軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

006 第二王女シャルロット

――アルビオン家にて、第二王女の来訪が告げられる少し前のこと。

フィナーレ王国の王都。

その中心に聳え立つ王城の一室で、一人の少女が黙々と剣を振るっていた。

その少女の名は、シャルロット・フォン・フィナーレ。

フィナーレ王国の第二王女にして、名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』におけるメインヒロインの一人である。

サラリと伸びる黄金の髪はキラキラと輝き、サファイアのような瞳は澄み渡った蒼を湛えている。

幼さの残る可憐な面持ちからは、それでいて王家の者としての凛とした気品が感じられた。

白い肌に紅潮する頬、スラリとしたその手足は女性らしい柔らかさを感じさせつつ、しなやかな筋肉の存在を主張している。

まさに可憐さと美しさ、儚げさと強さを兼ね備えた、稀代の美少女と言っても過言ではないだろう。

そんな彼女は今、銀髪を靡かせる女性――エルナ・ブライゼルと激しい剣を交えていた。

「いいぞ、シャロ! その調子だ!」

エルナの声が、剣戟の響きを掻き消すように練習場内に木霊する。

「はい、エルナ様!」

シャルロットもまた、気合の篭った声を上げながら踏み込みを繰り返す。

一振り、また一振りと剣を振るうたびに、その動きは鋭さと正確さを増していく。

若輩者ながら驚くべき上達ぶりだ。

(才能に溺れることもなく、努力を重ねる姿勢は流石だな)

エルナは心中で、シャルロットの姿勢を賞賛していた。

シャルロットがスキル【 神聖剣姫(しんせいけんき) 】に目覚めてから、まだ一か月と少し。

それは神聖魔法と剣術に高い補正が掛かる、【剣聖】をも上回る最上級スキルだった。

並の人間ならこの力に溺れ、努力を怠るところだろう。

だがシャルロットは違った。いずれ復活すると言われる魔王を倒すため、彼女は日々鍛錬を欠かさない。

その結果が、同年代からは飛び抜けた実力となって表れているのだ。

それこそ、あのレストとも互角に渡り合えるほどに。

(もっとも、シャロはスキル取得以前から王家の一員として剣と魔法の修行を積んできた。その点を差し引けば、むしろシャロに追いつこうとしている彼の方が常軌を逸しているとも言えるが……)

エルナはそんなことを考えながら、黙々と指導を続けた。

二時間ほど経った頃合いで、ようやく本日の鍛錬メニューを終えることができた。

床に座り込み汗を拭うシャルロット。

隣に立ったエルナが労いの言葉をかける。

「この後は神聖魔法の講義だったか? 王族としての公務もあるだろうに、よく頑張っているな」

シャルロットはその言葉に元気よく頷いた。

「はい! でも、それが私の役目ですから。それにスキルを手にしてから、自分がどんどん強くなっているのを感じられて……頑張るのも苦ではありません!」

満面の笑顔で答えるシャルロット。

その姿からは強い意志と前向きな心が感じられた。

エルナは嬉しくも、一つだけ心配事を感じずにはいられなかった。

今はまだ順風満帆だが、いつかこの意欲だけでは限界が来る時がくるだろう。

そうなった時、多くの者は同年代のライバルの存在によって再び闘志に火を点すものだ。

だが、シャルロットほどの実力者にとってのよきライバルは、はたして現れてくれるのだろうか。

「剣技に限れば、今のところシャロと 彼(・) は互角、と言えるだろうが……」

エルナがぽつりとそんなことを口にすると、シャルロットが不思議そうな顔をして聞き返してきた。

「エルナ様、今なんとおっしゃいました?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ」

「いえ、とても気になります! その彼というのは、以前エルナ様が仰っていた方ですか?」

それは一か月ほど前、レストへ二度目の指導を行った少し後のこと。

彼の成長ぶりに驚いたエルナが思わず彼のことを話題にしたことがあったのだが、それがよくなかったらしい。

どうやら、シャルロットの興味を完全に引いてしまったようだ。

(……まあ、少しくらい話しても構わないか)

エルナはそう判断し、レストのことを簡単に説明した。

アルビオン家の子息であり、シャルロットと同い年の少年。

その少年は類まれなる才能と努力によって、シャルロットと肩を並べるほどの力を身に着けているのだと。

その話を聞き終えたシャルロットは目を丸くする。

「エルナ様がそこまで楽しそうに話されるのを、初めて見た気がします」

「そ、そうだったか……?」

「はい。ますます興味が湧いてきました!」

「だが、彼がスキルを得たのはシャロよりも先のこと。それに君は剣術だけでなく神聖魔法の才もある。そこまで気にする必要はないと思うが……」

エルナはシャルロットの興味をそらそうと試みたが、もはや手遅れだったようだ。

シャルロットの意識はすでにアルビオン家の少年に移っていた。

こう決めたら絶対に曲げない。それもまた、シャルロットの性分の一つだった。

(エルナ様がここまで楽しそうに語られるお方が、どんな人物なのか……気になって仕方ありません!)

そして。その日の夜――

「お父様、アルビオン家に行かせてください! エルナ様がおっしゃっていた少年に、直接お会いしたいのです!」

シャルロットは国王である父に強い口調で申し入れ、アルビオン家への訪問が決定する。

しかしこの選択が、やがて思わぬ事件の発端となることを、シャルロットはまだ知る由もないのだった。