軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.これからのこと

本館の庭園を歩くのは初めてです。

色鮮やかな花が咲き誇り、丁寧に刈り込まれた木々は庭師の技量が窺えます。

でも、私は別館のお庭の方が好きかも。

こんなにも作り込んでいない、主張し過ぎない落ち着いたお庭なのよね。

「疲れたか?」

「いえ、ただ初めて歩くなと思って」

「……そうか。これからはもっと散歩するといい。体力がつくよ」

「必要ですか?」

「ダンスのレッスンがあるだろう?」

「めんどくさ「面倒じゃなくて必須だから」

くっ、遮られたわ。エルフェ様め。

「だって気持ち悪いもの」

「え、何が」

「ダンスってパートナーとの距離が近過ぎませんか。知らない人に誘われたら苦痛なのですけど」

「意外だな。私が抱き上げても嫌がらないのに」

「だってエルフェ様は私に嫌なことはしないでしょう?」

「……嫌なことをされたことがあるのか」

え、怖い。急に声のトーンを下げないで。

「されたら嫌だと思っただけで、誰にも何もされてませんよ」

「おどかさないでくれ」

「ごめんなさい?」

だってまだ9歳よ?こんな子どもに誰が何をするというの。

「世の中には変態という人種がいるんだ。屋敷内だとしても、見覚えのない使用人には気を付けて」

「本館は全員知らない人ですけど」

「……対策するよう伝えておこう」

そこまで?使用人すら信用できないものなのかしら。

「まれにね、そういう事件は起きるんだ。まあ、貴金属の盗難などが一番多いが、中には令嬢を誘惑して貢がせたり、駆け落ちしてから売るような悪党もいる」

売る。……どこに?

「奴隷ですか?」

「あ──…、うん。まだ9歳だものな。これからゆっくり覚えていこう。うん、そうしよう」

エルフェ様からは言い難いことなのかしら。

よく分かりませんが使用人でも気をつける。覚えました。

「こら、シルヴァン。なぜお前ばかりブランシュと仲良くしているんだ」

「仲良しなんです。やきもちは止めてください」

そうね。この中で仲良しと言えるのはエルフェ様だけだわ。

双子達は気不味そうだし、ミュリエルはいまさら人見知りなのか兄達に隠れていますよ?

「これからのことを話したいのだ。お前もそのために来たのだろうが」

「はいはい。行こうか、ブランシュ」

エルフェ様は双子を迎えに来たのかと思ったけど違うのかな。

東屋で1つのテーブルを囲む。先ほどよりも輪が小さいので何とも居心地が悪い。どうしてもエルフェ様側に寄ってしまうのは許して欲しいです。

「さて。少しは落ち着いたかな。申し訳ないが、そろそろ今後の話をしようか」

「……はい」

兄達は以前聞いた通り、魔法塔に行くことになる。

でも、

「2週間後ですか」

「ああ。理由としては使用人を連れていけないからだ。食堂などはあるが、身支度などは自分で行わなければならない。もちろん、朝だって自力で起きるのだぞ?

そういった生活に少しでも慣れてからじゃないと困るからな。2週間で色々と覚えられるように頑張りなさい」

エルフェ様の説明に二人の肩が落ちた。身支度を一人で行ったことは無いのだろう。

「……分かりました」

「それから二人は部屋もクラスも分けられる」

「「えっ?!」」

「いつまでもふたりで協力して生きていけるわけではないんだよ。君達は悪く言えば依存しあっているところがありそうだ。まずは互いに距離を置き、一人で行動できるように頑張ろう。

そうすることで今度は互いを支え合える、頼もしい存在になれると思うよ」

生まれてからずっと側にいた二人だもの。ちょっと可哀想にも思えるけど、確かに必要なことなのだろうなと思う。

頑張ってね、と心の中で応援する。

これくらいはしてもいいよね?一応は兄妹だもの。

「それからブランシュとミュリエルだが、マイルズ達が魔法塔に行っている間は公爵家に滞在してはどうかな」

え、嫌ですけど。口から飛び出そうになるのを慌てて飲み込みました。

「理由をお聞きしてもいいですか?」

どうかくだらない、断りやすい理由でありますように!

「まず第一に、子供二人と使用人だけで暮らすことは良くないということは分かるな?」

いいえと言いたい。すっっっごく言いたい!

「……はい」

でも言えないわね。1日2日くらいならまだしも、年単位はありえない。

「君達が成人するまで管理人は置くが、準備にはもう少し時間が掛かるんだ。彼らにも今の生活があるからね」

「管理人さんがこの伯爵家で生活されるのですか?」

「ああ。君達の仮親でもあるから、そこは我慢してほしい」

これも嫌だけど、避けては通れないものよね。

養子になるか、仮親を受け入れるか。

……もう、別館での暮らしは無くなってしまうのかしら。

「それでだな、公爵家に誘ったのは、他家の子供との交流を持てたらどうかと思ったのだよ」

「お祖父様のお屋敷にはお子様がいらっしゃるのですか?」

「ああ。長男夫婦の子供が3人いる。上から11歳の長男、9歳の次男、7歳の長女だ」

歳が近いのね。どうしよう、これからのためには必要なことなのかしら。

「おじいさま、こわくない?」

……ミュリエル。それは子ども達のこと?それともお祖父様のことなのかな?

「さっきは怖がらせて悪かったな。もう怒ったりしないから許してくれないか」

「……ん。いいよ」

ミュリエルは少し幼いわね。6歳ってこんな感じなの?比べる相手がいないから分からないわね。

……ああそっか。だから誘ってくださっているのかしら。私も常識というものが不安だし。

「使用人を連れて行ってもいいですか?」

「ああ、もちろんだ。気心が知れた人がいたほうが安心だろう」

「ミュリエル。あなたはどうする?」

「……兄様いなくなっちゃうのよね?」

「うん、ごめんな。絶対一年で帰ってくるから」

「じゃあ、姉様と一緒に行ってもいい?」

え、まさか私に懐くの?

「もちろんよ。使用人はどうする?」

「……兄様がいないなら誰でもいい」

本気でお兄ちゃん子なのね。こっちの依存の方が問題なのでは?

「じゃあ、マイルズ君達も公爵家にお邪魔したらどうかな。その方がミュリエルも馴染めると思うよ」

「移動に時間を取られるが入寮が遅くなっても大丈夫か?」

「私から連絡しておきますよ。心のケアも大切ですから。ブランシュもいきなりお姉さん役は大変だと思いますしね」

ありがとうございます。エルフェ様大好き!

いきなり懐かれてどうしようかと思ったけど、これで何とかなるかしら。

「あと、いきなり一年とは決めず、まずはひと月だけお世話になったらどうかな」

「そうだな。焦らせてすまん。それでいいだろうか」

「はい。よろしくお願いいたします」

屋敷から出るのは初めてです。

あ。勝手に決めてしまったけど、ナタリーとマルクは大丈夫かしら?