軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ご満悦

場末の、とまで言うと口が悪いが、普段は近所の奥様方の利用が主となっている鍛冶屋に、キラキラした場違いな集団がやって来た。

最初にひょっこりと黒髪の男の子が中を覗き、店主の老爺が『なんだ?』と思っているうちに去っていく。

店内にいた客が外へ出て「あら! まぁ……」と言いながら去っていった後、ぞろぞろとその集団が店の中へ入ってきた。

老爺はそのうちの一人の顔を見て納得する。

この街一の有名人であり、ダークエルフ。

そして妙に腰が低い特級冒険者、ハルカ=ヤマギシであった。

前回に引き続き今回は美少女と美少年を引き連れてきた。

店主は、類は友を呼ぶということなのだろうか、と考えながら、いつもの人のよさそうに見える穏やかな顔を引き締め、職人の顔を作ってみせるのだった。

「待ってたぞ」

声の低さに、ハルカは背筋を必要以上に伸ばした。

特級冒険者様がそんなに緊張することもあるまいに、と思いながらも老爺は態度を崩さない。

「望み通りのものになっているかわからんが」

返事もまだきていないのに、のっそりと立ち上がり、錠をかけた引き出しを開けて、紙で包んだ品を取り出した。態度こそゆったりとしているが、本当は会心の出来であるそれを早く見せたいのだ。

削りやすく曲がりにくい材質を探るところから始まり、どれくらいまで薄くできるのか、飾りはどんな手順で行うのか。とてもひと月半でどうにかなるものでもなかったが、そこは伝手と金を使って何とかした。

「見てみろ」

「はい」

ハルカがそっと包みをはがし、品を見て目を見開いた。

覗き込んだエニシが、ハルカの代わりに口を開く。

「薄い金属に、文字と飾りが施されているのか。削り、それから塗料を溝に流したか? 飾りの部分は削りの深さによって立体感が表現されている。これは……こちらの文化なのか? 一目でわかる、名人が十分な手間暇をかけて仕上げた逸品だ」

老爺の鼻がぷくりと膨らむ。

エニシ以外の連れ合いも、感嘆の声を漏らしたのがまた良かった。

ただもう一人、肝心の依頼者の反応が聞けていない。

「どうなんだ?」

「……すみません、あまりに良い出来に、言葉が出ませんでした」

「そうか……それならよし」

全力で取り組んだ結果、老爺の下に預けられた金はほぼ残らなかったけれど、人生の終末に大きなことをできたという満足感があった。

「生憎預かった金でできたのはそれ一枚だ。欲しけりゃまた作ってやる」

「持ち帰ってもいいでしょうか。またお願いしに来ます」

「おうともさ、これにでも入れて持って帰れ」

老爺が名刺を作る時に出来上がった失敗作で作った入れ物を渡すと、ハルカは宝物をしまうように大切にそれを中へ入れて、手に持ったまま「ありがとうございます」と頭を下げた。

人に見せるために作ったものなのだから、そんなに大切に扱っても仕方がないのだが、老爺にとってはそれがまた嬉しい。

ペコペコしながら店から出ていくハルカを見送り、老爺は一服。

楽しそうに名刺の話をする声が少しずつ遠ざかっていくのが気持ちよかった。

老爺は知らない。

ほんの少し先に、この名刺を作るために馬車馬のように働くことになることを。

ここは冒険者と商人の国【独立商業都市国家プレイヌ】。

その半分を冠する商人たちが、いかに素晴らしい名刺を持っているかをステータスとし始めることも、それの第一人者として祭り上げられることも、未だ知る由もなかった。

「いやぁ、大陸の技術というのはすごい。我は緻密な金属加工では我が国に分があるとばかり思いこんでいた。戦ばかり続いているせいで、武器の加工ばかりがうまくなって、こういった文化的なものに力が割かれていないのが問題なのだろうな。いやしかし、すばらしい。日の下で見ると、ますます美しい」

多弁になるのはエニシが十分に文化を楽しめる立場で暮らしていたからだろう。

籠の中の鳥であったから、上納される美術作品こそ、エニシの心を楽しませるものであったのかもしれない。

わざわざ指紋も付けぬように袖を伸ばして両手で持ち、色々な角度から名刺を眺めて、ほうっと息を吐く。

「この竜はナギだな? あの老爺が構図を描いたのか?」

「いえ、これはモンタナですね」

「モンタナ……、モンタナは才能に溢れているな。ああいった才能は国が保護するべきだ。芸術は人を豊かにする」

そっと名刺をしまってハルカに返却したエニシは、腕を組んで首をひねりながらさらに続ける。

「いやしかし、素晴らしい技術を持った老爺だった。言っては悪いが、あのような小さな店で働くような人物ではないと思うのだが……」

「昔、【独立商業都市国家プレイヌ】が商業ギルドを通して通貨を発行したんですよねぇ。今も使われているあれですが。彼はその時に尽力してくれたうちの一人、だったように記憶しています。十分に報いたつもりですが、大っぴらに世間に言えることではないので、あのように質素な暮らしを続けているのでしょうねぇ」

「……はい?」

寝耳に水の発言にハルカが問い返すと、ノクトはその間抜けな顔を見上げて非常に楽しそうに笑っていた。

「いやぁ、良くあんな隠れていた実力者を見つけましたねぇ、ハルカさんは。あ、皆さん今の話ばらしたら大変なことになるので、人に言ったらだめですからねぇ」

「そういうの、ぽろっと話さないでほしいでござる……」

カオルの突っ込みは的確だったけれど、全員の表情を見て楽し気にしているノクトが反省することはおそらくないのだろう。