軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鎧騎士

リザードマンの里へ行った数日後、冒険者として活動するための準備をして、サラはオランズの街へと旅立っていった。カオルとエリが一緒についているから、〈黄昏の森〉を抜けることに問題はないはずだ。

人が少し減った拠点だったけれど、それぞれの暮らしはそう変わらない。

冒険者たちは訓練をしているし、住民は日常生活を続けている。

のんびりとした空気感でさらに数日過ごし、そろそろサラが街についた頃かなというある日、ドラグナム商会の商会長であるスコットがハルカを訪ねてやってきた。

「竜たちの囲いもできましたし、私はそろそろ一度〈プレイヌ〉の方へ戻ろうかなと考えております。こちらにも人は残しますし、定期的に顔を出すつもりですが、新たな飛竜を得たり、大型飛竜の卵確保に成功した際はぜひとも! すぐに! お声かけ下さい。ああ、飛竜同士の交配などがありましたら、その際も。竜の生態に関してはわかっていないことがたくさんありますから」

「え、ええ、はい」

並々ならぬ熱量に少し押され気味のハルカだったが、なんとなく性格を把握し始めているスコットは、裏を読んだりせずにそのまま話を続ける。

「この土地は広く開けていますし、水も木々も豊富です。オランズから三日ほどかけて歩いてこなければいけませんが、街と街のとの距離にしてはそう離れていない。人が移住するようなことがあれば、きっと発展するでしょうね」

「そんな日が来るでしょうか?」

「私が生きている間にはどうでしょう。しかし、十分にありうる未来でしょうなぁ……。さて、それでは私はこれにて! あ、今後こちらでも飛竜の卵などが手に入ったらこちらで育てさせていただきますので!」

「あ、はい、どうぞ」

ぱっと帽子を取って、太陽光を反射させながらスコットはすたこらと去っていった。そして待機させていた中型飛竜によじ登り、帽子を振りながらさっさと出発してしまう。

まるで逃げ出すみたいだなぁ、と思っていたけれど、ちゃっかりとここで飛竜を育てることにする、という事項を飲まされたことにハルカは気づいていない。スコットにしても、この拠点に損があるわけではないからいいだろうと思いつつも、交換条件を出してきそうな人とは話さずに去っていったわけである。

ハルカは中型飛竜が去っていった先を目で追って〈黄昏の森〉の方を眺める。やがてその姿が豆粒ほどに小さくなったので視線を下ろしてみると、タゴスの小屋のあたりに数人の人影が見える。そしてさらにその手前に、鉄の棒を肩に担いだ状態のレジーナがのしのしと歩いていくのが見えた。

一瞬でトラブルの気配を察したハルカは、空を飛んでレジーナの後を追う。

「誰か来てますね」

「知らねーやつ。鎧着てんな」

目を凝らしてみると、確かに馬に乗った鎧が見える。スコットの頭と同じくらいには太陽光を反射しており、しっかりと毎日磨かれていることが分かった。隣には従者。

それから大男が二人。

手前にいるのがタゴスで、従者と反対側で後頭部をかいているのはトットだ。

「トットがいるじゃないですか」

「誰だよ」

「……レジーナが冒険者ギルドの前でのしてた人です」

思い出せないらしくレジーナは難しい顔をして黙り込んだ。ちゃんと相手をした分評価は悪くなかったはずだ。その後関わっていないから忘れてしまったのかもしれない。

「ほら、邪魔だから蹴飛ばしたって……。あー……、〈オランズ〉の冒険者で、私の友人です」

ハルカが説明しても思い当たる節はないようだった。

どこへ行っても似たようなことをしているので、蹴飛ばしたことが特別な記憶にはならない。ハルカは諦めて情報だけを入れてやることにした。

近づいていくと、馬に乗った鎧騎士は背筋をピンと伸ばしたまままっすぐと前を見て黙している。その代わりに、頬にそばかすを散らした赤髪の青年がタゴスに何かを話している。

「というわけだ。ここのまとめ役のもとへ案内をお願いしたい」

耳に小指を突っ込んでぐりぐりとしていたタゴスは、話が終わってしばらくするとようやく青年の方へ向き直る。

「身分はわかったから勝手に行きゃーいいだろ」

「そういうが、ここは拠点なのだろう。まずは門番に許可を取ってから……。ん、あ、テロドス様! きっとこの方がそうですよ!」

話の途中でハルカに気づいた青年は、馬上の鎧騎士に声をかける。ここのまとめ役に会う、というような話をしていたから、ハルカに用があるのだろう。

このお堅い雰囲気や身なりを見てハルカが判断するところによると、おそらくこの騎士は【神聖国レジオン】の所属だ。コーディの使いなら問題ないのだけれど、もしそうだとするならばもう少しわかりやすい人選をしそうだ。

例えばハルカの知っている人物を混ぜるとか、地龍のオジアンを連れてくるぐらいのことはするだろう。

拠点とその先には、オラクル教に疑われて困ることだらけである。

「私に用事ですかね……? トットさんもお久しぶりです、お元気でしたか?」

「元気っす。姐さんが来たらしいって聞いたんですけど、会えなかったんで、依頼受けてついでにここまで」

「この方々のご案内ですか?」

「はぁ、そうっすね……なんかすんません」

妙な雰囲気を察したのか、トットは申し訳なさげに頭を下げる。

「テロドス様を無視して話をするんじゃない。名を……」

「よい、やめよ、シュート」

鎧騎士が手を伸ばして青年の話を遮る。ぴくりとレジーナが反応をしていたから、危ないところだった。

「そちらが特級冒険者ハルカ=ヤマギシ殿か?」

「高いところから喋ってんじゃねぇよ」

相手がしゃべり終えないうちに、レジーナが眉間に皺を寄せて答える。

「馬から降りて先に名前言え。てめぇはどこのどいつなんだよ」

しばしの沈黙と、一触即発の空気。

ハルカが間に入ってゴメンナサイしようとしたところで、鎧騎士は馬からのっそりと降りてきた。

「失礼した。【神聖国レジオン】神殿騎士第三席、テロドス=ジュベイルだ。そちらのダークエルフの女性がハルカ=ヤマギシ殿で相違ないだろうか」

「あ」

「面見せろボケ」

ハルカがいつもの通り『あ、はい』と言おうとしたところで、またもレジーナが声をかぶせる。

再びの沈黙で、騎士の表情はわからないけれど青年が青筋を立ててるのが見えた。

ハルカは完全にレジーナの前に出て、その姿を隠して頭を下げる。

「す、すみません」

「……いや、私が礼を失していた」

「テロドス様!」

「シュート、口を挟むな」

ぴしゃりと従者を黙らせたテロドスは、ゆっくりと兜をはずす……。