軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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耳に聞こえたと一瞬思った。だが、そんなはずはなかった。

〈生命感知〉の基本探知範囲内に人間はいない。であるのに、こんなに大きな声が聞こえてきたということは、これは魔力で発した悲鳴だ。

レカンは〈生命感知〉の探索位置を調整して、悲鳴のぬしがどこにいるかを探った。

〈生命感知〉の探知範囲は直径二千歩の円だが、その円の位置は任意に変更できるのだ。ただしレカン自身から距離が離れるほど映像は不鮮明になる。

(みつけた)(これだ)

レカンは走り始めた。はじめはゆっくりと、そして段々速く。

木々が枝をはりめぐらした森のなかも、〈立体知覚〉を最大限に発揮すれば、まるで遊戯のように走り抜けることができる。

外套の裾がばたばたとはためく。その外套の裾が木々に絡みつかないように計算して走る。吸い込む空気はすべて力に変わる。体の内から力があふれ出てくる。愉快だった。

目的地はもう近い。赤い点は二つだ。つまり人間が二人いる。

その近くに緑の点が五つと青い点が一つある。

青い点は少し大きめで、光も強い。強い魔獣だ。

レカンは走る速度を緩めた。

まだ、この土地の人間と接触したくはない。状況を確認したうえで、可能であれば姿を現さずに立ち去るつもりだ。

足音を消し、姿をみられないよう注意しながら近づいてゆく。

こんもりと木々が茂った場所の後ろまで近づくと、〈立体知覚〉で現場全体を俯瞰することができた。

馬車がある。そのなかに女が二人いる。馬、あるいは馬に似た生き物はおびえていて、御者が必死でなだめている。

馬車の近くには馬が一頭倒れている。そのそばに人が一人倒れ伏している。

一人の男が馬に乗って魔獣と戦っている。

魔獣は、先ほど倒した魔獣と同種のようだ。ただしこちらのほうがずっと大きい。おとなの男の倍ほどの大きさがある。

魔獣は、馬上の男に突進を繰り返している。男は馬の機動力を使って魔獣の突進をかわして剣で斬りつけているが、腰の乗らない打撃しか繰り出せていない。このままでは魔獣は倒せないだろう。

すぐそばに別の男がいて、片足を引きずるようにして剣を振り回しているが、その剣はまったく魔獣に届いていない。

レカンは衝撃を受けていた。

そこには、二人の女と四人の男がいる。

ところが、〈生命感知〉で探知できているのは、女二人だけだ。男四人は、探知できていない。

これは、レカンの常識を根底からくつがえすような出来事である。

(この世界には、〈生命感知〉にかからなくするような能力か器具があるのか?)

驚きに打たれたまま、〈魔力感知〉を発動させた。

〈生命感知〉と〈立体知覚〉は、意識があるときはいつでも発動している。ちょうど目を開ければ物がみえるようなものだ。

〈魔力感知〉は、必要なときにしか発動させない。わずかながら魔力を消費するので、敵から探知されやすくなってしまうからだ。

〈魔力感知〉の結果は、レカンの背筋を凍らせた。

(この男たちは、魔力を持っていない!)

魔力は生命の根源である。生きとし生けるもののすべてに魔力は宿っている。どんな小さな虫であっても、その例外ではない。魔力がないということは、すなわち生きていないということである。

つまりこの男たちは、人間のようであって、人間ではない。人間の姿をした、おぞましいまがいものだ。

レカンが潜む茂みの向こう側では、事態が動いていた。

馬に乗っていた男が魔獣の突進をかわしそこねて落馬した。落馬した男に向かって突進する魔獣に、馬車に乗った女が炎の塊を放った。

(火魔法?)

炎の塊は魔獣の横面を直撃して爆発し、魔獣は悲鳴をあげて立ち止まった。一瞬燃え上がった火はすぐに収まり、ぶすぶすと顔の半分が焦げている。

魔獣は馬車の窓から身を乗り出している女をにらみつけると、まっすぐ馬車に向かって突進した。

レカンはそのときすでに飛び出していた。魔獣が馬車の女を標的とするだろうと感じたとき、思わず走りだしたのだ。

すさまじい勢いで魔獣が突っ込んでくる。男たちが怒声をあげている。今にも馬車が魔獣に破壊されようとしたとき、レカンが馬車の後方から飛び出し、魔獣の横をすり抜けた。

まっすぐに馬車をめがけて突進していた魔獣の軌道が左にずれ、後ろの木陰に飛び込んでゆく。レカンは魔獣の脇を駆け抜けたあと、速度を落として立ち止まった。

男二人は怒鳴るのをやめ、あぜんとしている。わずかに時間を置いて、馬から転落した男が身を起こし、そこでレカンの存在に気づいた。

男は何かつぶやいたが、その言葉の意味はわからなかった。

レカンはじっと魔獣のほうをみている、と彼らは思っているだろう。それは正しい。ただし、レカンは肉眼ではなく〈立体知覚〉で魔獣をみている。と同時に、三人の男と馬車のなかの二人の女を油断なくみはっている。戦闘中に後ろから襲われた回数は数えきれない。ましてこの者たちは味方というわけではない。

ばきばきと細木を折りながら魔獣が姿を現した。

左前足がない。先ほど、すれちがいざまにレカンが斬り落としたのだ。だから魔獣は馬車を直撃しなかったのである。

ゆっくりと、レカンは魔獣に近寄った。

(よし)(いける)

最初の一撃で魔獣を殺してもよかった。しかし一撃でとどめをさすことができなかったら、馬車が被害を受ける。だから足を狙ったのだ。それなら断ち斬れないまでも、進行方向を変えられるからだ。

魔獣は凄まじい吠え声をあげると、いきなり突進してきた。片足がないとは思えないほどの速度であり勢いだ。これほどの暴力的な攻撃が、わずかにでも体をかすめれば、人は致命的な傷を負うだろう。

レカンは左手前にすっと身をかわし、右手に持った剣を一閃させた。

地響きを立てて魔獣は地に伏した。

その首筋は、上から切り裂かれていた。この魔獣が何と呼ばれているのかレカンは知らないが、この種の獣の首の皮は強靱である。下から突き上げるのならともかく、上から切り裂くことは難しい。

レカンは、あえて難しい技に挑んだのである。この魔獣と自分と、どちらが強者であるのかを、はっきりと示したといってよい。