軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

装備の良い偵察兵

人の腰ほどしかない小さな二足歩行の生き物が、小高い丘で身を伏せて前後にガラスのようなものが嵌め込まれた筒を覗き込んだ。

その生き物はすぐに筒から目を離すと、手の甲でゴシゴシと目を擦ってから、もう一度筒を覗き込む。

やがて尻尾をくるりと股の間に挟んだその生き物は、隣で同じように伏せている生き物に筒を手渡した。

横並びで伏せた生き物が5体。

全員の尻尾がくるんと股の間に挟まったのはそれから間も無くのことだった。

「竜がいた」

「強そうなのが戦ってた」

「あれは人?」

「人は怖いって聞く」

「そんなことより、すごく光っているのがいた」

「いたな」

「どうする」

「戦うか?」

「いや、戦わない」

「ならどうする?」

小さな声での相談は続く。

順番に筒を覗き込みながら、結論が出ないやりとりを続けた小さな影は、夜半も過ぎた頃にようやくひっそりと行動を開始した。

まずはもう少しだけ近づいて様子を見てみようとなったのだ。

犬の顔に器用な手、小さな体を持つ、愛らしくも見えるその種族の名はコボルト。 破壊者(ルインズ) とされる種族の一つであり、好奇心旺盛な小さき研究者達である。各々の手にへの字型の鉄の塊を持ち、分厚いマントを被る。先頭にいる一体だけが、筒の先端から外したモノクルを、その左目に嵌め込んで固定してみせた。

彼らは体を地面に伏せると、恐怖と好奇心の対象であるハルカ達との距離を、じわりじわりと詰め始める。

ナギがいるとはいえ、万が一に備えて夜の番はきちんとたてている。

一度休んでから、真ん中の時間の見張りに立つことにしたのは気配の察知能力がほぼないハルカと、それを補うためのモンタナだ。ついでにイーストンは夜はどうせ目が冴えているので起きていてくれるらしい。

「どっからかわかんねぇけど、見られてる気がする」

交代の時にそう言ってぎろぎろとあたりを睨み回したのはレジーナだ。長年冒険者をしてきたものの勘だから、あながちバカにもできない。

モンタナもあたりをぐるっと見回してみると、どうもそれらしいものは見つからないようだった。

「隠れてたりしたら、見つけられないかもです。警戒しとくですよ」

「わかりました、警戒ですね」

ハルカはそう答えはしたものの、最初に敵を見つけたことなど一度もないので、やや気を抜いていた。

時折顔を上げて周囲の様子は窺うけれど、わざわざ歩き回って敵を探したりしない。

向き不向きの話でいえば、自分が圧倒的に索敵には向いていないことをよく理解していた。

それでも念のため、と何度目かに顔を上げて周囲を見て、また焚き火に目を落とした後だった。

ハルカはピリッとこめかみに刺激を感じて、再び顔を上げる。

草むらからハルカ達のいるところまで、ほんの十メートル程度。その中間ほどの位置に、もぞりもぞりと地面を這っている布の塊が五つあった。

モンタナもイーストンも気づいていない。

久しぶりにこめかみに走った刺激は、ハルカが精神的な魔法の干渉をレジストした時に起こるものだ。

「二人とも、警戒を」

小さな声で二人へ告げてから、ハルカは何気なく立ち上がって、今度はわざと大きな声で二人に声をかける。

「薪を少し拾ってきます」

目の前の光の玉を浮かせたハルカは、そうして動きを止めた五つのこんもりとした塊の方へ歩いていく。

不思議と怖いとか危険だとか、そんな感じはしなかった。

その辺に落ちた枝を拾うふりをして、そっとマントの端を摘み、そのままゆっくりと持ち上げてみせる。

「あ、コボルト」

イーストンの静かな声が夜の森の中に染み込むと、マントを剥ぎ取られたコボルトは恐る恐る顔を上げて、その下手人であるハルカのことを見上げた。

「ひゃん!」

右目には月を背負った見目の麗しいダークエルフが見えた。左目のモノクルを通して、自分までまとめて焼け焦がしてしまいそうな魔素の氾濫を見た。

尾と一緒に体が丸まり体を震わせながら地面に伏せてしまったコボルトを責める仲間はいない。

なぜ見つかったのかわからないが、自分達はと、匍匐前進で移動し始めた布の塊。

ハルカはじわりじわりと退却していくそれを歩いて追いかけると、次々とマントを回収して、その姿を月明かりの下に露わにさせた。

可哀想なコボルトは、見つかるたびに哀れな鳴き声をあげてその場にうずくまる。

最後の一体はとうとうマントを剥がして二足歩行で走り出したけれど、すぐにやわらかい何かにぶつかり、ボヨンと跳ね返されて地面にへたり込んだ。

ハルカが行き先に作った不可視の障壁である。

ぶつかると痛くて可哀想なので、柔らかめに作成してあげてある。

「お助けぇ」

「ごめんなさい」

命乞いの声と、ブルブルと体を震わせるコボルト達。

動物が好きなハルカとしては、なんというか、それがひどくかわいそうに見えてしまった。

ただ、その手にL字型の鉄の塊を見た時、ハルカの表情は曇る。

ハルカはそれを知識で知っていた。

筒から鉄を弾き出して人を殺傷する武器。

元の世界で銃と呼ばれるものに、それは酷似していた。

「武器を全て捨ててください」

自然と声が少しばかり冷たくなってしまったのは、仕方がないことと言えるだろう。

哀れなコボルト達は、すぐにマントとその鉄の塊を、自分の手の届かないところまでぽいっと放り捨てたのであった。