軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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領主は茶で口を湿してから言葉を続けた。

「ゴルブル領主を訪ねてもらえないだろうか。そしてその短剣をみせてやってもらえないだろうか」

レカンは、少しむっとした。そして、むっとしている自分に気づき、その感情を抑えようと努力した。領主は理不尽な要求をしているわけではない。領主には領主の立場があり、その立場からすると、こういう打診をしないわけにはいかないのだ。そう自分に言い聞かせた。

「ゴルブル領主が、この短剣をオレから奪おうとしない、という保証はあるか」

領主の息子がむっとした顔をした。レカンの言葉の何かが気にさわったようだ。

だが、さすがに領主は表情を変えることなく、レカンの質問に答えた。

「ワシがゴルブル伯爵に使者を出す。短剣の所有者である冒険者レカンは、短剣を手放す意志がないことと、そのうえで、短剣をゴルブル伯爵にみせることを承知してくれたのだということを説明する」

それでは不充分だと、レカンは思った。そこで、その思いを言葉にしようと思案した。

「あんたがそう伝えたのに、強引にこの短剣を得ようとすれば、あんたの顔をつぶすことになるんだろうな。だが、ゴルブル伯爵は、あんたの顔を立てるよりも、この短剣を手に入れることのほうを選ぶかもしれん。あんたにそれをさせない手立てがあるか」

「それは……そんなことをすれば貴族としての名誉は失われてしまうが。しかし、なるほど、ゴルブル伯爵がその道を選ばないと、ワシに保証はできんな」

領主は目を閉じて考えをめぐらせた。

「ゴルブル伯爵が、短剣の買い取りや献上を申し出ないと誓えば、冒険者レカンは短剣をみせに訪問する、と使者に言わせることができる」

「他の領の領主にそういう誓いをさせることは、あんたの体面に傷をつけはしないか」

「君の言う通りだ。そんな口出しをすれば、ワシは非礼な人間だということになる。だが、その確約がなければ君がゴルブル伯爵にあいさつをしないし、短剣もみせないとなれば、ゴルブル伯爵としては納得するほかない」

「あんたにとっては、ゴルブル領との関係を改善するチャンスなのに、非礼なふるまいをしたのでは、あんたにとってのうまみが消えてしまうだろう」

「これは……驚いたな。君がそんなことを気遣ってくれるとは」

「べつにそんな約束はさせなくていい。ただし、ゴルブル伯爵がこの短剣を取り上げようとしたら、ゴルブル伯爵は殺す。オレの邪魔をしようとする者はすべて殺す。また、あんたの首ももらう。それさえわかっていてくれればいい」

領主の息子とテスラ隊長は、顔に驚愕を張り付かせて凍り付いた。

領主は、目に力を込めたが、そこに敵意はなかった。

「なるほど。君は迷宮深層を探索する冒険者だ。今そのことを思い知った。君はそれを実現する力を持っているのだろうな」

「そんなことは知らん。オレは命が尽きる最後の瞬間まで冒険者であり、オレの自由を奪おうとする者とは死ぬまで戦う。それだけのことだ」

「そうか。ワシたちの生き方とは、生きる世界とは、あまりにちがうな。だが不思議なことに、今ワシは君をうらやましいと思ってしまったよ」

「領と領民を守るのが領主の仕事だとすれば、あんたはあまりに多くのものを守らなくてはならん。オレは何かに縛られるのがきらいだ。あんたのような責任を抱える勇気はない」

「ははは。ワシをなぐさめてくれているのか? いや、もしかしたら、褒めてくれたのか? 君は意外に愉快なやつだな」

領主は茶を口に運んだ。

「レカンには明日にも金級冒険者の認定式を受けてほしい。そして、わが町の金級冒険者として、できるだけ早く、ゴルブル伯爵を訪問してもらいたい」

「認定式?」

「そうだ。冒険者協会で、領主の名代と神殿長の代理の立ち会いのもと、冒険者協会長から冒険者章を受け取ってもらう」

「 了解した(イェール) 。だが、金級冒険者になったからといって、あんたの顔を立てるために自分の考えを変えることはしないぞ」

「もちろんそうだろうな。ワシとしては、ゴルブル伯爵との会談が、平穏無事に終わることを願うだけだ。この町の金級冒険者であることは、多少は抑制効果を持つだろう。そしてこのことが無事に終われば、わが町の金級冒険者がゴルブル迷宮を二度にわたって踏破したという事実が残る。それはワシにとって、大きな強みとなる」

「冒険者協会には、明日行けばいいのか?」

「明日の午後ということにさせてくれ」

「わかった」

「明日朝、ワシは使者をゴルブルに出す。馬で行き帰りするから、明日中にはゴルブル伯爵に話が通っていると考えてくれ。君はいつゴルブルに行ってくれる?」

「では、明後日行こう」

「大変結構だ。冒険者エダ。君については、リットン隊長がこの町に帰り次第、金級冒険者に推薦したい。受けてもらえるだろうか」

「レカン。どうしたらいい?」

「受けろ」

「うん。領主様。お受けします」

「うむ」

これで話は終わった。

もう帰っていいはずだ。

だが、このときレカンは、この領主とは、腹を割った話ができるのではないかと感じた。賭けになるが、成功すれば、エダのこの町における安全を、一定程度確保することができる。

「ヴォーカ領主であるあんたは、神殿での騒ぎと、ゴンクール邸での騒ぎを知っているだろうな」