軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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血の匂いだけではない。

戦闘音がする。

このすぐそばだ。

あとから入ってきた三人も、何かが起きているのをただちに察知して身構えた。

尖った岩と岩のあいだから、冒険者が一人、おぼつかない足取りで走り出て来た。

レカンたちがいるのに気づいて近寄ってきて、そしてばたりと倒れた。

全身ぼろぼろで血だらけだ。

「ヴェータ?」

ヘレスが知っている相手のようだ。

エダが倒れた冒険者のもとに駆け寄り、レカンのほうをみた。

〈回復〉をかけてもいいか、と訊いているのだ。

レカンは首を横に振った。

「た、助けて」

持ち上げたその顔の右半分はぐずぐずにただれていて、ぶすぶすと煙を噴いている。全身ぼろぼろで血だらけだ。女だ。長い髪の右側が溶け落ちて無残である。帽子の残骸がへばりついている。もし帽子をかぶっていなかったら、もっと悲惨なことになっていたろう。

レカンは素早く大赤ポーションを出すと、女の顔に振りかけた。

多少傷口が回復したようだが、それ以上の効果はない。

たぶんこの女は、赤ポーションをすでに使ったのだ。しかも一個ではなく、二個か三個か。その状態では、赤ポーションの治癒力は発揮されない。

「エダ。〈回復〉をかけてやれ」

「はいっ。〈回復〉!」

エダは待機時間なしに〈回復〉を発動できる。これはレカンでもまねできない。エダの〈回復〉は、レカンの〈炎槍〉に匹敵する発動速度だ。

みるみる女の顔が治癒されてゆく。髪は、残っている部分は奇麗な状態になったものの、なくなった部分は完全に元通りにはならなかった。

「なんて、すごい回復」

ヘレスが驚嘆している。

アリオスは言葉を発さない。自分が命を助けられたときのことを思い出しながらみているのだろうか。

そのアリオスがレカンのほうを向いた。

「行きますか?」

「いや。他のパーティーが戦闘している場に、呼ばれもしないのに手出ししてはならない」

「み、みんな、もう、だめ。戦えない。助けて。みんなを助けて」

レカンの言葉が耳に入ったのか、ヴェータとかいう女が、そう言った。なかなか強い魔力を持った女だ。

「依頼があった。ようすをみて助けられるなら助ける。困難であれば引く」

ここは入り口のすぐそばであり、魔獣に追われても逃げ切ることは簡単だ。

レカンは尖った岩と岩のあいだを進んだ。

三人がそのあとに続く。

「〈 展開(パシュート) 〉」

左手にはめた〈ウォルカンの盾〉を、盾に戻した。

戦闘音は静まりつつある。

さらに進むと広い砂場に出た。

広い砂場の中央には、巨大な八目大蜘蛛がいる。

ひどい状態だ。

右目はつぶれ、左の足二本と右の足一本が欠けている。

腹もごっそり削り取られている。

だがまだまだ動ける。

戦闘意欲は旺盛で、新たな侵入者たちに、しゅうしゅうと威嚇の声をあげている。

「助けがいるか!」

レカンは大声で叫んだ。

かろうじて膝立ちになって起きている大男の戦士が、振り返ってレカンに言った。

「助けてくれ!」

「わかった」

レカンはまっすぐ魔獣に突進した。

魔獣がレカンに溶解液を吹き付ける。

レカンは盾でそれを受け、次の瞬間魔獣のふところに飛び込んで、その頭をたたき斬った。

刃物が通らないと聞かされていた頭部だが、ぐしゃりと大きくへしゃげ、首の付け根の部分がなかば引きちぎれた。

その首の傷口から体液を噴き出しながら、魔獣は音を立てて崩れ落ちた。

「エダ。そいつとそいつに〈回復〉だ!」

「はい!」

九人の冒険者がいた。

そのうち二人は明らかに死んでいる。

残る七人のうち重篤とみえた者二人の治療をエダに任せ、レカンは軽傷の者から〈回復〉をかけていった。

軽傷といっても、そのまま放っておけば死んでしまう状態だ。

レカンもエダも、シーラからもらった細い杖を使って〈回復〉をかけた。

幸いに、命があった七人は、全員危険を脱した。

11

最初に会った魔法使いの女は、〈 尖った岩(ジャイラ) 〉のメンバーだった。

〈ジャイラ〉は、ニーナエ迷宮を三度も踏破したトップグループのパーティーだったが、少し前の探索でメンバーの〈回復〉持ちが死んでしまった。

それでも、第三十一階層に〈印〉をつける依頼はじゅうぶんに果たせると考え、〈 迷子の竜(ペザントオルザム) 〉という六人組新進パーティーの依頼を受けた。

何の問題もないはずだった。

第三十一階層に入ってすぐに出会った蜘蛛に、〈ジャイラ〉は戦いを挑んだ。〈ペザントオルザム〉の者たちには、砂場に入らないよう言い置いて。

〈ジャイラ〉は手堅く戦闘を進め、敵の片目をつぶし、足を三本落とし、あと一息でとどめをさせるところまで持っていった。

魔獣が苦し紛れにはいた毒液を、リーダーの盾剣士カガルがかわした。

その毒液は後ろのほうに飛んでゆき、〈ペザントオルザム〉の剣士トリスの足にかかった。

トリスがなぜ砂場に足を踏み入れたのかはわからない。

何か手伝えることがあると思ったのかもしれない。

これから自分たちが狩ることになる魔獣を間近でみたいと思ったのかもしれない。

理由はわからないが、それはよけいなことであり、やってはならないことだった。

悲鳴をあげたトリスを助けようと、〈ペザントオルザム〉のメンバー五人が砂場に飛び込んだ。

一気に多くの侵入者が現れたので、魔獣は標的をそちらに移した。

六人の若い冒険者が蹂躙されるのを助けようとして、〈ジャイラ〉の四人は連携を崩した。

魔獣の攻撃力は、人間パーティーの防御力を、もともと大きく上回っているものであり、魔獣に力を発揮させない手順と連携によってはじめて、大きな損害も受けず強大な魔獣を倒すことができるのである。

連携を失った〈ジャイラ〉は、その瞬間地獄行きが決まった。

もちろん〈ペザントオルザム〉も一緒である。

そのときレカンたちが入ってきて、彼らは地獄行きをまぬがれたのだった。