軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44. ハロルド様との対面

馬車はゆるやかな坂道を上ったり下りたりしながら小一時間ほど進んだ。「そろそろ屋敷が見えてくる」とクライヴ様が言ってからすぐに、視界がぱっと開けた。

その瞬間、私は思わず息を呑んだ。

(すごい……なんて壮麗なの……)

前方にそびえ立つサザーランド公爵家の本邸は、もはや城と言っても差し支えないほどの巨大な石造りの建物だった。うちの領地の屋敷とは比較にもならない。

屋敷の長い歳月を物語るような、どっしりとした深い灰色の堅牢な石壁。そこに艶やかな漆黒の石が規則的に組み込まれ、重厚さの中に洗練された美しさが漂っていた。

中央には高くそびえる塔があり、その両側に、翼のように伸びた左右対称の建物。青みを帯びた黒い屋根が、朝の光を受けて鈍い輝きを放っている。

厳(いかめ) しい雰囲気の公爵邸だけれど、門へと続く道は美しく整えられ、季節の花々に彩られていた。

重厚な鉄製の門の前には、公爵家の衛兵たちが整然と並んでいる。彼らは馬車の到着に合わせ、一斉に槍を胸の前で斜めに構えた。

(ここが、サザーランド公爵家の本邸なのね……)

門が開かれ、馬車は石畳の上をゆっくりと滑るように進む。緊張で固まっている私の隣で、クライヴ様がそっと手を包み込むように握ってくださった。

「そんなに固くならなくていい。大丈夫だ。俺がいる」

「は、はい」

低く穏やかなその声に、心が少し落ち着いた。

そしてついに、馬車は大きなアーチ状の玄関ポーチの前で停止した。

重厚な扉の前にはすでに執事らしき人と侍従たちが整列している。

私たちが馬車から下りると、控えていた執事が静かに歩み出た。五十代ほどの、白髪交じりの髪をきちんと撫でつけた、背筋の伸びた痩身の紳士だ。

「お帰りなさいませ、クライヴ様。ようこそお越しくださいました、ハートリー様」

「ああ。兄上は変わりないか」

「はい。つつがなくお過ごしでございます。ハロルド様には、ただ今ご来訪を伝えてまいります」

私たちに向かって恭しく礼をした執事は、そう答えると屋敷の中へと入っていった。

従者から荘厳な空気の漂う応接間に案内され、ソファーに座りしばらく待つ。やがて背の高い男性が私たちの前に現れた。

その人物を見た瞬間、心臓が大きく音を立て、私は思わず息を呑んだ。

クライヴ様とよく似た、端正な面差し。ハロルド様だとすぐに分かったけれど、その雰囲気はまるで違っていた。

白磁のように透き通る肌。クライヴ様よりわずかに細い顎の線は、どこか儚げだ。触れれば壊れてしまいそうな繊細ささえ漂わせている。

彼は肩にかかるくらいの髪を、後ろで緩く結い一つに束ねていた。クライヴ様と同じ黒髪だけれど、ハロルド様の方が淡く薄い色味に見える。

「やぁ、よく来たね、クライヴ。顔を見るのは随分と久しぶりだ。最後に家族で顔を合わせてから……もう二年は経つかな」

「ええ。ご無沙汰しています、兄さん。お体はいかがですか?」

「ありがとう。今日は随分と気分がいいよ」

男性にしては高く、そしてとても柔らかい声。立ち上がったクライヴ様の方から歩み寄り、二人は挨拶を交わす。私も慌てて立ち上がり、クライヴ様の後ろに続いた。

ハロルド様の背丈はクライヴ様より少し低いくらいだけれど、痩身で華奢な体つきのせいか、ご兄弟で並ぶとハロルド様の方が二まわりくらい小柄に見える。

柔らかなグレーの光を帯びた静かな眼差しが、真っ直ぐにクライヴ様を見つめ、そしてその視線はすぐに私へと移動した。

クライヴ様が振り返り、私に目で合図する。私は緊張しながら彼の隣に並んだ。すると彼は私の背に優しく手を当て、紹介してくれる。

「彼女が俺の婚約者、ロザリンド・ハートリー伯爵令嬢です」

「お初にお目にかかります。ハートリー伯爵家の娘、ロザリンドです。どうぞよろしくお願いいたします」

緊張しながらも丁寧に礼をすると、ハロルド様が穏やかな声で答えてくださった。

「遠路はるばる来てくださってありがとう、ハートリー伯爵令嬢。サザーランド公爵家嫡男、ハロルド・サザーランドです。どうぞくつろいでいってください」

(……お優しそうな方でよかった……)

笑顔でお礼を伝えながら、私は内心ほっとしていた。

ハロルド様がソファーに腰かけると、私とクライヴ様はその向かいに並んで座った。その後しばらくは、公爵家のご兄弟らしい会話が続く。最近の公爵領の経営状態や、国境付近の兵站の整備状況。王宮での新たな人事の話や、クライヴ様の王国騎士団でのお務めの内容。話題は堅いものばかりで、二人の雰囲気は少しよそよそしく感じられた。

けれど、その後沈黙が訪れた後、クライヴ様が改まった様子で口を開いた。

「……兄さん。こうして今日久しぶりにこの屋敷を訪れたのは、婚約者であるハートリー伯爵令嬢をあなたに紹介したかったのはもちろんですが……。他にも、あなたと話したいことがあったからです」