軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その年若い貴婦人は、スカートの裾を右手でつまんで持ち上げて左にひねり、左手を後ろに回し、すっと腰を落として淑女の礼をした。

「はじめまして。ヴォーカ領主クリムス・ウルバンの長女、スシャーナ・ウルバンと申します」

レカンのなかで、可憐な少女が淑女の礼をする姿は、懐かしいルビアナフェル姫との出会いと重なった。

思わず立ち上がり、テーブルの横に出ると、右手を左胸に当て、左手は本来なら剣が吊ってある位置に当て、左足を半歩ひいてわずかに腰を曲げて一礼した。

「オレの名はレカン。冒険者だ」

体躯雄大で野性味にあふれるレカンがみせた優雅な礼容には、神話的な美しさがあった。

スシャーナは頬を染め、しばしうつむいた。

レカンはスシャーナに、ルビアナフェルの面影をみた。

(今ごろは婚家で幸せに暮らしているだろうか)

実はこのころルビアナフェルは、レカンから受け取った赤い宝玉のために、婚家であるシャドレスト侯爵家で、当初想定されていたのとはずいぶんちがった境遇に置かれていた。赤い宝玉の持つ、この世界の恩寵品にも薬にもあり得ない効果は、ルビアナフェルに劇的な影響を与えたのである。

「驚いたな。レカンは、そんな礼式を心得ていたのか」

「礼をもって接せられれば礼をもって返すものだ」

ということは、レカンの礼容を知らないクリムスは、レカンに礼をもって接したことがないということになる。

「これは手厳しい」

クリムスはわらった。スシャーナもくすりと笑った。

再びソファーに座ったレカンにクリムスは訊いた。

「それにしても、みたことのない作法だ。どこの作法なんだ」

「遠い遠い国の作法だ。名を言ってもあんたは知らないだろう」

「だが知っているかもしれん。教えてくれ」

「ナルームという国だ」

クリムスは考え込んだ。記憶をたどっているのか、何か思考をめぐらせている。

スシャーナはみずから茶を淹れ、テーブルに三人分のカップを置いて茶をそそいだ。そしてクリムスの隣に座った。

レカンがカップを口元に運んだとき、ぽつりとクリムスはつぶやくように言った。

「君は〈落ち人〉だったんだな」

レカンは熱い茶の香りを吸うと、かすかに茶をすすった。

「そうだ」

どうしてナルームという国名を聞いてレカンが〈落ち人〉だとわかったのかは知らない。だが、〈落ち人〉であることは、もはやそれほど秘匿すべきことでもないように思われた。もちろん、クリムスに対する信頼があってのことである。

「そのナルームという国で、君は貴族だったのか?」

どうしてそこまでわかるのかレカンは不思議に思ったが、礼儀作法というのは、ちょっとみたぐらいでは身につかない。実際レカンも、この作法を身につけるのに二か月かかっている。

「ふむ。まあ、依頼達成の必要上、王の養子となった」

「なにっ」

「まあ」

「で、では君は、王族なのか?」

「べつに王族ではない。王の一家でなければ立てない場所で王の警護をする必要があった。それには王の養子になってしまうのが一番早道だっただけのことだ」

「警護の必要から冒険者を王の養子にするという、その理屈があり得ん。君はよほどその王にみこまれたんだな」

「気に入られてはいたな。ところで桃色の髪をした人間ははじめてみた。もとの世界でもこの世界でもだ。珍しいんじゃないか?」

スシャーナ姫は、口にハンカチを当ててうつむいた。

侍女は必死に笑いをこらえている。

「髪粉だ、髪粉。髪に色粉を振っているんだ」

「ああ、そうか」

「君は社交界に出たことがないのか? 若い貴婦人は、ありとあらゆる色粉を髪に振るぞ」

「社交界? それとはまだ戦ったことはないようだ」

「冗談なんだろうな、それ?」

「ああ」

スシャーナ姫は、髪を結い上げている。ということは、成人に達しているということであり、十四歳以上だということだ。

スシャーナ姫が立ち上がって、レカンに礼をした。

「レカン様。先だってはレカン様のお働きにより、命を救われました。そのお礼を、今日やっと申し上げることができます。あなたさまに九柱の大神様すべてのご祝福をお祈り申し上げますわ」

「命を救っただと? そんなことをした覚えはないが」

「レカン。チェイニーの護衛をして、〈神薬〉を無事届けてくれた。その礼をまだ受け取ってもらっていなかったな」

「ああ、あれか。あれはあのときも言ったが、チェイニーの依頼を果たしただけのことで、報酬はちゃんともらっている。あんたたちはオレに対し、何の借りもない」

「あれが呪いだと気づくのが、少しばかり遅すぎた。もっと早く気づいていれば、ニーナエから解呪の恩寵品を取り寄せることもできたのだが。それでもシーラ様が呪いだと教えてくださったので、チェイニーが〈神薬〉を手に入れるのがまにあった」

「解呪の恩寵品だと?」

「あ、いや。恩寵品ではないな、触媒だ。スシャーナのかかった呪いを解くのに必要な触媒をシーラ様はご存じだったが、ニーナエに行っても必ずしも店に在庫があるとはかぎらないし、取り寄せるのがまにあわないということだった」

ということは、シーラは触媒を使った呪術にも長じているのだ。

呪術は、魔力も呪文も使うが、触媒も使い、一般の魔法とはまた別の論理や技術の体系を持っている。

少し興味はあるが、習得するのはおそろしく大変だろうし、たぶんシーラは教えてくれないような気がする。

そういえば、魔法陣を使った魔法は、結局教えてもらっていない。

儀式魔法とかいうものもあるらしいが、教えてもらっていない。

強くなることが目的なら、そういうものには目もくれず、今まで教えた魔法に習熟するべきだと、シーラは考えているのだろう。

そのとき、部屋の外から声をかけてきた者がいる。

「領主様、いらっしゃいますか」

「ああ、いるぞ。何かあったか」

「石工と大工たちが道でにらみ合いを始め、双方の職人が駆けつけて一触即発の状態です。至急、兵士の派遣が必要です」