作品タイトル不明
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「お帰り。さあ始めるよ」
「何を始めるんだ」
「だから体力回復薬を作るのさ。特製のね」
テーブルの上には、調薬用の小皿が十枚と、深皿が一枚置いてある。
「さあ、まず深皿に魔法純水を作るんだよ」
それからシーラの指示を受けて作っていったのは、おそろしく上質な体力回復薬であり、考えられないほどの精度と微妙な作業を要求するものだった。
材料を小皿に出したあとは、手でふれることは許されない。すべての作業は〈移動〉をはじめとした魔法で行うのだ。
薬草を魔法純水に浸して熱するのも魔法で行う。薬効を最大限に引き出すため、きわめて精密な制御が求められた。
一つ一つの作業は、今まで教わったことか、その応用編にすぎない。しかし、要求される完成度の高さが、今までとは隔絶していた。
薬草の薬効が魔法純水に溶けきった瞬間、〈回復〉を込める。そのみきわめには、最大限の集中力を発揮しなければならなかった。
こうして膨大な手間をかけ、たった一個の体力回復薬ができたのである。
「よし。もう一度」
「は?」
「もう一度同じことをやるんだよ。今度はあたしは黙ってるからね」
「いや。もう疲れた。時間も遅い。明日にしよう」
「あたしは今やれって言ってるんだ」
その気迫に押されて、レカンは自分自身に〈回復〉をかけ、もう一度特別製の体力回復薬を作った。
「よし、まあどうにか合格かね。お疲れさん。明日朝、そんなに早くなくていいから、ここに来るんだよ。わかったね」
「わかった」
家に帰るとエダが心配していた。それもそのはずで、深夜といえる時間になっていた。ひどく疲れていたが、エダの〈浄化〉を受けると嘘のように体が楽になった。食事をして寝た。
翌朝少し遅めにシーラの家に行った。
だが、シーラがいない。
(妙だな。来いと言われたから来たのに)
ふと、ジェリコをみた。
ジェリコは、少し困ったような顔つきでレカンをみている。
その手に何かを持っている。
その何かをジェリコはレカンに手渡した。
手紙だ。
二通ある。
一通はレカン宛であり、もう一通は領主宛だ。
レカンは今までシーラから手紙などもらったことはない。
悪い予感を覚えながら、自分宛の手紙を開封した。
〈ちょっと用事ができたから旅に出るよ〉
〈手紙を領主に渡しておくれ〉
〈あとは領主が何をすればいいか教えてくれるはずさ〉
謎のような手紙だった。
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シーラからの手紙を受け取った領主は、頭を押さえてうめいた。
どうも、かなり衝撃的なことが書いてあったようだ。
「レカン。ここに何が書かれているか、君は知っているのか」
「いや、知らん」
「読め」
レカンは手紙を読んだ。
そこには、しばらく町を離れることと、王都からの使者への対応は、レカンを代理人に指名して任せるということが書いてあった。
「王都からの使者?」
「昨日、ワシ宛てに手紙が着いた。差出人は、宰相府の内務書記次官殿だ」
「なんだ、それは」
「ああ、ワシもそう言えたらなあ。宰相府は王国の政治一切をつかさどる所だ。王は命をお出しになり、宰相様がそれを実施される。宰相府こそはこの国の中枢だよ」
「ほう」
「内務書記長官は、王都と国内各都市の治安、地方行政の統括などを担当する、宰相様に次ぐ重職だ。書記次官は、長官の命を受けその業務を実施する役職で、通常一人しか置かれない」
「よくわからん」
領主クリムス・ウルバンは、深い深いため息をついた。
「ワシのような爵位さえない地方小領主が、王都に出向いていって、税の減免や街道整備を嘆願するとき会えるのが、内務書記次官殿の部下の部下のそのまた部下なのだ」
「ほう」
「つまり、この町の命脈をにぎっているのは、書記次官殿の部下の部下のそのまた部下なのだ。書記次官殿の機嫌をそこねれば、ワシの首など簡単に飛ばされる。あるいは、首を飛ばされたほうがましな状況に追い込まれる」
「なるほど。よくわかった」
「どうしてそんなに軽く返事ができるんだ。その書記次官殿が、この町にお出でになるんだぞ!」
「それは大変だな」
「いたた。頭が、頭が痛い。しかも随行者が問題だ。なんと、王都エレクス神殿の一級神官様だ」
「偉いのか?」
「君の首を絞めてやりたくなってきた。いいか、この町にも神殿がある。神殿は領主の直接の支配下にはない。神殿長の権威と影響力は、ときに領主も頭をさげねばならんほどのものだ」
「ほう」
「神殿としては第三番目の序列であるケレス神殿は、正直この町には重すぎる。おかげでワシは、いつも神殿長の顔色をうかがわねばならん。その神殿長は、二級神官だ。一級神官からみればごみのような存在だ」
「ほう。あの老人はごみか」
「言うなよ! 神殿には絶対に言うなよ! そしてケレス神殿の一級神官の上には、いうまでもなくケレス神殿総神殿長がおられるが、ケレス神殿の総神殿長は、序列の上ではエレクス神殿の三級神官と同等なのだ」
「わかりにくいな」
「エレクス神殿の一級神官様ともなれば、もうワシぐらいの地位では、その権力や権威を想像することもできん」
「すごく偉いということだな」
この日何度目かの深いため息を、クリムスはついた。
「とにかく、くしゃみをしただけで、この領地が吹っ飛ぶような大物が二人、やって来るんだ。宰相様のお言葉を携えてな」
「伝言なら、もっと身分の低い者にさせればいいだろう」
「それだけ今回の用事を重くみておられるのだ」
「用事とは何だ?」
「薬師スカラベル導師が、薬師シーラ殿に会うためこの町を訪問なさる、その調整だ」