軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

009 初めての戦闘

――遡ること数十分前。

俺ことレスト・アルビオンが町の外れで鍛錬に励んでいると、偶然にも屋敷を出るエドワードたちの姿が視界に飛び込んできた。

その中にはなんと、ゲームで幾度となく見てきた第二王女シャルロット・フォン・フィナーレと、サブヒロインのエステルまで含まれている。

様子を窺ったところ、どうやら彼女たちはアルビオン家の屋敷からすぐ近くにある『アルストの森』を目指しているようだ。

「おいおい、マジか」

前にも言ったように、アルビオン家ではアカデミー入学まで『アルストの森』への立ち入りが許されていない。

それを承知で出向こうとしている以上、何か特別な事情があるはずだ。

その事情についてはすぐに察しがついた。

おそらく、エドワードたちがシャルロットにいいところを見せたいのだろう。

その程度の理由で王女を危険に晒すのかとも思うが、あの二人ならやりかねない。

父のガドも、恐らくこの暴挙については把握していないに違いない。

とはいえ、だ。

『アルストの森』に生息する魔物のほとんどは低ランク。エドたちでも十分に対処できるだろう。

だからきっと、大事には至らずに済むはず――

「――なんだけど、万が一を考えると気が気じゃないな」

あの森には強力なはぐれ個体が時折出現する。

そんな相手に襲われてシャルロットが命を落とすことにでもなれば、ゲームが始まる前に全てが終わってしまう。

アルビオン家が、一族処刑となってもなんら不思議ではないだろう。

そもそも大前提として、シャルロットは俺自身、ゲームをプレイしている時に大好きになったキャラクターの一人だ。

見捨てるなんて選択肢は初めから含まれていない。

「念には念を入れておこう」

最悪の事態だけは避けたい。

そう決意した俺は、気配を消しながら四人の後を追うことにした。

――――その判断が正しかったことを今、目の前の光景が如実に物語っていた。

危惧した通り、出現したはぐれ個体のガレウルフ。

それをエステルが食い止めたところまではよかった。

だが、逃げる三人のもとに現れたもう一頭のガレウルフを前に、エドワードたちはなす術もなく敗北。

とうとうシャルロットまでもがやられそうになったため、俺がこうして前に出て攻撃を防いだというわけだ。

「うそ……あなたは……」

後ろのシャルロットがそう呟くのを聞き、俺はまずいと感じた。

再度となるが、この時点で俺はシャルロットと出会うつもりはなかった。

できれば素性を隠したいところだが、なんと誤魔化すべきか。

考えに考え抜いた末、絞り出された言葉はというと――

「通りすがりの一般人です」

――という、明らかにふざけた内容だった。

おい俺の頭! もっとちゃんと働け!

「い、一般人? そんなはずが……」

ふざけていると感じたのは俺だけじゃなかったようだ。

困惑するシャルロットに応じてやりたいところだが、今はそれどころじゃない。

「ガルルゥ」

突然現れた俺を前にし、警戒するように唸り声を上げるガレウルフ。

まずはコイツを相手にしなくてはならない。

「話はあとで。先にアレを片付けます」

「は、はい。分かりました」

俺はそう言って、改めてガレウルフに向き直った。

ガレウルフ――『剣と魔法のシンフォニア』にも登場するCランク魔物にして、風の魔法を自在に操る厄介な相手。

素早い動きと多彩な攻撃を得意とし、近距離でも遠距離でも隙がない。

攻守ともにバランスの取れた非常に強力な魔物だ。

今の俺でも真っ向から挑めば、勝率は五分――いや、四割がいいところだろう。

だけどそんな状況の中、俺は不敵な笑みを浮かべていた。

(俺には、ゲームで得た知識がある)

ガレウルフの行動パターンなら全て把握済み。勝機は十分にある。

「さあ、かかってこい!」

「ガルゥゥゥ!」

俺の挑発に呼応するように、ガレウルフが猛然と襲いかかってきた。

その速度は目にも留まらない。

鋭い爪が風を断ち切る音さえ聞こえてくる。

力も素早さも、俺を遥かに上回っているのは明白だった。

だがそれでも、俺は微動だにしない。

(ヤツの力は確かに脅威だが…… 師匠(エルナ) には遠く及ばない)

俺の目標とする最強の剣士と比べれば、まだまだ物足りない。

その事実が、俺の心に不思議な冷静さと、勝利への確信をもたらしてくれる。

「――見切った!」

ガレウルフの動きを完全に読み切り、俺は反撃に転じる。

木剣とはいえ、剛剣のように扱えば充分な破壊力を誇る。

激しい打撃の嵐に、ガレウルフは苦悶の表情を浮かべた。

「グルル……!」

動きが鈍る魔物。戸惑いが隙を生んだ。

そのスキを見逃さず、俺は攻勢に出る。

戦況は少しずつ、俺の優位に傾いていった――

◇◆◇

「……………」

その頃シャルロットは、自分と同年代の少年の戦いぶりに言葉を失っていた。

身体能力や剣技に関して、決して自分が劣っているとは思わない。

にもかかわらず、自分が敗北したガレウルフに対し、少年の攻撃だけが次々とダメージを与えていく。

それを可能としているのが、少年の持つ並外れた洞察力と戦闘センスだった。

なぜか自らを一般人と語った少年だが、その正体が誰かについては既に察しがついていた。

まず服装が、貴族のものとしか思えない程整っている。

そしてシャルロットにとって最も決定的だったのは、彼が持つ木剣だ。

それは彼女がエルナとの特訓時に使用しているものと同じ種類だった。

髪の色こそ 兄たち(灰色) とは違う黒色だが、間違いない、

彼こそがレスト・アルビオン。外れスキル【テイム】を与えられていながら、規格外の実力を有する天才。

(ようやく分かりました……エルナ様がおっしゃっていたのは、彼のことだったのですね)

レストの正体を見抜いたシャルロットは、追い求めていた彼が魅せる戦いぶりを前にして、安堵と興奮に震えていた。

そしてそんな彼女の前では、とうとう戦いに決着がつこうとしていた――

◇◆◇

「ガルルゥ!」

激闘の末に追い詰められたガレウルフは、風魔法の発動に賭けようとする。

だが――

「ガルゥ!?」

ガレウルフは発動に失敗。

俺はその理由を見抜いていた。

(魔法の使用には魔力が必要不可欠。だがヤツは既に、ここまでの戦闘で魔力を大量消費している)

さらにはシャルロットとの戦闘時にも、風魔法を使用していた。

つまり、もう魔法が使えるだけの魔力が残っていないのだ。

(畳み掛けるなら、今しかない!)

俺はそう判断し、とどめの一撃を仕掛けようとした。

その直後、

「ギャウゥッ」

「――――ッ!」

苦肉の策と言わんばかりに、ガレウルフは狙いをシャルロットに切り替える。

だが、俺はそれすらも読み切っていた。

「甘い!」

一足早くシャルロットの前に回り込んだ俺は、力強い踏み込みと共に、全ての力をかけて木剣を薙ぎ払った。

ゴゥ、と空気を押しのけながら加速するその剛剣は、一直線にガレウルフの急所へと吸い込まれていく。

「うおぉぉぉおおおおお!」

全力の叫びと共に、木剣がガレウルフの頭部に命中。

渾身の力で放たれた一撃は敵の脳を大きく揺らしたのち、そのまま巨体を遥か後方に弾き飛ばした。

「ガ、ガルルゥ……」

バタリ、と。

地面に落下したガレウルフは何度か跳ね返った後、静かに唸り声を止めた。

――――俺の勝利だ。

「や、やりましたね……!」

その光景を見たシャルロットから歓喜の声が上がる。

俺も初めて魔物に勝利した喜びを噛み締めたかったが、それよりも先に優先されることがあった。

――そう。

何を隠そう、【テイム】を持つ俺にとっての本番はここからだった。