軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41. 初めての景色

やがて馬車はサザーランド公爵領に入った。景色が徐々に雰囲気を変えていく。街道は幅広く、石畳は均一に固められていて、馬車の揺れがほとんどない。道の両脇には、物資運搬のための詰所や休憩所が並んでいる。

見たことのない景色に、胸が高鳴る。一心不乱に窓の外を眺めていると、クライヴ様が説明してくださった。

「兵站路の整備はサザーランド家の主要な役目の一つだからな。あれは補給用の中継所だ。緊急時には、あそこに軍馬や装備の一部を預けておける」

「そうなんですね。すごい……」

初めて見る建物や施設に、私は圧倒されるばかりだった。

さらに進むと、広大な草原の向こうに柵で区切られた敷地が現れた。

そこでは大きくて立派な馬たちが、鍛え上げられた体躯を輝かせながら力強く駆けている。

「この辺りは軍馬の育成牧場だ。国境警備隊や騎士団に送られる馬の多くが、ここで育つ」

「まぁ……すごい……」

感心した私は息を呑んだ。もう「すごい」しか言葉が出てこない。

さらに向こうの丘には、武装した人々が隊列を組んでいるのが小さく見えた。

「クライヴ様、あの方々は……?」

「あれは訓練場だ。近衛に選抜された者たちなどが研鑽している」

なるほど……と呟きながら、私は頷く。資料を読みながら勉強するのとはわけが違う。見えている広大な景色の端々にまで、サザーランド家が担う王国の柱としての機能が詰まっていた。

物流を支える倉庫群、軍用の鍛冶場、鉱石採掘場へ続く道、穀倉地帯へ伸びる分岐路。

どれもが私にとっては珍しく、圧倒されるばかりだった。

(……クライヴ様は、こんなにも重要な役目を担う公爵家のご子息なんだわ……)

そして私が、その方を支える妻となるのだ。

改めてそう思った途端、思わず背筋が伸びた。

「疲れていないか? ロザリンド嬢」

「い、いえ……! ただ、とても……感動しております」

優しく問いかけてくださるクライヴ様に答える私の声は、かすかに震えていた。

華やかな街並みが続く王都とはまるで違う、力強く壮大な景色に胸がいっぱいになっていた。

空がオレンジ色に染まる頃、馬車は一つの峠に差しかかった。外の空気は王都より冷たく澄んでいて、遠くの山脈が連なって見える。街道沿いに、大きくて立派な木造の建物が建っていた。

「今夜はここで早めの夕食をとり休もう。明日は君を案内したいところが、もう一ヶ所ある。その後は、サザーランド家の本邸に案内するよ」

「は、はい……っ! お兄様……ハロルド様は、そちらに?」

「ああ。婚約者を連れて挨拶に行くと、先触れは出してある」

「そうなのですね。分かりました」

いよいよ明日、クライヴ様のお兄様と対面するのだ。そう思うと緊張が高まってきた。どんな方なのだろう。気に入っていただけるかしら……。

馬車から下りると、冷たい風が頬を撫でた。思わず身震いした私は、肩にかけていたファーショールを胸の前に引き寄せる。するとその瞬間、クライヴ様がコートの前を広げ、私の体を包み込むように招き入れた。

「っ!! クライヴ様……っ」

「……こうしていれば、だいぶましだろう。おいで、ロザリンド嬢」

優しく微笑みそう言いながら、クライヴ様は私をエスコートしてくれる。

「ここは兵站の休憩所を改装して作った宿なんだが、旅人や観光客に好評なんだ。特に料理はかなり評判がいい」

クライヴ様が落ち着いた様子でそう説明してくださる。けれど私は、抱き寄せられた腕の中で彼の甘く妖艶な香りを感じながら、胸がいっぱいでとても言葉など出なかった。心臓が痛いほど強く脈打ち、クラクラした。

宿の中は暖かく、薪の香りが心地よかった。木の梁がむき出しになった高い天井に、石造りの暖炉。壁には古い軍旗が飾られていて、歴史を感じさせる。それでいて、どこか家庭的な温もりもある場所だった。

(……素敵……)

案内された部屋に荷物が運び込まれ、温かいハーブティーが振る舞われた。一息ついてそれを堪能し、外の景色を見ながらしばらくのんびりと過ごす。今日一日ずっと高揚していたからか、こうして一人になると頭がぼうっとする。いろいろな場面を思い出して幸せな気分に浸っていると、クライヴ様がお迎えに来てくださり、一階奥の食堂に向かうことになった。

食堂の窓際の席からは、峠の草原が一望できた。夕日が沈みかけ、赤く染まった光が木々に長い影を作っている。

訓練を終えたらしい軍馬たちが、手綱を引かれながらゆっくりと歩いているのが遠くに見える。時折首を振る馬たちが、夕暮れの光に照らされ揺れていた。

「……綺麗ですね、クライヴ様……。まるで絵画のような景色です」

うっとりと見つめながらそう言うと、彼の低く穏やかな声がすぐに返ってくる。

「そうか。サザーランドの風景を気に入ってくれて嬉しい。これからは、二人で一緒に見ていく景色だ」

運ばれてきた温かいポタージュを、隣に座る私の前に置きながら、クライヴ様が小さく微笑んだ。

優しい仕草の一つ一つに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

(私……この方のことが大好きだわ)

ふいにまた自分の想いを自覚し、頬が熱を持った。