軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21. 縮まる距離

現実離れした予想外の出来事に、私は感じたことのない高揚感に包まれていた。

私のためにここまでしてくださったという喜びも、もちろん胸から溢れるほどだったけれど、何より私は彼の手腕に圧倒されていた。

注文したものが運ばれてくるまで、私は夢中になってクライヴ様に質問を重ねた。

「最初は試しに百個程度を輸入した。まず、ラシェール王国の菓子の味を再現できる職人を揃え、商業ギルドにも申請を通した」

「そうなのですね。ここで働いてくれる職人たちは、すぐに見つかったのですか?」

「ああ、それは問題なかったのだが、ラプルは完熟してからでは香りが強すぎ、運搬には適さないし腐りやすくなる」

「……ということは、摘み取るタイミングから選別しなければならないのですね?」

「そうだ。まだ未成熟の若く青い段階で摘み取り、最短経路で王都へ運ばせている。ここに着く頃にちょうど完熟するよう、熟度と気温を計算して輸送条件を調整した」

「すごいですね……! 先日クライヴ様が持ってきてくださったあのタルトも、帰国直後だったから最も美味しい状態で食べられたのですね」

大好きなラプルのことだからか、ますます気分が高まり、クライヴ様のお話を聞くのが楽しくて仕方がない。さっきまであんなに緊張して、なかなか会話さえスムーズにできなかったのに。

今は自分の心臓の鼓動を感じつつも、熱に浮かされたように次々と言葉が出てくるのだった。

クライヴ様も話しやすいのか、私の質問に淀みなく答えてくれる。

「本来なら完熟に近い状態で摘み取るのが最も望ましい果実らしい。だから、最高の状態で菓子を作り君に食べてもらうためには、サザーランド公爵領で栽培する必要がある。……そう思い、今領地に農園を造成中だ」

「そ……、えぇっ? の、農園をですか……っ!?」

またもさらりと語られた予想外の言葉に、私は再び素っ頓狂な声をあげてしまった。この私に、好物の果実を最高の状態で食べさせるために、わざわざ農園から造ると……?

さすがに呆然としていると、数人の店員さんがスイーツを持ち、私たちのテーブルへと運んできた。次々と並べられるそれらを見た瞬間、また声をあげそうになり、私は慌てて口をつぐんだ。

先日クライヴ様が我が家に持ってきてくださったものとそっくりなタルト。可愛らしいパフェは、ラプルの果実が淡いクリーム色のムースと層になっている。ケーキはスポンジまでラプルの果汁の色をしていて、舌の上に広がる豊潤な甘さを期待してしまう。透き通ったジュレは光を受けてきらきらと輝いていた。

「ありがとうございます、クライヴ様。まるで夢を見ているみたいです」

「……君が喜んでくれるのなら、これくらい容易いことだ」

嬉しくて胸がいっぱいになり、素直にお礼を伝えると、クライヴ様は目を伏せ小さな声でそう言う。それを聞いた私は、また全身が火照ったのだった。

胸のドキドキは一向に収まらないけれど、これまでの緊張と気まずさによるものとは、いつの間にか変わっていた。私の中にあった、彼に対する強張った感情がなくなり、不思議な居心地の良さを感じはじめていた。

クライヴ様はテーブルの上のカトラリーを手に取り、タルトやケーキを半分ほどのサイズに切り分けてくれる。給仕が慌てた様子で近付いてきたけれど、彼はそれを短い言葉で制止し下がらせた。

まるで私の世話は全部自分でしたいのだと言わんばかりのその様子に、恥ずかしさとくすぐったさ、そして大切に扱われているという安心感と喜びが、胸の中で混ざり合う。激しくなる鼓動を整えようと、私はひそかに何度も深く呼吸を繰り返したのだった。

結局クライヴ様は、全てのスイーツを半分以上食べてくださった。楽しい時間はあっという間に過ぎ、私たちは席を立つ。名残惜しくて、帰りたくなくなってしまう。

「とても美味しかったです。ありがとうございます、クライヴ様」

「……喜んでくれてよかった。本開業は来週末だ。奥には個室もいくつか準備してある。君が望む時に、いつでも連れてこよう」

「……ありがとうございます……」

その優しい言葉にますます頬が火照る。今日は心臓がずっと騒がしい。落ち着くために深い呼吸をゆっくりと繰り返しながら席を離れようとすると、クライヴ様がテーブルの上をじっと見ていることに気付いた。

「……? どうなさったのですか? クライヴ様」

彼の視線につられて同じところを見ると、どうやらガラスドームのラプルを見ているらしい。そのことに気付いた時、クライヴ様が私の顔を見てさらりと言った。

「……熟したラプルの果実は、君の瞳の色と同じだな。やけに可愛く見えてならない」

「……っ!? な……っ」

予想もしなかった突然のその言葉に、頭が真っ白になる。そしてすぐに、体中が燃えるほど熱くなった。

クライヴ様は「しまった」とでもいうように唇を引き結ぶと、私から顔を背けた。

「……行こうか」

「は、はい……」

前を歩くクライヴ様の背を見ながら、私は静かに悶えていた。

(い……いきなりそういうことを言うのは反則です、クライヴ様……っ!!)

いつもあんなに寡黙なのに。あまり笑わなくて、常に淡々としているのに。

時折どうしようもなく甘い言葉を口にするそのギャップに、私は混乱し、激しく動揺していた。

クライヴ様は屋敷の前まで私を送ってくださると、また自ら手を引き、馬車から下ろしてくださった。

「……楽しい時間をありがとう、ロザリンド嬢」

「そ、それはこちらこそです。夢のような一時でした。ありがとうございます、クライヴ様」

ラプルカフェのお礼を込めてそう伝えると、クライヴ様はしばらく私の顔をじっと見つめた。

「……学園で何か困ったことがあれば、いつでも相談してくれ。俺にできることは、何でもする」

「……ありがとうございます」

温かく、そして熱のこもった眼差しに、また私の鼓動が高鳴りだす。玄関ポーチの前で、私は去りゆく馬車が見えなくなるまで彼を見送った。

出迎えてくれた母は、帰宅した私の表情を見て、満面の笑みを浮かべたのだった。