軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誰が決めたこと

焚火の前に並んでいるのは四人。

元から決まっていた三人にイーストンが加わった形だ。

日中のんびりしている分、イーストンは夜に起きていることが多い。

ニルは比較的よくしゃべる方だが、見張り番となると静かに武器の手入れをしている。空気を読めないタイプのお喋りではない。

「……レジーナ、カナさんの話で気になるところがありましたか?」

ハルカはためらいがちに、しかし割とすぐにレジーナに問いかけた。

以前よりも仲が深まっている分、話しかけるために必要な時間は少なくなった。

「知らね」

レジーナの突発的な行動は、大概自分でもよく理解できずに感覚で行われていることが多い。この言葉は突き放したわけではなく、レジーナ自身の本音であった。

付き合うのに苦労するタイプだが、ハルカは話をすることに慣れている。

「そうですか……」

しばらくの沈黙。

レジーナは、近くに落ちている石を拾っては指で潰すことを数度繰り返してから再び口を開く。

「ただ、今も昔も、人なんて大して変わらねぇだろって。持ってる道具が違うだけだ」

右手で石を潰す傍ら、レジーナは左手で顔の傷をなぞった。

「国を亡ぼしたら子供同士で殺し合いをさせるし、依頼を一緒に受けても利用して殺そうとする奴がいる。昔も今も変わらねぇよ。力を持ってるやつが勝手なことをしてるだけだ」

「……そうかもしれないですね」

今だって善人ばかりがいるわけじゃない。

強い冒険者が魔法や剣を振るうように、当時の権力者が方針を決めて戦いを起こしただけだ。振るう力の大きさが違っただけで、今も昔も大して変わらない、とレジーナは言っているのだろう。

幼少期のレジーナは、見世物として殺し合いをさせられた。

冒険者となったレジーナは裏切られて一生残る傷を受けた。

だからカナの今の方がましだという感覚が理解できなくて、思わず反論したくなって漏れ出した言葉があれだったのだ。

見えている世界の大きさや角度が違うからこそ、それぞれの真実がある。

あれは、強くならなければ生きることが難しかったレジーナの人生の、悲鳴のような言葉だったのかもしれない。

「だからあたしは強くなった」

焚き火の炎を反射して、レジーナの瞳がギラリと光る。

「まだ強くなる。自分のことは、全部自分が決める」

そう言ってレジーナは奥歯を強く噛んだ。

これまでもずっとそのつもりで生きてきたのだろうし、ハルカ達と一緒に居てもなお、その気持ちは揺るいでいないのだろう。

しかしそうなると、ハルカには一つ懸念が浮かぶ。

これをしてはいけない、とか、やめてほしいとか、結構な頻度でハルカはレジーナの行動を矯正しているのだ。レジーナの理屈で言えば、レジーナは自分より強いハルカに、行動を強要されているともいえる。

「あの、レジーナ……」

じろりとレジーナがハルカの方を見る。

いつもと変わらない視線なのに、責められているような気持ちになって緊張してしまう。

「もしかして、私にあれこれ言われるのも嫌ですか?」

「は?」

「いえ、その、レジーナが気に食わないことを、無理やりやらせているんじゃないかと……。今のお話を聞いて、それはその、どうなのだろうと……」

ぶつぶつと小さな声で言葉を続けるハルカを見て、レジーナは立ち上がる。

そうしてハルカの前まで歩いていき、じろりと見下ろした。

「レジーナ?」

ハルカが問いかけた瞬間に、右手が動きハルカの頭頂部が平手でべしんと叩かれる。

「え?」

頭部は少し揺れたが、それなりに手加減をされた一撃だった。

ただ、人からあまり叩かれたことのないハルカはやや混乱してレジーナを見上げる。

「あたしが、選んでここにいるんだ。おまえ、ハルカはたまにすごく馬鹿だ、あほ」

「え、あのすみません」

レジーナは敵意も悪意もなく、平手でもう一度ハルカの頭をしばく。

「むかつく、馬鹿」

「す、すみません」

ぽかんとしながら何度も謝っている間に、レジーナは元の位置に戻って腰を下ろし、鼻から大きく息を吐きだした。

「別にハルカがたまに馬鹿なのは前からだからいい」

「ありがとうございます……?」

対面では年を重ねている二人が声を抑えて笑い、体を震わせている。

呆然としていたハルカは我に返ってから、ようやくそれに気が付いた。

「……笑ってませんか?」

「い、いや? 儂が陛下のことを笑うものか」

大きな口の端々から空気が漏れているから、間違いなく笑っている。全然誤魔化せていない。

「いや、うん、レジーナの言うことももっともだよね。今回はさ、ハルカさんが悪いよ」

「そうだ」

「そうだよなぁ、あんな疑われ方は気分が悪いわなぁ。今回の陛下は分が悪い」

三人に結託されると針の筵だ。

混乱から若干立ち直ったハルカは、少しだけ焦りながらなぜ怒られたのか真面目に考える。

それからしばらくして、ハルカはようやくレジーナの言葉の真意に気が付いた。

要は、自分が好きで一緒にいるのに、まるでハルカが無理やり従わせているような言い方をしたのが気にくわなかったのだ。

レジーナは勝手に自分の気持ちを捻じ曲げて解釈されたのが気に食わなくて、むかついているのだ。

「……あ。レジーナって、結構私たちといるの、気に入ってくれてるんですね」

レジーナの方から「むかつく」と声がして、石を握りつぶしてできたジャリがパラパラと飛んできた。

「陛下が悪いなぁ」

「うん、ハルカさんが悪い」

二人が他人事のように話しているが、ハルカはそんなに悪い気がしなかった。