軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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4

「おい。あんた。あんたじゃよ」

レカンは食事の手を止めて、顔を上げた。

真っ白な髪と髭を豊かに伸ばした赤ら顔の老人が立っている。人なつっこい顔つきだ。

「あんた、登録冒険者ではないみたいじゃが、馬車の護衛をやる気はあるかの。期間は四日、報酬は大銀貨一枚。晩飯だけは依頼主が準備する。ああ、それから、行き先はヴォーカじゃ」

ヴォーカ。

それはまさに、今レカンが目指している町だ。

この近辺では最も大きな町であり、そこになら腕のいい薬師もいるはずだ。

そして、近くに迷宮もある。

「 イェール(わかった) 。依頼を受けよう。どこに行けばいい」

「その食事を早いとこ食べ終えて、わしについてきてくれ」

食事の残りをレカンは三口で食べ終えて、立ち上がった。

「ほっほ。思ったよりさらに身長が高いの。いい外套を着ておる。それにその剣。相当いい剣じゃの」

今この場にはほかにも何人か旅人がいる。そのなかで最も体格がよく、装備もよいレカンに、この男は目をつけたのだろう。

男の案内で歩きながら、レカンは尋ねた。

「登録冒険者というのは」

「ほ? 何かの?」

「どこで登録できるんだ?」

「そうじゃのう。この辺りで冒険者の斡旋所があるといえば、やっぱりヴォーカかのう。ボイドの町でも登録できるかもしれんが、反対方向じゃからの。小さな町の斡旋所じゃあ登録を受け付けていないこともある。まあとにかく正式に〈冒険者協会〉の看板をかけてる所が安心じゃ。登録はしといたほうがいいぞ。さっきの食堂に冒険者章を首にかけてる者がおったら、わしもそいつに声をかけておったじゃろう」

つまり、それなりに大きな町には冒険者の斡旋所があるのだ。斡旋所のなかでも〈冒険者協会〉という看板をかけている所が正式であり、そこで登録すると冒険者章とやらがもらえるのだ。それを冒険者は首にかける。それは依頼しようとする人間に、自分は冒険者だと宣伝することになるのだ。

もとの世界には冒険者が登録するという制度などなかった。冒険をする者は冒険者と呼ばれるが、ある日冒険をやめれば冒険者でなくなる。それだけのことだった。この世界には登録制度があるという。それなら登録してみるのがよいだろう。

5

「チェイニーさん、おったおった。いい人がおった!」

馬車が今にも出発できる状態で待機していた。

扉のなかは二人乗りで、後ろには荷物がたっぷり積める作りになっている。といっても今はあまり荷物を積んでいない。売りさばいた帰途なのだろう。

「おお、エイフンさん。いい人をみつけてくださったようですね」

チェイニーと呼ばれた小太りの中年男は、人のよさそうな笑顔をみせながら、持っていた茶色の鞄を左手に抱え込み、レカンに歩みよって右手を差し出した。しかたなくレカンも右手を差し出し、相手の右手を握って縦に振った。これは握手という、この世界独特の風習だ。正直なところ、利き腕を握り合うというこの不気味な風習には、どうしてもなじめない。

「これはこれは、歴戦の勇士をお迎えできたようですね。私はチェイニーという商人です」

「レカンだ」

「ヴォーカの町に店を持っておりましてね。護衛の剣士がお二人とも急病で倒れてしまったのですが、どうしても急いで帰らねばならない用事があるので、こうして新たに護衛お二人をお願いした次第です。こちらが」

チェイニーは、馬車に背をもたれさせている若い女を紹介しようとしたが、女は、それをさえぎった。

「あんた。モグリかい?」

「なに?」

「未登録かいって訊いてんのさ」

女は、背中に矢筒を背負い、手には短弓を持っている。

「ああ。まだ冒険者登録はしていない」

「へっ。足、引っ張るんじゃないぜ。あたいはエダ」

そう言いながら、首に巻いた黄色いマフラーの下から何かを引っ張り出した。

銀色の鎖の先に、銀色の小さな金属片がついている。

それをもう一度しまい込んで、軽く握った右手の親指を立てて鼻を横から、ひょいとなでた。

「銀級さ」

この世界の人々の顔はのっぺりとしていて、いまだにレカンには年齢が正確にわからないのだが、この少女はどうみても二十歳前であり、たぶん十五歳ぐらいだ。首に巻いた鮮やかな黄色のマフラーが、いかにも素人くさいし、気配といい所作といい、とても冒険者にはみえない。

短い赤髪は、あちらこちらに跳ね上がっている。燃えるような赤い目が印象的だ。

この少女は魔力持ちだ。しかもかなり強力な魔力を持っている。

それにしても、一つ情報を得た。

冒険者には〈級〉があるようだ。銀級というのが上から何番目なのか、下から何番目なのかはわからないが。

「わしは御者のエイフンじゃ。レカンさん、四日間よろしくのう」

レカンに声をかけた男はそう名乗って御者台に上った。

「では、急がせてすいませんが、さっそく出発しましょう。野営の前に少しでも距離をかせぎたい」

「わかった。オレは馬車の前を歩く。速度は馬車に合わせる。都合のいい速さで進んでくれ」

「じゃ、じゃああたいは荷台に乗ってみはりをするよ」

「それはだめです。エダさん。あなたは馬車の後ろを歩いてください」

チェイニーにたしなめられるのをみて、使えない女だな、とレカンは思った。

帰りにも荷を積んだほうが儲けは大きい。なのに荷台にほとんど荷がないのは、馬車の速度を上げるためだ。つまり、守らねばならない大金か貴重品を運んでいる。あるいは、儲けを捨てても急いで帰らねばならないわけがある。それなのに、荷台に乗って馬に余分な負担をかけようなどとは、護衛としての基本がわかっていない。

しかもこの護衛二人は、依頼者にとってまったく知らない相手であり、いつ強盗に変じるかもしれない護衛だ。護衛同士なれ合うのはもってのほかだし、護衛対象から適当な距離を置くぐらいの配慮はあってしかるべきだ。

もっとも、依頼者側にも隠し球はある。御者のエイフンは魔力持ちだ。護衛が裏切ったときの奥の手というわけだろう。

この世界では魔力持ちは希少だ。その希少な魔力持ちが、レカン自身を含めて三人もそろったことになる。