軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手の込んだ一品

案内してもらった店はそれほど広くなかった。

オレークが先に店へ入り、しばらくして仏頂面の店の主人と一緒に出てくる。

主人は外で待っている集団を見ると、さっさと店の中へ戻っていってしまう。

「あの、何かご迷惑でも……」

ハルカが心配して声をかけると、オレークは慌てて頭を振った。

「いえ! 人数を伝えたら貸し切りにしてくれると」

「なるほど……、そういうことでしたら……」

店内は薄暗く、何かを煮込んでいる良い匂いが漂っていた。

この世界に来てからかいだことのない香り。

思わず厨房の中を覗き込みたくなる気持ちを我慢してハルカは席に着いた。

「すっごくいい香りー。なんだろ? お肉のような気もするし、野菜のような気もするし……」

「店主さんがひっそりとやっている店なんです。なんでも出せる量に限りがあるらしく……、あまり宣伝もしてほしくないとのことで……。でも味は本当に素晴らしいんです」

店主がカウンターに次々とパンを並べ始めると、オレークが「おっと」と言って立ち上がり、それをテーブルに並べていく。

「手伝いますよ」

「いえいえ、座っていてください」

パンがずらっとテーブルに並ぶと、今度は同じように湯気の立った深い皿がカウンターに並び始める。店員でもないはずなのに勝手知ったるオレークは、それも次々とテーブルへ運び始めた。

少し懐かしい香り。

ハルカの目の前に来た皿に入っていたのは、黒に近い茶色の液体。ごろッとした野菜と共に、真ん中にどっかりと大きな肉が鎮座していた。

決して色合いが良くないはずなのに、その香りだけでよだれが出てくるようなそれを、元の世界ではビーフシチューと呼んでいた。

野菜と肉をコトコト煮込んだベースに、バターで小麦粉を茶色くなるまで炒めて作ったルーを足した物だ。さらに裏ごししたトマトやら、ワインやらを加えて味を調えていくわけなのだが……。

しかし今は作り方などハルカにとってはどうでも良かった。

手を合わせたまま皿が並ぶのを待って、皆がそれじゃあ一口となったのを見ると、小さく「いただきます」と呟いて、シチューをすくった。

想像通りの、いや、想像以上の味。

複雑で、しかし美味しいが最後に残るビーフシチューだった。

肉をつつくとほろりと崩れたので、スプーンの先でそれをすくってもう一口。

何の文句もなかった。

いつの間にか皆が夢中になって食べるものだから、会話もあまりない。

正直人と談笑しながら食べるには全く向かない食事であったけれど、その満足感は言葉で表せないものだった。

あまりお上品とは言えないながらも、パンで皿を掃除するようにシチューをすくったハルカは、最後のひとかけらを食事が終わることを惜しみながら口へ運んだ。

「はいよ」

するとその直後無愛想な店主が、その角ばった手や態度からは想像がつかないくらい、優しく音を立てずにテーブルに皿をおいた。

ハルカが周りを見れば、他の面々も無言で食事を続けている。自分が一番早く食べ終わったということもないだろうから、店主が様子を見ながらおかわりを持ってきて置いているのだ。

食事を邪魔しないという気づかいに、ハルカは少し感動しながら静かに頭を軽く下げてから、今度はシチューだけを楽しむべく、スプーンを手に取るのだった。

「ごちそうさまでした……、絶対にまた来ます」

「はいよ」

ハルカが丁寧にそう言ったのに対して、店主は眉をピクリと動かしてそれだけ答え、店の扉をバタンと閉めた。

「うまかった……」

「おいしかった……」

「あんなに安くていいのかな……」

騒ぎそうなアルベルトが静かに呟き、ユーリもそれに続く。そしてコリンは、大満足ながらも、味の割に手頃だったお値段に店の心配をし始めていた。まだうまみの余韻が口に残っているのか、モンタナはぺろりと舌を出して唇を舐める。

「オレークさん、ありがとうございます。とてもとても満足しました……」

「はは、それは良かったです。店主は昔遺跡を発掘する冒険者だったそうですよ。そこで見つけたレシピを再現しているうちに、このブラウンシチューにたどり着いたんだとか」

「いいですね、遺跡発掘。コリン、私、遺跡発掘を俄然支援したくなってきました」

「君って意外と現金だよね。……気持ちはわからないでもないけどさ」

ハルカの突拍子もない発言を、イーストンまで否定しない。

話を聞くために集まっていたものたちも、折角の美味しいものを食べた口を開けるのが嫌なのか、ぼんやりとしたまま三々五々に散っていく。

騒がしくならなかったので、ある意味この店に来てよかったのかもしれない。

「オレークさんってさぁ、こんな店他にも知ってます?」

「いくつかでしたら」

「店探すのって楽しかったですかー?」

「そりゃあもう、冒険者活動をしている時より楽しかったですね」

「へぇ、ふぅん、そっかぁ。今って何級冒険者? 生活苦しかったりしません?」

「な、なんですか? 四級ですけど……、そこそこ、厳しくはありますが……」

もともと兵士をしていたから戦ったり護衛する心得があるので、そこそこ階級は上がっているようだ。

コリンの楽しそうな問いかけに、オレークはたじろぐ。

「もしさ、店探したり紹介したりするのを商売にできるとしたらー、やってみます?」

「……生活ができないとなると困りますが、もし皆さんの頼みとあらば」

「あ、無茶なことは言わないから! 今まで通り生活しててもらって、話が本格的に動かせそうだったらまた相談しますから!」

「なんか怖いですが……、承知しました……」

久々に目がお金マークになっているコリンは、うふうふと楽しそうに笑いながら、勧誘がうまくいきそうなことを喜んでいた。