軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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昼食が終わって談話室に戻ると、花瓶の横に魔道具が置いてあった。

みおぼえのある魔法構造をしている。〈ヤックルベンドの伝声壺〉とかいうしろものだ。

意外に違和感がない。あれは何だ、というような疑問を誰も持っていないようだ。

しかし、こんなに大きな魔石を使っている魔道具は、レカンからすれば非常に目立つ。みつけてくれと言っているようなものだ。

「シーラ、〈ヤックルベンドの伝声壺〉という魔道具を知っているか?」

「知っているよ」

「今この部屋の話も聞かれているんだろうか」

「聞けないよ。だけどいい機会だから、ちょっと実習してみるかね。いったん結界を解くよ」

何かシーラが魔法操作をしたのがわかったが、それが何かはわからない。

「あの伝声壺から領主館にある対の壺に魔力が流れている。みえるかい?」

レカンは伝声壺に意識を集中し、魔力の流れを追った。

「ああ。みえる」

「その流れにあんたの魔力を乗せて、受け取り手の壺に、一気に魔力を流し込んでごらん」

魔道具が放出する魔力に自分の魔力を乗せるのは、かなりむずかしかった。だが、しばらく悪戦苦闘したあと、どうにかこつをつかんだ。

そして一気に魔力を流した。

「あれ? レカン。領主館のほうで、なんか物音がしなかった? それと悲鳴と」

「さあな。知らん」

「大変面白いものをみせていただきました」

「スカラベル導師。今レカン殿がなさったのは、いったい」

結界が解かれたとき、あちらの伝声壺には、この部屋の会話が聞こえ始めたはずだ。誰か知らないが、それを聞いていた者は、身を乗り出し伝声壺に耳を近づけたにちがいない。

「シーラ。何が起きたんだ?」

「一の大きさしかない樽に、十の中身を詰めたらどうなるね?」

「破裂するだろう」

「じゃあ、それだよ」

「なるほど」

薬師は山ほどいる。施療のできる者もそれなりにいるだろう。騎士たちは赤ポーションも持っている。

心配することは何もない。

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その後も活発に対談は進み、夕食の時間が近づいてきた。

四日目の夕食と九日目の夕食は、領主館の大食堂で、神官や薬師たちと一緒にとることになっている。領主も同席する。

そろそろ移動しようかというころ、話がふととまった機会を捉えて、エダが遠慮がちにスカラベルに話しかけた。

「あの、スカラベル様。いいかなあ。じゃなくて、いいですか」

「エダ殿。ご遠慮なく」

「スカラベル様は、シーラばあちゃんに〈浄化〉をかけるために来た、じゃなくて、おいでになられたんだよね?」

「その通りです」

「でも、それはもう終わっちゃったんですよね?」

「まさしくそうです」

「じゃあ、その代わりに一回、一回だけ」

「一回だけ?」

「レカンに〈浄化〉をかけてやってもらえないかなあ」

レカンは驚いた。そんなことは考えてもいなかったのだ。

「あたいの〈浄化〉じゃ、だめなんだ。毎晩かけてきたけど、だめなんだ。あたいの〈浄化〉じゃ、レカンの左目は治らない。固定化とかいうことになってるらしくて、よっぽど上級の〈浄化〉じゃなけりゃ効かないんだって。でも、スカラベル様の〈浄化〉なら」

「固定化、とは?」

スカラベルの疑問に、ノーマが答えた。

「迷宮深層に潜る冒険者たちには、大赤ポーションを飲んでも古傷が治らない場合があることは有名です。それは、赤ポーションの治癒力が固定的であり、かつ連続して摂取した場合には薬効が落ちるなどの制限により、生命の量が大きすぎる患者には治癒効果が届かない部分ができるためであろうと考えられます」

「ふむ、ふむ。興味深い。それは正しいじゃろうな」

「ところが、それと別に、〈回復〉をかけて、確かに治癒効果は現れているのに、傷が消えない場合があります。レカンの左目を調べてみると、昨日お話しした〈書き換え〉とは異なり、肉体の深い部分でその傷を正常な状態として認定する作用が起きているように思われます」

「ある。そういうことは、確かにありますわい」

「それは高度に魔法的な作用なのですが、その仕組みはまだ読み解けていません。私はかりに、その状態を〈固定化〉と呼んでいるのです」

「なるほど、なるほど。勉強になりますなあ。わたしは施療師でもありますが、本職は薬師ですから、そうした働きについてはあまり詳しくは研究できておりませぬ。しかし、わたしの勘違いでなければ、〈書き換え〉にしても〈固定化〉にしても、充分な深度を持った〈浄化〉なら癒すことができるのではありませんかな」

「私もそう考えています。だからエダにも、〈浄化〉が上達すればレカンの左目を治せる可能性がある、と教えたのです」

「そういうことでしたか。もちろん喜んで、レカン殿に〈浄化〉をかけさせていただきますぞ」

「あ、ありがとうございます! よかったねえ、レカン」

左目がみえるようになる。

それが実現したら、どんなに素晴らしいだろう。

確かに左目はみえなくても、〈立体知覚〉があれば、戦闘には不自由はない。

だがやはり、生身の目でみる光景は素晴らしい。

片目がみえなくなったからこそ、レカンは視覚というものの価値をあらためて痛感するようになった。

失われた左目の力を取り戻すことができたらと、心の底では願い続けていたのである。

「レカン殿。では、〈浄化〉をおかけしましょうかな」

スカラベルが杖を取り出した。

そのときレカンは、エダの顔をみた。

喜んでいる。喜んでくれている。レカンのために、喜んでくれている。

だが本当は、エダが自分で治したかったはずだ。そのために一生懸命、毎晩二回〈浄化〉をかけ続けてくれた。そして毎晩、今夜も失敗したと知って、がっかりしていた。

エダはスカラベルに、レカンに〈浄化〉をかけるよう頼んでくれたが、そこには残念さや悔しさは、まったくないといえるだろうか。

「いや。スカラベル導師。〈浄化〉は結構だ」

「ほう? だめかもしれませぬが、かけてみるだけなら損はないと思いますぞ」

「左目がみえないからといって、戦闘に不自由はない。となれば、急いで左目を治さなければならんわけでもない。みえるようになればうれしいがな。まあ、じっくり待つさ」

「待つ、といいますと、何を待つのですかな?」

「オレが宝箱から〈神薬〉を得るか、あるいはエダの〈浄化〉が上達するのをだ」

「ははは。なるほど、なるほど。そういうわけですか。やはりレカン殿はたいしたかたですなあ。普通はそうは考えられぬ」

「え? え? 何? 何のこと? レカン、せっかくのチャンスなんだよ。最上級の〈浄化〉をかけてもらえる機会なんだよ?」

「はっはっは。エダ殿。レカン殿は、わたしの〈浄化〉で治るのはいやだとおっしゃるのですよ。あなたの〈浄化〉で治してほしいとおっしゃるのです」

「えっ? あたいの?」

「さもなければ、〈神薬〉を自力で手に入れるかですな。なるほど、それも冒険者の夢でありましょうなあ。レカン殿は夢に生きられる。よきかな、よきかな」