軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

買い物帰り

ラルフによれば、元公爵領の兵士を見つけた場合の対応は、すでに王国から連絡がきていたらしい。

王国としては上に従っていただけの兵士の罪を問う気はない。もし公的機関を利用しているのを見つけた場合は、それを本人に伝えてほしいとのことだった。もちろん事情聴取は行われるが、悪さをしていない場合は兵士としての再雇用も検討されるという甘い裁定だった。

もしそれで兵士が王国へ戻ってきた場合、兵士の証言に応じて、年に一度いくらかの礼金が支払われる。大した額ではないけれど、北方の三国はどこも表立って王国と喧嘩しようという気がないので、大体の場合素直にその連絡通りの対応をしているようだ。

思想を持つ上層部はともかくとして、一般兵士は強い差別的な考えを持っていることが少ない。人も資源の一つであるから、温情をかけて国の方針に従わせた方が、王国としてはうまみがあるという話だ。

ただしそれに従わない場合は何か悪さをしていたり、偏った思想を持っている場合があるので、十分注意されたしとの話も同時に来ている。戻らないことを選択した兵士は、王国の者として認める気がないのでどうぞ各国のお好きなようにと、そういうことらしい。

つまり、脱走兵たちは王国の外にいる以上、どんな目に遭っても泣き寝入りするしかないということだ。

ただ今回のようなケースの場合、すでに重い罪を犯してしまっているから、国へ帰るように言って釈放するわけにはいかない。きちんと【独立商業都市国家プレイヌ】の法によって裁かれることになるだろう。

やることがあるとすれば、刑が執行される前に、念のため重要人物でないか確認するため、王国へ問い合わせが行われるくらいだろうか。

なんにしてもこうなった以上、この件はもうハルカのあずかり知らぬところである。有力な商人たちと冒険者ギルドのお偉方の相談によって、その時期に最も利益が生まれるよう彼らの命が使われることになるのである。

そんなわけでこの件はハルカの手からは完全に離れる形になった。

街をぶらりと五日間ほど楽しんで、二人は昼前に〈オランズ〉の街を後にすることにした。

午前中のうちにあずかっていたお金で、拠点に必要なものを買い込んで、障壁の箱に積み込んでの出発だ。大荷物だけれど、たまに同じようなことをしているからか、街の人たちは振り返りはするものの、「ああ、ハルカさんか」ですませている。

「お、ハルカさん帰るのか」

門へやってきたところで、門番の冒険者に声をかけられる。体がすっかり良くなったレートンだった。一応瀕死の重傷だったというのに働き者である。

「ええ、のんびりしましたからね。用事も済ませましたし、この通り、色々と買い物も」

「相変わらず大荷物だなぁ。それだけの荷を一人で運べるなら、商人でもやったら儲かるんじゃないのか?」

「儲かるかもしれませんが……、性格的に商人よりも荷運びの方が向いている気がします」

「ははは、特級冒険者様がまた妙なことを言ってるなぁ。……しかしまぁ、本当に今回は助かった。俺がおっ 死(ち) ぬだけならともかく、未来ある若者を巻き込んだとなっちゃ死んでも死にきれなかったからなぁ。親切に経験積ませてやろう、なんて思ってあの様じゃあ、引退時かもな」

レートンは明るい調子で話してはいるが、表情は割と真面目だ。

体はともかくとして、精神的にはかなり引きずっているらしい。

「……無理して続けてください、とは言えませんけれど、レートンさんのようなベテランがいることって街にとっても大切だと思います。今回は結果が良くなかったかもしれませんが、まだまだ力を必要としている若手冒険者はいるんじゃないでしょうか」

「そうかねぇ? ……いや、そう言ってもらいたかったんだろうな。重ね重ねありがとうよ、ハルカさん。体にガタが来るまでは頑張ってみるよ」

「そうですね」

二人の大人なやり取りを眺めて、カーミラは満足げに頷く。

軽く挨拶を交わしてレートンに別れを告げ門を出る。さて、飛んでいく準備をと、道からそれたところで、遠くで何かが太陽光を反射してきらりと光る。

気になったハルカが目を凝らしてみると、遠くからよく磨かれた重装備を身に着けた騎士が、馬に乗ってやってくるのが見えた。

その手綱は従者が引いており、どこか物語から抜け出してきたような立派な雰囲気を醸し出している。

何も知らない人が見ればそんな感想かもしれないけれど、旅慣れたものからすると、騎士の姿は異様だ。戦闘中でもないのに、フルフェイスの兜までつけて街道をやってくる意味が分からない。

従者を連れていることや、装備の雰囲気からして、あの騎士はおそらく【独立商業都市国家プレイヌ】に所属する何某ではない。

特に用事があるわけでもなし、あれが何者か探る理由もなし、ハルカは出発の準備を終えるとそのまま空へ飛び立った。今までの経験からして、ちょっと変な人と関わると、面倒ごとに巻き込まれることが多い。

仲間たちみんなと一緒ならばまだしも、種族という危険な要素を持っているカーミラと二人きりで遭遇するのは避けたい。

鎧の騎士がその後姿をじっと見つめていたことに、二人は全く気付いていなかった。