軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14

14

「ではノーマ殿。今後は、またスカラベル導師がご自身に〈浄化〉をかけて、問題ないのですね?」

「はい。そうだと思います。これについては前例がなく、父の残した推論をもとに推論するしかないのですが、スカラベル導師のお体の状態が完全に結晶化を脱したことはまちがいありません。抵抗もいったん消えたと考えられます。となれば、王国最高峰の〈浄化〉が害になることなどあり得ません」

「あなたのお言葉は、わしたちの希望ですわい。本当に得難い人にお会いすることができた」

「私こそ、今回の出会いを神々に深く感謝しています」

「ほっほっほっ。王都についたら、すぐに筆写師を一人手配して一年ほどの予定でヴォーカに派遣します。年明け早々になると思いますがの。宿泊はノーマ殿の施療所でかまわないのですな?」

「はい。広さだけはありますから。筆写師殿のお気に召さないようなら、どこか近くに宿舎を探します。あ、それから」

「はい?」

「十年ほどしたら、念のため、スカラベル導師に他人の〈浄化〉をかけさせてください」

「え? いや、しかし、それは」

「王都なら、そしてスカラベル導師やあなたなら、複数の〈浄化〉持ちを集めることができるのではないですか?」

「ああ! なるほど」

「二人より三人のほうがいいのですが、それぞれ魔力増幅の装備を持たせ、青ポーションを用意して、とにかくたっぷりと〈浄化〉をかければいいのです。今回のように結晶化にまでは進んでいないはずなので、エダほどの魔力量がなくても充分問題を解消できます」

「三人ぐらいの〈浄化〉持ちなら、エレクス神殿におりますよ。おっと、これは秘密の話ですがな」

話し込む二人の隣では、ヴォーカ領主クリムス・ウルバンが、にこやかな顔を作って会話の終わりを待っている。大勢の人が出発の時を待ち構えているのだから、内心ではやきもきしているかもしれないが。

「師よ、師よ。本当にありがとうございました」

「それは何度も聞いたよ。達者でおやり。もう来るんじゃないよ」

かりかり、かりかりと、こんなときまで二人の若き薬師はペンを休めない。

シーラは、傍らのエダをみた。

「そうだ。エダ」

「はい」

「あんたに頼みがある」

「うん。何?」

「ジェリコのやつをね、預かってほしいんだ」

「え? べつにいいけど」

「金は持ってるし、自分で好きな果物を買ってたべるから、寝泊まりする部屋だけ与えてくれりゃあいい」

「お部屋空いてるから、大丈夫だよ」

「スカラベル導師。そろそろ人々にお言葉を告げてよろしいでしょうか」

そう声をかけたのは、護衛責任者である王国騎士団副団長ネイサン・アスペルだ。

「そうじゃな。ネイサン殿、頼みます」

「承知しました」

ネイサンは十歩ほど離れ、大きく息を吸って、すさまじい声量で話し始めた。

「皆の者、聞け! これから告げる言葉は、スカラベル導師のお言葉を、そのまま伝えるものである!」

ざわめいていた一行が、しいんと静まりかえる。門までを埋め尽くした町の名士たちや、門の外に立ち並ぶ町の人々も徐々に静まってゆく。完全に静かになったとき、ネイサンは割れ鐘のような声で話し始めた。

「今回の訪問において、われ薬師スカラベルは、恩師シーラ様のご手配により、若返り、健康体となることを得た!」

しいんとしたなかに、かすかなざわめきが起こる。

「これは、シーラ様のお弟子、施療師エダ殿の〈浄化〉によるものである!」

先ほどより大きなざわめきが起きる。段々大きくなり、なかなか静まらない。

「エダ殿は!」

覆いかぶせるようなネイサンの言葉が、ざわめきを飲み込んでゆく。

「われスカラベルの恩人である!」

おおっという歓声に似た声があがる。

「ここヴォーカは、われに新たな命を与えた恩寵の町である!」

わあっと大きな歓声があがる。町の人々にとって、この上なく喜ばしい言葉だ。歓声はなかなか静まらない。

「もしも!」

ネイサンは恐ろしい表情で周囲をにらみ回す。

「エダ殿を傷つけ、踏みにじる者があれば!」

ネイサンの声はいっそう大きく太く強い。

「その者はわれの敵である!」

ここでネイサンは、言葉が人々の頭にしみるまで、少しの時を置いた。

「心せよ!」

人々は、次の言葉を待って緊張している。

「エダ殿の行く道をさまたげることなかれ!」

ネイサンは、さらに息を吸って、力強く言葉を結んだ。

「それがわが願いである。以上!」

誰かがぱちぱちと拍手をした。

なぜ拍手が起きたのかわからないが、スカラベルが健康を取り戻し若返ったことに対する喜びの表明なのかもしれない。

拍手はやがて集う人々すべてに伝わり、しばらくのあいだ続いた。

「ありがとうよ、スカラベル」

スカラベル導師がシーラに深く頭を下げた。

そして頭を起こした瞬間、シーラの姿が消えた。

「師よ?」

辺りを探してもシーラの姿はない。

薬師シーラは、今このとき、永遠に人々の前から去ったのである。

スカラベルはその場にひざまずき、シーラが立っていた場所に向かって跪拝した。

スカラベルの弟子たちが、それにならった。

神官たちもならった。

騎士や従騎士や宰相府の事務官たちまでもが、それにならった。

それから人々は馬車や馬に乗り込み、王都目指して帰途についた。