作品タイトル不明
018 テイム可能数の更新
――『アルストの森』の調査を開始してから、早くも一週間が経過した。
次々と現れる魔物をガレルと共に討伐し続ける日々。
時にはガレルの時のようなはぐれ個体が出現することもあったが、今の俺たちの敵ではなかった。
多くの魔物を倒したおかげか、この短い期間で俺のレベルは飛躍的に上昇した。
同年代の者たちとは既に歴然の差が生まれているだろう。
いや、それどころかアカデミーに通う大半にも優っているはずだ。
そして本日もまた、いつものように森で汗を流していたのだが――
「……ふぅ、こんなところか」
目の前に積まれた魔物の死体を眺めながら、俺はゆっくりと息を吐いた。
初めこそレベルアップに歓喜していたものの、徐々にペースが落ち始めている。
今日はとうとう一度もレベルが上がらなかった。
俺の実力が上がりすぎたせいで、この辺りに出現する魔物ではもう経験値を稼げなくなっているのだろう。
「ただ素振りするよりかは実戦の特訓になるし、風魔法の特訓も思う存分できるから悪くはないんだが……もう少し手応えが欲しいところだな」
これ以上レベルを上げたければ、中層以降に挑む必要がありそうだ。
ガドからの許可はもらっていないが、黙って行ってしまってもいいかもしれない。
そんな思いを抱えつつ、今日のところは切り上げて屋敷に戻った、その直後のことだった。
「レスト。明日からは、より奥の範囲も調査するように」
なんとまたもや、ガド直々の指令が出た。
浅層を難なく調査する俺に怒りを覚えているのか圧が強いが、そんなことはどうでもいい。
またしても最高のタイミングでガドはきっかけをくれた。
これで誤魔化す面倒もなく、堂々と中層へ入ることができる!
一応、表面上は嫌そうな顔を浮かべて……
「こ、この先もですか? 出現する魔物の強さも上がると思うのですが……」
「ああ、そうだ。これも全てはお前に期待してのこと。分かってくれるな?」
「……はい。承知しました」
俯くようにして答えると、ガドは満足げに鼻を鳴らす。
なんとも分かりやすい奴だ。こんな奴が本当に貴族としてやっていけてるんだろうかと少し心配になってきた。
まあ、そんなことはどうでもいい。
明日からは中層に挑める喜びを抱きつつ、俺は執務室を後にするのだった。
◇◆◇
そして迎えた翌朝、俺はガレルと共に意気揚々と中層へと向かった。
浅層ではEランク下位からDランク中位の魔物が多かったが、中層ではCランク上位の個体も出現する。
――だが、そんな相手でも俺たちには物足りなかった。
一切苦戦することなく、俺とガレルは魔物たちを討伐していく。
いつの間にか俺はBランク級の実力を身に着けていたみたいだ。
「よし、魔物のランクが上がったおかげで、レベルアップのペースも戻ってきたな」
「バウッ!」
手応えを感じて頷くと、ガレルも嬉しそうに応じてくれる。
俺はガレルの頭を撫でると、引き続き魔物を討伐していくのだった。
――――そうして、順調にレベルを上げながらさらに一週間が過ぎた頃。
予兆もなく、突如として そ(・) れ(・) が姿を現した。
「ガルァァァァアアアアア!」
森を震撼させんばかりの咆哮が木々を揺らす。
そこから姿を現したのは、右手に巨大な棍棒を持つ一つ目の巨人――サイクロプスだった。
Bランク中位指定の強力な魔物だ。
『剣と魔法のシンフォニア』に登場した時もかなり厄介な敵だった。
「ここに来てはぐれ個体か……」
息を呑みつつも、俺は迎え撃つ覚悟を決めた。
「いくぞ、ガレル!」
「バウッ!」
俺の檄にガレルが力強く応える。
次の瞬間、俺たちは一気にサイクロプスへと迫った。
「ウィンドショット!」
俺が放った風の塊が、サイクロプスに直撃する。
だが初級魔法では火力が足りなかったのか、その巨体に大したダメージを与えることはできなかった。
それでも意識を割くことはできたようで、敵の巨大な一つ目がギロリと俺を睨む。
その瞳に殺気を感じて、俺は思わずニヤリと笑った。
「今だ、ガレル!」
「ガルゥ!」
「!?」
サイクロプスの死角から、ガレルが獰猛に襲いかかる。
反射的に棍棒を振るうサイクロプスだが間に合わない。
結果、ガレルの鋭い牙が容赦なくサイクロプスの右腕に突き刺さった。
「ガァァァァァァァ!?!?」
棍棒を取り落としながらサイクロプスが苦痛の悲鳴を上げる。
その一瞬の隙を見逃さず、俺は懐に潜り込むと渾身の一撃を叩き込んだ。
「――――【 纏装(てんそう) ・ 風断(かぜたち) 】!」
風を纏った木剣が巨人の分厚い皮膚を容易く切り裂く。
だが、それでもサイクロプスは倒れない。
痛みに耐えながら、その一つ目を俺に向けてくる。
次の瞬間、眼球に眩い光が灯った。
「っ! あれは……【 ア(・) イ(・) ビ(・) ー(・) ム(・) 】!」
アイビーム――それはサイクロプスが持つ代表的な 技能(アーツ) だ。
文字通り目からビームを放つ技であり、一見ネタのようにも思えるのだが、この威力がバカにできない。
ゲームにおいても、油断したプレイヤーが何人もこの技を受けて敗北したという。
(さて、どう対応するか)
とはいえ、俺は既にアイビームの危険性を知っている。
タイミングを見計らえば躱すことも難しくはない。
だが俺は、あえて真正面から迎撃することにした。
両手を前方に突き出し、体内の魔力を限界まで高めていく。
この数日の間に覚えた新魔法を使おうと考えたのだ。
「これまでは雑魚相手にしか試せなかったからな。実験台になってもらうぞ!」
挑発するように告げると同時に、サイクロプスがアイビームを放ってきた。
眩い魔力の奔流がまっすぐこちらに向かってくる。
それを見据えながら、俺は全力で叫んだ。
「――サイクロンブラスト!」
風属性の中級魔法、サイクロンブラスト。
渦巻く風の奔流を解き放つ、貫通力と破壊力に特化した一撃だ。
サイクロプスのアイビームと、俺のサイクロンブラスト。その二つがちょうど両者の中間地点でぶつかり合った。
一瞬の均衡。揺れる大地。
だがすぐに、風の奔流がアイビームを押し返し始めた。
すると見る見るうちにアイビームは霧散。
なおも加速して突き進む風の奔流が、サイクロプスの一つ目に直撃した。
「ガァァァアアアアアア!」
堪らず悲鳴を上げるサイクロプス。
生まれる最大の隙。指示を出さずとも、ガレルは既に動き出していた。
「ガルルゥ!」
「――――――………ッ」
いつの間にかサイクロプスに肉薄していたガレルは体を駆け上がり、そのまま鋭い牙で巨人の喉笛を引き裂いた。
それがトドメとなり、サイクロプスは断末魔の声を上げることすら叶わずその場に崩れ落ちていく。
かくして、俺とガレルはサイクロプスに完全勝利したのだった。
「ふう、何とかなったか」
息を整えた後、俺は今回の功労者であるガレルの頭を撫でる。
「よくやったな、ガレル」
「クゥゥン」
ガレルは嬉しそうに鳴き声を上げる。
その直後だった。
体中が軽くなるような感覚――レベルアップが発生する。
強敵を倒したのだからそれは不思議でないのだが、重要なのはここからだった。
俺の前にメッセージウィンドウが現れる。
『レベルが規定数値に達しました』
『テイム可能数の上限が更新されます』
『1/1→1/2(現時点で、あと1体まで使役可能です)』
「っ! きたか……!」
そのメッセージを見た俺は、歓喜に打ち震えながらそう零した。
これでとうとう、二体目のテイムができるようになった。
どの魔物をテイムするかは以前からもう決まっている。
あ(・) の(・) 魔(・) 物(・) がいるのは『アルストの森』深層。
ガドからはまだ入場許可が出ていないが、そんなことは知ったものか。
「ガレル、今日はゆっくり休んでおけよ。明日戦うことになるのは、これまでで間違いなく最強の相手なんだから」
「ガウッ!」
ガレルにそう言葉をかけつつ、俺は改めて気合を引き締め直す。
俺が明日、テイムを試みる魔物。
それはこの国に伝わる伝説の存在―― 竜(・) だ。