作品タイトル不明
023 剣友訪問
ノワールをテイムした翌日。
俺は屋敷の一室でシャロの到着を待っていた。
先日、ガレウルフとの激闘を繰り広げた後の深夜に約束した、例の 剣友(けんとも) 修行を行うために彼女が赴いてくると連絡があったのだ。
「昨日ノワールをテイムして一段落着いたところだったし、ちょうどいいタイミングだったかもな」
ずっと根を詰め続けるのもあまり良くないだろう。
そんなことを考えていた、まさにその時だった。
「レスト坊ちゃま、お客様がお見えになりました」
「ああ、分かった」
使用人が入り口に現れ、客人の到着を告げる。
俺はそそくさと部屋を出て屋敷の玄関へと急いだ。
するとそこには、既にガドとエドワード、シドワードの三人の姿があった。
(ん? 当主のガドがいるのはまだ分かるが、あの二人までなんで……?)
俺の到着が遅れたことが面白くないのか、三人の視線が冷たく突き刺さってくる。
そのタイミングで、シャロと数人の付き添いが屋敷に入ってきた。
サラリと伸びる黄金の髪と、サファイアのような澄み切った蒼色の瞳は相変わらずの美しさを保っている。
ゲームで何度も見てきた顔ではあるものの、現実で見るとここまで違うのかと改めて実感する。
ちなみに付き添いの中には、青髪の使用人兼護衛であるエステルの姿もある。
彼女もまた、凛とした振る舞いと女性らしい容姿が調和し、ゲーム以上の魅力を醸し出していた。
「本日は突然の訪問を受け入れてくださり、まことにありがとうございます」
そう告げながら、華麗に礼をするシャロ。
対してガドは、取り繕った笑みを浮かべながらそれに応じる。
「い、いえいえ。殿下であればぜひ、いつでもいらっしゃってもらえればと」
「あら、そう言っていただけると助かります。それでは今後もぜひ!」
「え、ええ、もちろん……」
ピクリと頬を引きつらせるガド。
ゲームをプレイし尽くしてきた俺には分かる。今のシャロの言い方は社交辞令に聞こえて、実は本気で言っているのだと。
ふとシャロの視線が、こちらに向けられる。
そもそも今日、彼女と特訓の約束をしていたのは俺なのだ。
シャロが表情を緩め、今から話しかけてこようとしているのが手に取るように分かった。
だがその寸前、意外なことが起きる
なんとエドワードとシドワードの二人が、ぐいっと前に出てきたのだ。
「シャルロット様、本日も私たちとお茶会はいかがですか? 先日の件、あらためてお詫びをさせてください」
「その後は以前のように、殿下と私たちで剣の特訓を行うのはどうでしょう?」
これを言うためにコイツらも待っていたのか。
どうやらまだ王家に取り入ることを諦めていないようだ。
その諦めの悪さだけは、ある意味で称賛に値するかもしれないが……
唐突な提案に、シャロは明らかに困惑した表情を浮かべた。
「申し訳ありません。本日お約束していたのはレスト様でして……そちらはまたの機会にぜひ」
先ほどまでの口調とは打って変わって、これは完璧な社交辞令だ。
さすがにそれはエドワードたちにも伝わったらしい。
彼らは悔しそうに唇を噛みしめると、チラリと俺を睨みつけてきた。
(居心地が悪い。とっとと移動するとしよう)
俺は貴族然とした表情を作ると、失礼のないようシャロに話かける。
「えっと、それではシャルロット様、さっそくですがご案内させていただきますね」
「はい! よろしくお願いします、レスト様!」
シャロとエステルを連れ(他の使用人たちはシャロが滞在する部屋の確認をしに行っている)、俺は大修練場に向かうのだった。
普段は立ち入りが禁じられている大修練場だが、今日はシャロが使用するとのことで俺にも許可が出されていた。
さすがに王女を小修練場に案内するわけにはいかないのだろう。
大修練場に辿り着くや否や、シャロは先ほどまでの取り繕った笑みを崩し、一気に俺との距離を詰めてきた。
「レスト様!」
「っ」
ぐいっ、と身を乗り出すように顔を近づけてくる。
思わず後ずさりしてしまうと、シャロは不満げに頬を膨らませる。
「どうして先ほど、私をシャルロット様と呼んだのですか? シャロと呼んでくださる約束ではありませんでしたか」
「いや、それはその……」
思わず言葉に詰まる俺は、ちらりと隣にいるエステルに視線を向けた。
あの時とは違って他の人間がいる前だったし、ガドたちもいたから、つい遠慮してしまったのだ。
そんな俺の意図はエステルにも伝わったようだ。
彼女はごほんと一つ咳払いをする。
「ご安心を、レスト様。そちらの事情については、既にお嬢様からお聞きしております。何でも、剣友……? となった暁に愛称で呼び、かつ普段の口調で話されることになったのだとか。他の者たちがいる場ではともかくとして、私の前では遠慮なさる必要はございません」
どうやらエステルも剣友という呼称に疑問を持っているようだが、それはさておくとして。
エステルがこう言っているなら……
「分かったよ、シャロ。改めて今日はよろしくな」
「はい、レスト様!」
そんな風に挨拶を交わし終えた俺たちは、いよいよ特訓を開始することになった。
するとふと、シャロが何かを思い出したように切り出してくる。
「そういえば以前、エルナ様とお会いしたときに伺いましたよ。レスト様が、エドワード様たち二人との決闘に勝利したと! さすがはレスト様です!」
「あ、ああ、ありがとう」
目を輝かせ、見るからにテンションの上がっているシャロ。
その様子から察するに、決闘に至るまでの詳しい経緯までは聞いていないようだ。
もし聞いていたら、彼女の正義感の強さを考えると間違いなく憤慨していたはず。そこはエルナも理解しているだろうから、さすがに説明を割愛したのだろう。
「ですが、私もこの二週間で鍛錬を積んでまいりました。レスト様にも、簡単に負けるつもりはありませんから」
「……それは楽しみだ」
そんな会話を交わした後、俺たちは立ち合いを始めることにした。
念のためエステルが審判を務めてくれることになり、木剣を手にした両者が向かい合う。
「それでは、始め!」
エステルの合図で、立ち合いの火蓋が切られるのだった。