軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

急襲計画

〈混沌領〉は広い。

【独立商業都市国家プレイヌ】が丸々一つ入っても余りある、その土地の全容は明らかになっていない。空から偵察すれば大まかにはわかるのだが、それをやると吸血鬼達に警戒されてしまう。

カナが拠点に来てからふた月。

アルベルト達が吸血鬼と戦う準備はある程度整ったとして、ようやく出発をすることとなった。

向かうのは最初にパーティを組んだ四人にイーストン、レジーナ、それにカナが加わった七人である。これに加えて空から行くのであればナギが仲間に加わることになるだろう。

いよいよ出発まで数日ということで、準備を整えているところに、ノクトが一枚の地図を携えてやって来た。

「はぁい、これ持っていくといいですよぉ。少し昔の情報ですし、思い出しながら描き込んだので間違っているところもあるかもしれませんが」

横長に広がるその地図の西端には拠点や〈暗闇の森〉、リザードマンの国が描かれている。

「これは……〈混沌領〉の地図か?」

「ええ、数十年前の物ですが。あなたたちがチームを解散した後、クダンさんとこの辺をうろついたことがあるんですよ。【独立商業都市国家プレイヌ】を作っておいて、隣の土地に何があるか知らないのでは無責任ですから」

「……あの、師匠」

「なんですかぁ?」

「もう少し早くいただくこととか、できませんでしたか?」

「年を取ると物忘れがひどいんですよねぇ……。それに、冒険者なら自分の足で歩いたほうが為になるでしょう? ……今回の場合は特例ですね」

地図は本当に大まかにしか描れていないけれど、それでもどんな土地があって、どんな 破壊者(ルインズ) が住んでいたかが描かれていた。

ハーピーたちが暮らしていた山を抜けると森。

そこには小鬼やオーク、それにアラクネが住んでいる。

東へ少し進むと植物系の 破壊者(ルインズ) 。

沿岸には人魚などの水生の 破壊者(ルインズ) 。内陸の森の間にコボルト、平地には巨人。混沌領の中央にそびえたつ山脈を越えると砂漠が広がり、そこにはラミアやリザードマン、それにケンタウロス。

どの道をたどっても破壊者が目白押しである。

「イースさん、あなたが吸血鬼の拠点があると考えているのは、このちょっと出っ張った場所ですね?」

「そうだね、街のようになっていたと記憶しているよ」

「当時は手先が器用なコボルトたちが要塞化していたんですけどねぇ、きっとそこを占領したのでしょう。まぁ、役立ててください」

しかし多少情報で埋められた地図を見てみると、混沌領は改めて広い。

ナギに乗って飛んでいったとしても東端にたどり着くには一週間程度かかりそうだ。

「しかし……、これは歩いていくのでは随分と時間がかかりそうだ」

「でしょうね。しかもカナさんの場合は、出会う 破壊者(ルインズ) の話をいちいち聞いて、余計に時間を食うことになるでしょう。空路をお勧めしますよ」

「……反論できない」

破壊者(ルインズ) も分け隔てなく接する上、人のいいカナのことだから、助けてほしいなんて言われたらそこにしばらく足止めされてしまいそうだ。いくら目的があるとはいえ、その場をしのぐために何かをしてあげるくらいはしてしまうだろう。

「ナギに乗せてもらいましょうか」

「目立つが、それが良いだろうな。時間をかけずに急襲しよう」

ハルカの提案にカナが頷いて同意する。

ゆっくり慎重に進むよりも、吸血鬼達が異変に気付く前に攻撃してしまう方が得策だ。お人好しを二人連れて、 破壊者(ルインズ) 達が営みを持っている場所を歩いて進んだら、どれだけ時間がかかるかわかったものじゃない。

「途中で何度か休むことになるだろうけど、安全そうな場所はないかな?」

「コボルトは竜に襲い掛かったりしないので安全でしょう。他になるとちょっと分かりませんねぇ。昔はどこもやり合っていましたが、もしかするとどこかが大きな勢力を築いているかもしれませんし」

イーストンの懸念への返答は曖昧なものだ。

ノクトは数十年前と言ったが、これはおよそイーストンが生まれた頃の話である。

ぎりぎり三桁年前のことを数十年と表現するのは、間違っていないけれど適切ではない。

「ってことはー、もしかすると、吸血鬼たちが傘下にしてるってこともあり得るんじゃないかなー?」

イーストンのいう数十年前、すなわち吸血鬼達の情報を得たのはおよそ三十年ほど前だ。エトニア王国が占領されたのもその頃だから、〈混沌領〉でも本格的に活動をしていたのだとすれば、勢力を広げている可能性は十分にある。

「可能性があるのならば、砂漠のリザードマンかケンタウロス辺りから情報収集ができるといいな。……いや、巨人族の方がいいか。……しかしなぁ、巨人族は他の 破壊者(ルインズ) より好戦的なものが多いからなぁ」

カナが難しい顔をして地図を見つける。

どこから情報収集するか悩んでいるようだ。

「さっさといって一番悪い奴ぶっ殺して終わりだろ」

これまで黙っていたレジーナが言うと、我が意を得たりとばかりにアルベルトがうんうんと頷いている。こういう時ばかり気の合う二人である。

さっきまで地図を見てぼけーっと 破壊者(ルインズ) との戦闘に思いをはせていたくせに、話がややこしく長くなってきたことに気づき、なんとなく思ったことを口に出したようだ。

「うん、うん? それでも、問題ないの……か?」

難しく考えていたカナが首をかしげると、話をまとめるようにイーストンが口を開く。

「休息地点で地元の勢力と接触することがあれば情報収集、なければそのまま急襲、って感じでどうかな?」

「うん、じゃあ、そうだな! そうしよう!」

真面目だから誤解されがちだが、カナは決して参謀タイプの冒険者ではない。真面目に、一生懸命、猪突猛進するタイプの冒険者だ。

ハルカなんかはちょっと遠慮して、カナの意見を尊重していたが、こうして隣から口を出してもらった方がカナとしてもありがたいのだ。

脳筋の意見にぱっと飛びついたカナの顔は、何かから解放されたように少し明るくなっていた。

これからはちゃんと意見を言うようにしてあげよう。

これが今回の話し合いでのハルカの学びである。