軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14_15_16

14

町に着くころには麻痺も解けたようで、ヘレスは自分の足で歩くと言った。

宿に向かって歩きながら、レカンは失敗に気づいた。

(しまったな)

(スノーにとどめを刺すのを忘れた)

あれは生かしておいては面倒な手合いだ、とレカンは思った。

槍使いも生きているし、六人パーティーだったはずだから、殺した一人を除いて五人の敵を作ったわけだ。

今から引き返してもあの場にはいないだろうし、どこの屋敷なのかレカンは知らない。いずれにしても、誘拐犯から誘拐された女を救うという出来事は、もう終わってしまったのだから、これから戦いに行けば、こちらが襲撃者になってしまう。

この町では、高位冒険者は尊重される。

領主館の晩餐会にも呼ばれたと自慢していた。

つまり、権力者側とつながりがある。

パイザルン家というのがどういう家か知らないが、貴族ではあるようだ。

今回の出来事は、レカンのほうが一方的に悪い、というような話に作り変えられるかもしれない。

ちゃんと事実を話せば通じるかもしれないし、通じないかもしれない。

いずれにしても、面倒なことになる。

そしてレカンは面倒なことがきらいだ。

それに、スノーとその仲間が、いつ襲ってくるかもしれない。

街中で襲われたりすれば、居合わせた人にも被害が及ぶだろう。

(待てよ)

(どうせ襲われるのなら)

どうせ襲われるのなら、迷宮のなかで襲われるのがよい。

迷宮のなかなら、殺しても罪には問われない。

そして考えてみれば、もう、残り日数も少ない。

ここで一気に最下層を攻略してしまい、この町を離れてしまえば、スノーが何を言おうが何をしようが痛くもかゆくもない。

(よし)

(迷宮に行こう)

(そうすればすべてが解決する)

宿に着くころには、レカンはすっかり心を決めていた。

15

レカンとヘレスが宿に着くころには、エダもアリオスも帰っていた。

「これから迷宮に行く」

「突然だね」

「さすが師匠」

「レカン殿の判断に従う」

一行は迷宮に向かった。

ヘレスは、冒険者協会の倉庫に預けてある荷物があるからと、協会に寄った。

そして六の月十八日夕刻、レカンのパーティーは、ニーナエ迷宮最後の探索を開始したのである。

16

一行は第四十階層の入り口付近に〈転移〉した。

レカンは、ヘレスに〈浄化〉をかけるようエダに言った。

エダは、言われた通りに〈浄化〉をかけた。

ヘレスもアリオスも、あぜんとした。

「ま、まさか、〈浄化〉だと?」

「もう驚くまいと決めてたんですが、驚きました」

「この能力のことは内密に頼む」

それから第四十階層を通り抜けた。

戦闘回数は三回である。

レカンは、〈図化〉の能力で、最短のコースを進んだのだ。

この〈図化〉という能力は、地形の細かいところは無視して、進めるか進めないかを示してくれる。それだけではなく、魔獣の位置まで示してくれるのである。

まさに、迷宮探索者のための魔法だ。

夕食をとり、翌朝朝食を済ませた。

「第四十一階層から第四十四階層までの敵は、八目大蜘蛛の上位種だ。ますます硬い。そして魔法攻撃が効かない。いや、効きにくい。毒はあまりはかないが、〈睡眠〉〈即死〉〈破壊〉という、非常に厄介な三つの能力を持っている」

「〈睡眠〉は、今までの魔獣も持ってたよ?」

「まるで効き方がちがうのだ。別物といっていい。ここからの階層に入るには、複数の耐性装備がいるといわれている」

「〈即死〉って、毒なの?」

「いや、毒ではない。呪いだ。距離さえ近ければ、どの方向にもこの呪いは飛んでくる。かわしようもない。だから、呪いをはじく装備がいる」

「〈破壊〉って、何が破壊されるの?」

「金属だ。鎧でも、剣でも、蜘蛛にかまれた物は一定確率で壊れる。砕け散ってしまうんだ。この確率はかなり高いので、かまれたら発動すると思っておかないといけない」

「それだけかな。では、行こう」

一行は第四十階層を出て階段を降りた。

レカンは、〈収納〉から〈ザナの守護石〉を出して装着した。

第四十一階層に入った。

奥のほうに一つパーティーがある。人数は六人だ。

まもなく、最初の敵のいる場所に着いた。

レカンは突撃した。アリオスとヘレスが続いた。

毒も溶解液も石化の白息も飛ばしてこないとなれば、まずは正面から打ち込んでみるに限る。

レカンは振り上げた〈アゴストの剣〉を、魔獣の頭にたたき付けた。

今までの蜘蛛とは一線を画す硬度と強靱さを持った頭だった。

だが、〈ザナの守護石〉による破壊力増大は、その硬度と強靱さを、はるかに上回った。

頭はへしゃげて割れ、蜘蛛は死んだ。

「何が、何が起こったのだ?」

「もう驚くのはやめると、さっきあらためて決めたんですけどね」

「赤紫ポーションか? いや、飲んだようにはみえなかったし、そうだとしてもこれはあり得ない」

「あたいも驚いたけど、レカンだもんね。驚くのに慣れちゃったよ」

「ここからの四階層は、最下層に向けて自分を研ぎ澄ませる階層と思え」

「はい」

「うん!」

「心得た」

第四十一階層では、五度戦闘をした。

昼食をとって、第四十二階層に降りた。

第四十二階層では、かならずしも一撃で沈めることはできなかった。

その場合は、アリオスとヘレスが参戦して魔獣の注意を引きつけ、レカンが二撃目で魔獣を仕留めた。

連携は、うまく働いている。

六度戦闘をして、出口付近で野営した。

「恐ろしい魔獣がごろごろしてる迷宮のなかで、こうやってのんびりたき火をたいて、スープを飲んでるんだもんね。なんか不思議な気分」

「本当にそうですね。迷宮のなかというのは、現実世界ではないかのようです」

「ふふふ。エダ殿もアリオス殿も、ロマンティックだな」

「ヘレス殿には、言い交わしたお相手はおられるのですか?」

「いや、いない」

ひどく立ち入った質問だとレカンは思った。

もっとも高位の貴族にとって、婚姻は私的な出来事ではないのかもしれない。

「私の年で結婚どころか婚約もしていないなどというのは、ふつうあり得ないのだがな。まあそれ以上は訊かないでくれ」

「今まで好きになった人はいないの?」

「はは。そんなことを考える時間もないほど、武芸に打ち込んできたからな。それに、どいつもこいつも女の私に後れをとるような者ばかりだ」

「どいつもこいつもっていうことは、申し込みを受けることはあったんだね」

「はは。まあ、なくはなかったな」

「ヘレスさんだもん。求婚者の百人や二百人はいたよね?」

「さあ、どうだろう。数えていないが、そんな数になるだろうか」

「でも、みんな弱かったんだ」

「話にならんな」

「好きな人はいなかったとしてもさあ、好きになってもいいかな、って思った人、いなかったの?」

「いや……べつに」

「今、ちらっとレカンのほうをみなかった?」

「みていない」

「みたでしょ?」

「みておらんと言っておる」

「レカンはやっぱり悪いやつだね」

「それは同意する」

「何というか、会話に参戦できません」

「肉を食え」