軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4.コルトー伯爵家(3)

「ハハハッ、君は人馴れしていない子猫のようだなぁ」

そう言って、楽しげに笑いながら頭を撫でられてしまいました。……この感じ。絶対に私が勝てない天然モノな気がします。

「さて、休憩するなら屋敷に戻って何か冷たいものでも食べようか?」

やった!とミュリエル達が喜んでいる。

しまったわ。ミュリエルの前で彼を疑うようなことを言ってしまった。けど、私のこれからの行動でミュリエルの未来も変わるのよね?……て、そうじゃない。

……だめね、家族や友達ってむずかしい。

最近、悩み過ぎている自分にだんだん腹が立ってきました。

お母様達と戦ったときは大切なものなんてなかった。

だから無謀なことだって平気でできたし、私がどうなっても悲しむ人もいないと思っていたから自分の命すら賭けてしまえたわ。

でも、今は大切なものがたくさんできたから。

ナタリーやマルクにシルヴァン兄様、それにリシャール兄様たち。みんなとっても大切で失いたくなくて。

だから、できもしないのに、すべてを抱え込んでなんとかしようとしていたのだから笑えます。みんなを救いたいだなんて私はどこの聖女様よ。

私は自分のことで手一杯。それすらも力が足りない子どもなのに。

「……もう、死なばもろとも?」

「ちょっと、ブランシュが怖いんだけど!」

「ロラン、自分の身は自分で守って」

「なんのことかは分からないけど当たり前だろう?ブランシュは俺の保護者かよ」

「ふふっ、ロラン格好いい」

「当たり前だろ!」

そうね。彼らの身の安全は私ではなく、彼らの保護者が頑張るべきところだわ。

よし、少し頭がクリアになってきた。

視野を狭めるな。俯瞰で見るようにしなさいと言われたでしょう?

「ジュール様、ノディエ家のことでお話があります」

「うん、そうだね。どうする?二人で話せばいいのかな」

「いえ、シルヴァン兄様に同席してもらってもいいでしょうか。彼は私とミュリエルの指導員ですから」

「……姉様」

「ミュリエルには必ずあとで説明する。だから今はリシャール兄様達と待っていてくれる?」

そう言ってリシャール兄様を見ると、静かな微笑で怒っている。あとで必ず話せと彼の笑顔が言っています。

仕方がなく小さく頷くと、満足したのかミュリエルを連れて行ってくれました。

「私達も行こうか」

「はい」

連れて行かれたのはどうやら執務室のようです。

「ここが一番安全だからね」

「念のため、防音と目くらましの魔法を掛けさせていただきます」

「ああ、ありがとう」

さて、何から話すべきなのかしら。

「まずは、僕がなぜ管理人を引き受けたか。それを話そうか」

「はい、お願いいたします」

「君たちが知っているかは分からないが、僕は公爵夫人の元婚約者だ」

「あ……」

そうだわ。婚約者の方は伯爵家の方だとお祖母様が言っていたじゃない!

「どうやら聞いていたみたいだね」

「はい、お祖母様に教えていただきました」

そう、この方が……。

「あ、間違っても今でも恋しているとかそういうことではないんだ」

「それは疑っていません。だってマリーズ様とはちゃんと信頼し合っているように見えました」

「嬉しいことを言ってくれるなぁ。……うん。マリーズのことは人生の伴侶として本当に大切なんだ」

それはとても素敵なことだと思う。

「……だけどね、どうしても今でも気になってしまうんだ。デボラ様はちゃんと幸せなのだろうかと」

ああ、私達を懐かしそうに見ていたのは、お祖母様の面影を探していたのですね。

「それでノディエ家の管理人に立候補してくださったのですか?」

「もちろん、マリーズには相談したよ。そして彼女も賛成してくれた。私達は残念ながら子どもを授かることができなくてね。もし、許されるなら君たちが大人になるまでの手伝いができたら嬉しいと思っているのだが、その……どうだろうか」

ジュール様はどこまでも良い人みたい。でも、その人の良さを利用されてはいないのかしら。

彼らと共に暮らしたら、その善良さに癒やされて、牙を抜かれてしまいそうで怖い。

だからどこまでも疑ってしまう。

「……ですが、ノディエ家にはたくさんの問題があります。それでも本当に後悔なさいませんか?」

「まあ、30年以上前のことだけど、これでも公爵家に婿入りする予定だったからね。その後も兄の手伝いを続けていたし、実務は問題ないと思っている。

それから君が心配しているのは、オレリー様達のことかな?

だが、彼女達の罪は公表されていないだろう?」

「……はい」

……やはり、ジュール様は知っているのね。

結局、ノディエ伯爵夫妻の犯した罪はすべて心の病のせいであったのだと、あの日の断罪劇の結末が書き換えられていたことを。

王宮にも魔法塔にも二人の診断書が提出され、罪は罪ではなくなっていたのです。

確かに、二人とも心を病んでいたと言えるので、そこに不服を申し立てる気は今はもうありません。

私は無事解放されたし、今後のことを考えれば、両親が犯罪者として公式に裁かれなかったことは僥倖とも言えるのでしょう。

まあ、心の病による引退というのも、多少問題ではありますが。

ただ一番問題なのは、そんな大事なことが私達には全く知らされていなかったことと。

「彼女達の行方はまだ分からないままなのか?」

「……はい。療養先に向かう途中で賊に襲われ川に落ち、行方が分からないのだと聞きました」

……両親が現在行方不明だということです。

だからお祖父様は予定よりも早くに王都に向かったのでしょうか。

晩餐の席で王女殿下が言おうとした母の話は、罪人として裁かれたことではなく、心の病にかかった挙句賊に襲われた不運を笑いたかったの?

それならお祖母様もご存知だったのか。では、レイモン様は?もしかしてコンスタンス夫人も?

王都でもまだ秘密裏にされていたとシルヴァン兄様に教えてもらいました。

それは、まだ捜索中だからなのか。それとも遺体が見つかったのなら、二人の件はただの事故として処理してしまいたいから?

そもそもこれらのことはノディエ家への温情なのか、もしくは、すべてを闇に葬り去り、私達に何の傷も付けずに駒にするためなのか。誰がどこまで関与しているのか。

……それを知るのが、とても怖い。