軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「では、ここで別れよう」

ここからレカンたちは、北に進む。

ヘレスは、南だ。

南に少し行ったところにビゴーという町があり、そこの領主の息子とは知己なのだそうだ。ビゴーの領主に、自分と女王種の頭と足を、王都に送り届けてくれる手配を頼むという。

「レカン殿」

ヘレスが振り返った。

激戦のあとをかすかに残した、その鎧姿は美しい。

聖硬銀の剣は、女王種のはぎ取りが終わったときさっさと取り返したので、今、腰に収まっているのは、王都から持ってきたという剣だ。

名工の手になるであろうそのこしらえは上品で緻密で、一目で値打ち物とわかる。

なるほど、あらためて迷宮の外でみれば、これは高位の貴族家の娘だと、誰がみてもわかる。

ヘレスはレカンに歩み寄り、右手の手のひらをそっと差し伸べた。

手のひらはおずおずと持ち上げられ、レカンの左胸に、そっと置かれた。

その温かさを味わうかのように。

そしてヘレスは自らの左胸を、左手で包んだ。

心臓と心臓をつなぐ、このしぐさが、いったい何を意味するのか、レカンは知らない。ただ、レカンの顔をまっすぐにみあげるヘレスの瞳が、みたこともないほど透き通っているのを、やさしい気持ちでみつめた。

アリオスとエダは、ひと言も発さずに、別れの儀式をみている。

あまりにちがう、この野獣のような男と高貴な女騎士が人生を交差させる偶然は、もう二度と起こらないだろう。

長い時間のあと、ヘレスはレカンをみつめたまま手を離し、思い出したように口を開いた。

「そういえば、あのふらちな男が、レカン殿をわずらわせようとするかもしれぬ」

「誰だ?」

「スノーだ」

「ああ、あれか」

「あの男は、プライエのパイザルン家の者だと名乗っていた。パイザルン家には父上を通じて手を回し、あの男が貴殿にいかなる迷惑をかけることもできぬよう、処理しておく」

「そうか。助かる」

ヘレスは右膝を地に着けてひざまずき、右手を胸に、左手を剣にあてて礼をした。

そして立ち上がり、別れのことばを告げた。

「さらばだ。レカン殿」

「元気でね。ヘレスさん」

「ありがとう。エダ殿。そしてアリオス殿。あなたたちと過ごした日々は、私の一生の宝物だ」

「ヘレスさん。お帰りになったら、お父上によろしくお伝えください」

「え? ああ」

「こんなすごいおみやげ持って帰ったら、みんなびっくりするよね」

「その通りだ。うふふふふ。これをみたときの叔父上の顔を想像すると。くっくっくっくっ」

「おじさん?」

「そうだ。叔父上は、私がかしこきかたに騎士としてお仕えするのに大反対でな。結婚相手を紹介するから結婚しろ、それがお前の幸せだなどと言い立てたのだ」

「そ、そうなんだ」

「どうしてもお仕えするなら、騎士ではなく侍女としてお仕えせよなどと言い、地位を悪用して、今回のこの無理な条件を突き付けてきたのだ。しかも叔父上が王都と有力都市の冒険者協会に手を回したため、高位の冒険者を雇うことができなかった」

「そんな事情だったんだね」

「だが私は奇跡を成し遂げた。レカン殿とあなたたちのおかげで。叔父上の決めた条件が叔父上を縛る。ぐうの音も出まい。はっはっはっはっはっ」

意気揚々と、ヘレスは去った。

その後ろ姿が丘の向こうに消えるのを、三人はみまもった。

「レカン殿」

「なんだ」

「あ、呼び方が〈殿〉に戻った」

「もしかしたら私たちは」

「うん?」

「ものすごくよけいなお世話をしてしまったんじゃないでしょうか」

「知らん」

26

〈ジャイラ〉からだという袋の一つには、六枚の白金貨が入っており、もう一つの袋には、首飾りが入っていた。

魔法使いヴェータが身に着けていた首飾りだ。

どんな恩寵がついているのか、あとで鑑定するのが楽しみだ。

(やっと帰れる)

レカンは、迷宮探索が好きだ。

強い敵と出会うのが好きで、強い敵と戦うのが好きで、強い敵に勝利するのが好きだ。そして、戦いのなかでおのれが強くなっていくことに、無上の喜びを覚えている。

とはいえ今回の迷宮探索は、いささか疲れた。

いろいろなことが起こりすぎた。

まずは、ぐっすり眠りたい。

家に落ち着いて、しばらくのんびり過ごしたい。

そこまで考えて、はっと気づいた。

(帰れる、だと?)

(家、だと?)

今までにもレカンは、短期間家を所有して住んだことはある。

しばらく一つの町を根拠地にして活動したこともある。

だが、それは、ただの拠点なのであって、いつでも代わりのきくものであり、いつ失ってもかまわないものであった。

ヴォーカは、どうか。

あの町は、悪くない。

領主は少々偏屈だが、能力と信念のある男であり、町の人々は、まずまず幸せに暮らしているといってよい。貧しい者や、理不尽さを感じている者もいるが、必要以上に虐げられているとはいえないように思われる。

神殿も、腐った部分もあるが、それなりの活動はしている。

冒険者協会は、なかなかのものだ。職員の質も悪くない。

チェイニー。

ノーマ。

依頼で会った人々。

そして、シーラ。

そうだ。あの町は、悪くない。

だからあの町に向かう足の運びは、こんなにも軽やかなのだ。

レカンは、二つの世界ではじめて、自分にふるさとのようなものができつつあることを、とまどいながらも受け入れることにした。

「あっ。ヴォーカの町がみえてきたよ! あたいたち、帰ってきたんだ!」

「そうだな。帰ってきたな」