がたまってるはずさ。調子がいいから感じないけどね」

「感じないなら気にすることはない」

「ちょっと前から思っとったが、お前さん、ちょっとおかしいのう。じゃからこそこんな無茶な攻略ができるんだろうがのう」

「レカン殿。三十九日まで休養日としましょう」

「そんなに休むと体がなまってしまうぞ」

「四十日に九十九階層の大型個体に挑戦します。いいですね」

結局四人に押し切られ、三日間の休養日をとった。

そして休養日明けの一の月四十日。

〈ウィラード〉と〈グリンダム〉は、無事九十九階層を突破した。

百階層に向かって階段を下りてゆく、その足取りは軽い。

広い階段だが、ほかには誰も歩く人をみない。

言葉はかわさないが、〈グリンダム〉の三人が、わくわくとしているのが伝わってくる。

やがて階段を下りきった。

長い階段を下りきって百階層に足を踏み入れたとき、一行は感嘆の声を上げた。

その階層の様子は、九十九階層までとは、まるでちがっていた。

岩造りの回廊が続いているという点では同じだ。だが、色がちがう。

床も壁も天井も、すべての岩は薄青く光り輝いていた。

ぼうっとした青白い光に照らされ、五人の姿も青みがかっている。

「……綺麗だ」

「別世界のようだのう」

「これが、百階層」

「幻想的な眺めですね」

レカンは、驚きのあまり、凍りついていた。

今、レカンの〈生命感知〉には、〈ウィラード〉と〈グリンダム〉の五人が映っている。

そのほかには、いかなる光の点も映っていない。

「〈図化〉!」

〈図化〉を発動した。これは迷宮の現在階層のすべての構造を表示し、かつ、その階層に存在する魔獣を表示する魔法である。

それによれば、この階層には九の部屋がある。ここまでの九十九の階層には二百あるいはそれ以上の部屋があったことを思えば、その落差に驚くほかない。ただしここまでの部屋はいずれも小さかったが、この百階層の部屋は非常に大きい。それでもたった九しか部屋がないため、ここまでの階層とはちがい、レカンの〈生命感知〉で階層全体を一目にみわたすことができる。

しかし、いない。

魔獣がいない。

〈生命感知〉にも〈図化〉にも、一体の魔獣も映し出されていない。

百階層は、魔獣の存在しない階層だったのである。