軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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四人の襲撃者は、縛られてから手当を受けた。

ヴェータも意識を取り戻した。

「うちの店の給仕が、カガルからあんたたちの行動予定を訊ねられたそうでな。そのようすが普通じゃなかったというので、ぴんときてなあ、あわてて飛んできたんだ」

そういえば、〈ジェイドの店〉で、第三十一階層に〈印〉を作ったとか、今朝は第三十一階層から探索を始めるというような話をした記憶がある。周りから訊ねられ、隠すことでもないので答えたのだ。

店のあるじであるジェイドは、何度も最下層を攻略したパーティーのリーダーだったのであり、迷宮のあちこちに〈印〉を持っている。襲撃地点は第三十一階層の出口だと考え、第三十二階層の〈印〉に転移して階段を駆け上ってきたのだった。まさかこんなに早く戦闘が始まり、そして終わってしまうとは、予想もしていなかったという。

ジェイドは、カガルたち四人に訊いた。

「なぜレカンたちを襲った? 一人一人、自分の言葉で答えろ」

カガル、タクト、マズー、ヴェータは、順に答えた。

「レカンが反対するので、エダがうちに来てくれねえのだ。これしかねえと思うた」

「〈ジャイラ〉の栄光を守るためには、カガルのやり方しかないと思った」

「エダを仲間にすることを、ヴェータが望んだからだ」

「レカンを殺したら、エダちゃんが一緒に来てくれると思ったの」

短絡的な思考だ。幼稚な考え方といってもよい。

だが、ある意味、非常に冒険者的な思考ともいえる。

迷宮にばかり潜っている冒険者は、問題や障害を力で乗り越えようとする傾向がある。そして力ある冒険者の場合、それはうまくいくことも多い。レカンを殺してエダを奪う。そうすれば何もかもがよい方向に進んでいく。落ち目になりかかった〈ジャイラ〉は、盲目的にその可能性にすがりついてしまったのだ。

ジェイドはエダに訊いた。

「エダ。レカンが殺されたら、〈ジャイラ〉に入ったか?」

「入らないよ。レカンの復讐をする。かなわないまでも、一太刀でも斬り付ける。それで殺されればレカンのところに行ける」

「エダの言葉を聞いたか? お前たちのしたことは、結局無意味だったんだ」

「ああ。そうだな」

そう答えたカガルの顔は、憑き物が落ちたように静かだ。

エダを売れとレカンに迫ったあのときの表情とは、まるでちがう。

タクトとマズーの顔も、落ち着きをみせている。

もはや冒険者として戦うことのできない体になったことが、思い詰めていた心を解きほぐしたのかもしれない。

ヴェータの表情は、よく読めないが、少なくとも怒りや憎しみがあふれた顔ではない。

「レカン。カガルたち四人をどうするつもりだ?」

どうもジェイドは〈ジャイラ〉の命を助けたがっているようだ。

それならそれでもよかった。

もともとレカンは〈ジャイラ〉の四人を殺すつもりだった。それが一番後腐れのない方法だ。だが、今後レカンたちの妨げにならないというなら、べつに殺さなくてもいい。正直レカンは、〈ジャイラ〉がどうなろうと知ったことではない。

それと、エダがこんなふうに思い詰めているのが、少し気になった。確かに迷宮は殺し殺される世界だが、過ぎた憎しみはよくない。恨みつらみを持ち込みすぎると、視野が狭くなり、破滅に向かう。今レカンが〈ジャイラ〉を皆殺しにしたら、それは恨みをはらしたのだとエダは思うかもしれない。それはちがう。

ただし、〈ジャイラ〉の四人を殺さなかった場合、これ以上レカンたちを煩わせないという保証がいる。

だからレカンは少し意地の悪い答えを返した。

「迷宮では人を襲い、殺しても、罪にはならない。だからカガルたちがオレたちを殺すのも自由だ。もちろん、オレたちがカガルたちを殺すのも自由だ。そうだろう?」

「もちろんそうだ。そうなんだが、虫のいい頼みをしてもいいか」

「ふむ。聞いておこう」

「こんなやつらだけどなあ。迷宮に集まる若い冒険者たちにとっては英雄なんだ」

「それで」

「殺さずにすましてもらうわけにはいかんだろうか」

やはりそうだった。ジェイドは〈ジャイラ〉とは長い付き合いだろうし、助けたいと思う理由があるのかもしれない。もしこの申し出を断った場合、ジェイドが敵に回る可能性があるだろうか。

それは脅威だ。

はっきり言って、ジェイド一人の脅威度は〈ジャイラ〉四人にまさる。できれば敵に回したくない。それに、ジェイドを敵に回せば〈ジェイドの店〉に行けなくなるが、それは困る。

「殺さなかったとして、こいつらがオレたちに二度と面倒をかけないようにする手立てはあるのか」

「追放にする。領主と話し合って、二度とこの町に入らせない」

「それが確実に実行できるという保証は」

「俺が保証する。それにこいつらも、もうこの体じゃ冒険はできん。せめて名を守るため、よそに行ってひっそり暮らすことを選ぶだろうよ」

「この町の外で、オレたちが襲われないという保証は」

「最低限の暮らしをよそで始められるだけの金額を除いて、財産を取り上げる。それ以上のことは、今は思いつかん」

ジェイドがそこまでの手間をかけてくれるなら、もうこの件はジェイドに任せてしまったほうがいい。となると、もう一つ気がかりがある。

「ヴェータはカガルに借金があると聞いた。その金額と借金の理由が知りたい」

「えっ? わかった。おい、カガル。聞こえただろう」

カガルの説明によれば、借金というのは、魔法の杖と首飾りなど、魔法の威力を上げるための恩寵品の購入費だった。

ヴェータは母親の生活を助けるため、カガルの誘いに応じて冒険者になった。ヴェータは毎月母親に大金を送っている。そのおかげで、母親の暮らしはすっかり楽になったので、ヴェータは母親のもとに帰りたがるようになった。引き留めるために、カガルは借金を押し付けるような言い方をしたのだという。

先ほどの魔法は、ヴェータが開発したものではなく、杖の恩寵なのだという。杖は〈魔法の迷宮〉と呼ばれるパルシモ迷宮で出たもので、なんと白金貨六枚の値がついていたものだという。魔法威力増大の首飾りも、白金貨二枚で買った恩寵品だ。

「ジェイド」

「なんだ」

「カガルたちの財産のなかから、ヴェータと母親が楽に暮らせる金額をやってくれ」

「わかった。それ以外の金は、あんたに渡す」

「いらん」

「えっ?」

「その金を受け取れば、〈ウィラード〉が〈ジャイラ〉と戦って、〈ジャイラ〉の金を奪ったという事実が残る」

「いや、そんなことは」

「〈ジャイラ〉の名誉を守りたいというのが、あんたの狙いだろう。それなら、〈ジャイラ〉が〈回復〉持ち欲しさに〈ウィラード〉を襲ったということは、おおっぴらにできないはずだ。そうじゃないか?」

「む。それはそうだが」

「オレの願いは、こいつらに二度と煩わされないことだ。この件で何かの利益を得たいとは思わん。復讐したいとも思わん。できるだけ恨みが残らないよう取りはからってくれ」

「わかった。あんたの寛恕に感謝する。こいつらは連れて行く。ヴェータの帰郷も、責任を持って面倒をみる」

「手間をかけるな、ジェイド。よろしく頼む」

「レカン。あんた、いいやつだったんだな」

(よし)

(ジェイドと対立するどころか恩を売れた)

(これなら〈ジャイラ〉をみのがしても釣りが来る)

ジェイドに連れられて出口に向かいながら、レカンのほうに振り返り、カガルが言った。

「すまん」

「ああ」

ヴェータも口を開いた。

「レカンさん。ごめんなさい」

そしていよいよ出口に入るとき、ヴェータがもう一度振り向いた。

「エダちゃん。ありがとう。あなたに会えて、よかった」

見送ってから、レカンは言った。

「よし。食事休憩だ。ゆっくり休んでから、下層に向かう」

「ええっ?」

「本気か、レカン殿」

「帰って休まなくていいの?」

「そういえば、エダ。おめでとう」

「えっ? 何が?」

「さっき、離れた場所からオレに〈回復〉をかけたろう」

「えっ」

「なにっ」

「そういえば、そうだったね」

「どうしてあんなことができたんだ」

「さあ? でも、〈睡眠〉が飛ばせるようになったんだもん。〈回復〉が飛ばせたって不思議ないでしょ」

「いや、そんな話、聞いたこともないですよ」

「離れた場所からの、〈回復〉だと?」

「あれができれば、お前は今までよりもずっと役に立つことができる」

「ほんと?」

「ああ。これはたぶん画期的なことだ。お前は新しいお前になったんだ。だから、おめでとう」

「うん! ありがとう(ナロウ) 、レカン」