軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

086 悪役貴族の無双④

【 魔将(ましょう) の 号令(ごうれい) 】のバフを得て、勢いを増す同胞たちの猛攻。

勝利を確信したドゥラークが笑みを浮かべていられたのは、ほんの一瞬のことだった。

「『【 蒼脈律動(そうみゃくりつどう) 】』」

刹那、少年と騎士のオーラが膨れ上がる。

そしてこちら側を遥かに上回るほどの加速とともに、同胞たちを次々と屠り始めた。

「なっ!?」

「速すぎる!」

「いったいどこに――ぐあっ!」

二人の剣士が森の中を駆ける音と斬撃音、そして魔族の悲鳴だけが辺り一帯に響き続ける。

その動きを目で追えているのは、ドゥラークを含めたほんの数人だけだろう。

こちらが【魔将の号令】を発動したにもかかわらず、これまでを超越する実力差がそこには存在していた。

ドゥラークは少年の騎士の動きを視界に収めながら、つーっと冷や汗を流す。

(我の 固有技能(オリジナルアーツ) 》を上回る身体強化だと!? まだ本気を出してはいなかったということか……!)

これは冗談ではなく、手段を選んでいられる状況ではなくなった。

ドゥラークは僅かに震える手で、腰に備えた球状の水晶を握る。

「本来であれば、ここで使うべきではないが……」

これは【魔将の号令】と同様、本来であれば王都突入時――正確には王女暗殺時に発動するはずだった、あの方から預かった秘宝。

通称【 召魔(しょうま) の 刻印(こくいん) 】。

事前に印が結ばれた魔物たちを召喚する最上級のアイテムだ。

使えるのはたった一度限りで、失敗は許されない。

「貴様ら! 命を賭してでも時間を稼げ!」

「「「――――! はっ!」」」

その言葉だけでドゥラークが何をすべきかと理解した同胞たちが力強く応じる。

一人、また一人と味方がやられていく中、ドゥラークは水晶に魔力を注いでいく。

そして、こちらの戦力がとうとう一桁にまで減ろうとしたその時、ドゥラークは手の中の水晶が大きく脈打つのを感じた。

「――――さあ、来い!」

限界まで魔力を注いだ次の瞬間、水晶はパリンと音を立てて割れ、周囲が眩い光に包まれる。

数秒後。

光が収まった時、そこには10体を超える強力な魔物たちが現れていた。

「「「ヴォォォオオオオオオオオ!!!」」」

赤黒い肌を持つ巨躯の鬼――オーガ。

氷の岩石で構成された巨人――フロストトロール。

炎を纏う巨大な魔犬――ヘルハウンド。

鷲と獅子の特徴を併せ持ち、空に浮かぶ魔鳥――グリフォン。

最低でもドゥラークと並ぶAランク中位の実力を有し、最高でAランク上位の実力を誇る強力な魔物が10体以上。

彼らが纏う圧だけで、周囲の空気が大きくきしむほどだった。

「ふは、ははは! なんという威圧感だ! 存在するだけで空気がきしむとは……! だが、これで我々の勝利は確定した!」

興奮の声を上げるドゥラーク。

直後、辛うじて敵の攻撃を凌いでいる同胞たちから歓声が上がった。

「…………」

そして同胞だけでなく、敵もまたこの状況のまずさを理解したのだろう。

戦闘を騎士に任せた少年は、立ち止まりドゥラークに視線を向けた。

奴はようやく自分の失態を理解したのか、慌ててこちらに対して剣を構えようとするがもう遅い。

ドゥラークは口の端を大きく上げ、告げる。

「残念だが、今さら抵抗しようとしたところで手遅れだ! この魔物たちは獰猛さと破壊力だけであれば、我ら以上の存在! これに抗う術など、貴様たちが持っているはずが――」

しかし、ドゥラークがそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。

「――――【 纏装(てんそう) ・ 千里絶空(せんりぜっくう) 】」

少年からその声が鳴り響いた直後、シュンと何かが空を駆ける音が響く。

そして次の瞬間、バタバタと音を立て、数十の破片に切り刻まれた魔物たちの死体がその場に崩れ落ちていき、同時にドゥラークの体には幾重もの切り傷が生じた。

「――――…………は?」

あまりにも想定外の事態に、理解が追い付かない。

体中に走る激痛を忘れるほどの衝撃がそこには存在していた。

……今、何が起きた?

【召魔の刻印】を使い反撃に出ようとした瞬間、目の前に広がったのは呼び出した魔物たちが呆気なく全滅する光景――

そして二振りの剣を振り切った構えのまま立つ、一人の少年の姿だけだった。

考えるまでもなく、答えはたった一つしか存在しない。

あの少年が一瞬で、Aランク上位を含めた魔物たちを倒してみせたのだろう。

――それすなわち、彼がSランクに至る超越者であることの証明。

「あり、えない……」

必死に否定の言葉を叫ぶも、ドゥラーク自身、本当は既に分かっていた。

彼の思考はもはや場の勝敗云々ではなく、目の前の少年ただ一人に支配される。

少年から逃げるように後ずさるも、傷だらけの体を思うように動かすことすらできず、根に引っかかる形で尻もちをつく。

少年はそんなドゥラークを見ても態度を変えることはなく、

「これで終わりか?」

少年の冷たい言葉だけが、シィンと場に響き渡るのだった。