軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.コルトー伯爵家(6)

これからノディエ伯爵家を支えてくれる方だもの。私だって信じたい。

「ジュール様にお願いがあります」

「なんだい?」

「私に嘘を吐かないでください」

私が悲しいと感じるのは嘘を吐かれることだ。

「シルヴァン兄様と離れている間に毎日の報告がいっぱい溜まっていたの」

「報告?」

「その日に一番心を動かされたことを報告するんです。私がどんなことに強く感情が揺さぶられるか、何に興味があるのかを見つけようって」

話せなかったことがたくさんあった。

でも、話したいことはいつも似たことでした。

「私は、私の大好きな人達と一緒にいられる今の生活が本当に楽しいんだって分かりました。

そして、信頼していた人に嘘を吐かれることがとても悲しいということも知りました」

私を助けてくれて公爵家に連れてきてくれたのは、家族としての優しさではなく、利用価値があったから。

お母様の昔のことを教えてくれないのは、お祖父様達の大好きな王家の醜聞でもあるから。

……お母様の今のことを教えてくれないのは、私を傷つけないため?それとも、秘密裏に始末してしまいたいから?

「私は優しい嘘は欲しくない。たとえ傷ついたとしても本当のことを教えてほしいのです。

そうじゃないと信じることなんてできないから」

だからシルヴァン兄様が私に隠すことなく、本当のことを教えてくれてホッとしたの。

とても怖くて、すべてを飲み込むことはできなくても、それでも嘘で覆い隠しはしない兄様の優しさが嬉しかった。

「これは参ったな。まさか、9歳の女の子に優しい嘘はいらないと言われるとは思わなかった」

「まあ。レディーの年齢を話題にするだなんて失礼でしてよ?」

「アハハハッ! これは完全に僕の負けだな!」

本気で大笑いしていますわね。このおおらかさは勝てる気がしないけど嫌いじゃないわ。

「そもそも、その優しさは誰に向けているのか。私には保身や逃げだとしか思えません」

「う~ん、手厳しいな。だがまあ、確かに。大切な人の泣き顔を見たくないとか嫌われたくないとか、そんなものは保身でしかないのかもしれないね」

そして私みたいな小娘の意見をちゃんと聞いて考えてくれる。

「ジュール様。私を否定しないでくれてありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いいたします」

「うん? どうして君を否定するんだい?」

「ものを知らない子どもだからです。私が意見を言っても、何も知らない子どもだからと諭される。

子どもと対等に話をしてくださる方は希少ですよ」

「君みたいに道理の分かる子を年齢だけで見るなんて勇気があるねぇ。だが、彼は違うのだろう?」

ジュール様がシルヴァン兄様を見て笑った。

「はい。兄様は特別なのです」

私が今、心から信頼できる数少ない大切な人だもの。

「そう言ってもらえると光栄だね」

「当然でしょう?」

「うん、いい出会いがあってよかった。だが、私からも出会いのプレゼントがあるのだが受け取ってもらえるだろうか」

「プレゼントですか?」

「たぶん、もう先に他の子ども達が会っているかも。行こうか」

そこにいたのは白黒模様の子犬でした。

「……かわいい」

どうしよう、ワンちゃんの実物を見るのは初めてです。

「可愛いだろう。ボーダーコリーの子犬だ」

「姉様! すっごく可愛いの! ふわふわなのよ!」

ミュリエルが大興奮です。

「よかったら君達で育ててみないか?」

「……いいのですか?」

「ただし大変だぞ。この犬種はとても賢いが、まだやんちゃだし、しつけをしっかりしないと大変なことになる。それに、運動をたくさんするのが好きな犬種だから、毎日たっぷり散歩をしなくちゃいけないんだ」

「はい、はーい! 俺が毎日散歩します!」

ロランが元気よく手を挙げました。

「それと、大切なことが一つある。この子の寿命は人間よりもずっと短いんだ」

「……え?」

そう……そうでした。たぶん、10年から15年くらい?

「……こんなに可愛いのに死んでしまうの? だったら飼うのは怖いわ」

それまで楽しそうだったベルティーユがソッと距離をおいた。

「命はとても尊いけれど、死は特別ではないよ。生きとし生けるものすべてにいつかは必ず訪れるものだ」

「……でもやだ。わんちゃん、可哀想だもの」

「だから大切にしないとね。その子だけでなく、誰だっていつ、その命が終わるのかは分からないんだ。

だからこそ、いつかそんな日が来ても後悔のないように日々を大切に生きる。

そう思ったら誰かと喧嘩するのも馬鹿らしくなるし、いがみ合うよりももっと仲良くなりたいって頑張れるんじゃないかな」

……私が死を恐れて縮こまっていたから?

ソッとワンちゃんに触れてみる。……ほんとだ。ふわふわで温かい。

「あなたはとっても温かいのね」

「初めて触れるかい?」

「はい」

「君達がしっかりと面倒を見てあげたら、この子はどこまでも君たちを大切に思い慕ってくるだろう。

死を恐れずに大切に向き合ってごらん。それは特別じゃない。とても当たり前で、でも尊い命だよ」

つぶらな瞳が愛おしいと思う。私があなたを育ててあげられるかしら。

「リシャール兄様、連れて帰ったら怒られると思う?」

「いや?父上は案外動物が好きだし、いっそのことお祖母様のところでもいいかもしれないな」

「え! お祖母様!?」

「お祖母様は怖くないわよ?」

「「え~~っ!」」

なぜ、ロランとベルティーユはそんなに怖がるのかしら。

「デボラ様も動物はお好きだよ。彼女が子どもの頃にも飼っていたから。とても賢い子だったなぁ」

ジュール様は子どもの頃からのお付き合いだったのね。

ピシッとしたお祖母様とおおらかなジュール様は確かにお似合いだったのだろうなと思ってしまいます。

「この子の名前は?」

「ジョイだよ」

JOY……喜び。うん、ピッタリかも。

「よろしくね、ジョイ。私はブランシュよ」