軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

073 第一王子リヒト

「ふぅー」

ラルクとの面談を終えた俺は、応接間を出てしばらく歩いた後、深く息を吐いた。

一貴族の子息に過ぎない人間が国王陛下と1対1で話すなど、有難くも恐れ多すぎる状況。

普通の人間なら心臓が口から飛び出すほど緊張し、会話することすらままならないだろう。

俺はゲームでラルクのことを知っていたから幾分かマシだったが、それでも精神的にかなり疲れてしまった。

そんなことを考えながら客人用の部屋に戻ると、シャロが笑顔で迎えてくれる。

「レスト様! もうお済みになられましたか」

「ああ、何とか……突然のこと過ぎてかなり戸惑ったけどな」

「……驚きました。レスト様でも緊張なさることがあるのですね」

ゲーム知識があるだけで、俺だって人間なのだから当然。

どうやらシャロから俺への評価は、こちらが想定しているものと少し異なっている可能性がありそうだ。

そんなことを思うのだった。

その後、エステルが改めて淹れてくれた紅茶をゆっくりと飲んだ俺たちは、場所を移すことになった。

一通りの案内と用件が済んだため、さっそく修行をすることにしたのだ。

修行先としてシャロが提案したのは、意外な場所だった。

「王国騎士団の練兵場?」

俺の言葉に、シャロはコクリと頷く。

「はい。普段は専用の修練場を使っているのですが、今から騎士団の練兵が行われるため、それを見学しながら修行するのはいかがかなと思いまして」

「……ふむ」

すると、エステルが付け足すように口を開く。

「付け加えますと、シャルロット様を含めた王族の方々は普段から騎士団の稽古に参加し、時には任務に同行して学ぶことも多いです」

さすがに、アカデミー入学前のお嬢様が任務に同行することはありませんが……と呟きながら、エステルは続ける。

「レスト様の実力は確かですが、実戦経験の多い騎士団の者たちから学ぶことは幾らかあるかと。ぜひいかがですか!?」

「あ、ああ」

なぜかシャロ以上に強く主張してくるエステル。

そういえば彼女はシャロの専属メイドになるまでは騎士団に所属していて、今でも稽古に参加しているという設定があったっけ。

まあ、その辺りはさておき。

実際のところはエステルの予想と違い、俺はかなりの実戦を重ねてきているわけだが……

それをここで打ち明けるわけにはいかないし、騎士団への興味自体がないわけでもない。

ここは素直に頷くとしよう。

「分かった。それじゃシャロ、案内を頼んでもいいか?」

「はい! お任せください!」

太陽のような笑みを浮かべたシャロに連れられ、俺たちは練兵場に移動するのだった。

――そして、ちょうど入り口付近にやってきたタイミングだった。

ざわざわと、練兵場が騒がしくなっているのが見て取れた。

その様子を不思議に思ったのは俺だけじゃなかったようで、シャロもきょとんと首を傾げている。

「普段とは少し雰囲気が違いますね。何かあったのでしょうか? 悪いことが起きたわけではなさそうですが……」

そして俺たちが練兵場に足を踏み入れると、すぐにその理由は分かった。

人だかりが出来ており、その中心には一人の青年が立っている。

輝く金色の髪に、整った顔立ちと優しげな瞳が印象的だった。

誰に対しても安心感を与えるような柔和な微笑みを浮かべつつ、背筋の伸びた立ち姿からは確かな威厳が感じられる。

(あいつは……)

記憶を呼び起こそうとする俺の前では、兵士たちが青年に向かって楽し気に話しかけていた。

「リヒト様! もうアカデミーからお戻りになられていたのですね」

「今日は稽古にご参加されますか?」

「先日の魔物退治、お見事でした!」

そんな兵士たちに対し、

「はい。姉上の祝賀会が迫っていますし、色々とやることがありまして。稽古にはぜひ参加させていただければと。魔物の討伐については僕だけでなく、皆さんの助けがあってこそですよ」

青年は堂々とした態度で応えていく。

するとその途中、彼の視線がこちらに向き、そして止まった。

「少々お待ちください」

周囲を手で制した後、彼はゆっくりとこちらに歩いてくる。

俺たちの前で止まった彼は、俺――ではなく、隣にいるシャロに向かって微笑みかけた。

「久しぶりだね、シャロ」

その言葉に対し、シャロも笑みを浮かべて一礼する。

「はい、お久しぶりです、リヒトお兄様」

――そう。

シャロを愛称で呼び、彼女がお兄様と言ったことからも分かる通り、彼はシャロの兄である。

名をリヒト・フォン・フィナーレ。

『剣と魔法のシンフォニア』にも登場したこの国の第一王子であり、俺は彼のことを良く知っていた。

リヒトの年齢は俺たちの二つ上であり、現在は王立アカデミーに通っている。

そして王立アカデミーは全寮制であり、それは王族であっても例外ではない。

同じ王都内にあるとはいえ、日々の講義やクエストに尽力する必要があるため、頻繁には戻ってこないのだ。

先ほどの会話にもあった通り、今回は第一王女の祝賀会があるから戻ってきていたのだろう。

どこかで出会う機会はあると思っていたが、まさかこのタイミングでとは。

先ほどのラルクに引き続き、これでゲームの登場キャラクターと連続で遭遇したことになる。

そんなことを考える俺の前では、シャロとリヒトが親し気に話していた。

その途中で、リヒトはふと俺に視線を向ける。

「ところでシャロ、そちらの彼は? 一緒にここへ来たようだけど……」

「っ、よくぞ聞いてくださいました。何を隠そうこちらの方こそ、私の恩人であるレスト様です!」

「そうか。やはり君が……」

なぜか自慢げに告げるシャロ。

彼女の紹介を受けた俺は、一歩前に出て礼をした。

「お初にお目にかかります、リヒト殿下。私はアルビオン侯爵家の四男、レスト・アルビオンと申します」

「リヒト・フォン・フィナーレだ。レスト、君のことはシャロから聞いている。何でも、その年で既にCランクの魔物と渡り合えるだけの実力があるとか。妹が世話になっているようで、兄として心から感謝しているよ」

「……光栄です」

さっきも似たような会話をしたなと思いつつ、そう言葉を返す。

何はともあれ、突然の遭遇ではあったものの、これでひとまず終了――

「……ふむ」

――そう思った矢先、リヒトは手を顎に当て、考え込むような素振りを見せる。

かと思った次の瞬間、彼は俺に真剣な眼差しを向けてきた。

そして、

「これもせっかくの機会だ……レスト、突然で申し訳ないが、ぜひ僕と手合わせを願えないだろうか?」

「…………えっ?」

安堵する俺に衝撃を与えるかのように、リヒトから予想だにしなかった言葉が飛び込んでくるのだった。