軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

082 ダンスと本音

その後、シャロの手を取った俺は彼女とダンスを踊ることになった。

ただ、ここでちょっとした問題が発生する。

(えーっと……こういう時って、どんな風に踊ればいいんだっけ)

前世ではこういった上流階級のパーティーに参加する機会などなかったため、少しだけ困惑してしまう。

とはいえ、レストは貴族ということもあり最低限の教育は受けているし、記憶を受け継いでいる俺も知識だけなら問題ない。

俺はなんとか、朧げなレストの記憶を頼りにステップを踏み、シャロをリードし始めた。

「…………」

「…………」

しばらくはお互いに無言のまま、ダンスは続く。

リードとしては失格な気がするが、踊りに集中しないと足を踏み外してしまいそうになるため勘弁してもらいたいところだ。

そんなことを考えていると、おもむろにシャロが切り出す。

「なんだか、不思議な気分ですね。レスト様とこうして、一緒に踊っているなんて」

「……ええ。そうですね」

俺は頷く。

『剣と魔法のシンフォニア』では、レストとシャルロットがこうして交流を深めるシーンなど存在しなかった。

どころか、敵対してレストが死ぬきっかけになるほど(直接的な原因はリーベだが)、険悪な仲だったと言っても過言ではない。

それでも今、こうしてシャロと踊っているのはなぜか。

原作のレストではない、俺自身の選択と行動によってシナリオが歪み、彼女との縁が生まれたから。

それが正しいことなのかそうでないのか、今の俺にはまだ判断できないが……

少なくとも、彼女とこうして踊っている事実を不思議だと感じているのは、俺も同じだった。

しかしこれは、あくまで前世の記憶を持つ俺の理由。

シャロがどうして不思議だと感じたのか、その心の内を読み取ることはできない。

「………………」

その後もダンスは続く。

シャロは終始、何かを言いたいけど言い出せないような、そんな複雑な表情を浮かべていた。

普段の活発な姿とも、先ほど感じた大人びた笑みとも違う表情だ。

「あの、レストさ――」

とうとうシャロが口を開こうとした――その瞬間。

ダンスの終了を告げるように、音楽が止まった。

「あっ……」

きっかけを失ったような声を漏らすシャロ。

俺はそんな彼女に向けて言葉をかける。

「シャルロット殿下、今何かを言おうと……」

「い、いえ、何でもありません。それよりも、少しだけ席を外しますね。エステル、ついてきてください」

「え? は、はい、承知いたしました、お嬢様」

そう断った後、近くに控えていたエステルと共にシャロは会場を後にする。

「……ふぅ」

残された俺は、小さく息を吐いた。

彼女が今、何を言い出そうとしていたのか……その内容までは分からないが、きっかけについては予想がつく。

シャロはここ数日――具体的には俺とリヒトの模擬戦以降、どこか様子がおかしかった。

『素晴らしかったです、レスト様。また一つ、背中を離されてしまいましたね』

『――私も負けていられません! 今から約束通り修行を始めましょう! 立ち合い後でも手を抜いてはいけませんからね!』

(あの時はこう言っていたけど……やっぱり、思うところがなかったわけじゃないってことか)

これまでは取り繕えていた彼女の仮面に、今はヒビが入っているようにも見えた。

だからといって、俺から何か言葉をかけてやることはできない。

そうなったきっかけは恐らく、俺の実力が彼女の想像を遥かに超えるペースで上昇したからで……

そしてそれは、絶対に隠し通さなければならない【テイム】によるものだから。

それでも…… い(・) や(・) 、 だ(・) か(・) ら(・) こ(・) そ(・) 。

俺は去っていくシャロの背中を眺めながら、心の中で小さく呟く。

(今の俺にできることは、一つしかない)

こうして俺は、静かに 一(・) つ(・) の(・) 決(・) 意(・) を固めるのだった。

◇◆◇

――その一方。

廊下に出たシャルロットは、先ほどの自分の態度を恥じていた。

(はあ……私はいったい、何をしているのでしょうか。せっかくレスト様と踊れる時間だったのに、余計なことばかりを考えて……)

ここ数日は取り繕えていたはずなのに。

シャルロットは心の中でそう続ける。

こうなってしまったきっかけは、姉――セレスティアと久しぶりに顔を合わせたからだろうか。

シャルロットにとってセレスティアは、幼少期から憧れであると同時に羨望の対象でもあった。

姉は幼い頃から魔法の才が飛びぬけており、【天衣の神子】という最上級スキルを獲得した時にも驚きはなかった。

同時に、シャルロットが魔法ではなく剣に自分の可能性を求めたのも、魔法の領域では絶対に姉には敵わないと感じたからだった。

しかしそんな中、シャルロットに与えられたスキルは【神聖剣姫】。

奇しくもセレスティアと同じ神聖魔法を使えるようになれる最上級スキルであり、それ自体は喜ばしいものの、一生彼女と比べられることが確定した瞬間でもあった。

魔法では姉に、剣技では兄に後れを取りながらも、なんとかエルナのもとで鍛錬を続ける日々。

そんな中で出会った人物こそ、彼――レスト・アルビオン。

外れスキル【テイム】を与えられながら、自分の一歩先を行く天才。

剣友(けんとも) として、これからずっと高め合っていけると思えた相手だった。

しかし、先のリヒトとの模擬戦で、シャルロットの考えは覆されることとなる。

ここ最近、著しく力を伸ばしBランク討伐できるだけの実力を手に入れたリヒト――そんな兄を、レストは圧倒してみせたからだ。

しかも、それだけに留まらない。

それは数日前、レストと一緒に王立アカデミーを眺めている時のこと――

『一刻も早く、強くならないとな……』

――彼は、こう呟いていた。

シャルロットより遥か先にいながら、まだその場所に満足することなく上を目指していたのだ。

なぜ、彼がそれだけの力を得ているのか。

そんな彼とこれからも高め合って行けるのか。

……自分がそばに居続けてもいいのか。

そんな考えが、浮かんでは沈んでいくような毎日だった。

(いいえ、いけません! 今日はティアお姉様の祝いの場なんですから、ちゃんと振舞わないと)

シャルロットは首を左右に振った後、両手でパンッと自分の両頬を叩く。

隣でその様子を見ていたエステルは、驚いたように声を上げた。

「お、お嬢様、大丈夫ですか!?」

「ええ、平気です。驚かせて申し訳ありません、エステル。会場に戻りましょう」

「お嬢様がそう仰られるなら……」

狼狽えるエステルと共に、シャルロットは会場に戻る。

……途中、レストがテイムした犬と視線がぶつかり、ビクッとしてしまう一幕もあったりしたが。

会場に辿り着いた時、シャルロットはいつものような笑みを浮かべることができていた。

「レスト様、お待たせしました! 突然席を外してしまい、申し訳……」

そこでふと、シャルロットは気付く。

「……レスト、様?」

いつの間にか、レストが会場から姿を消していたことに。