作品タイトル不明
土産の交換
ハルカ達が〈グリヴォイ〉の街を出発する前に、ブランコはモンタナに頭を下げることになった。武器を作って渡すという約束だったが、用意したいずれもが納得いくものにならなかったからだ。
モンタナとしても思った以上に早く街に戻ってこられたこともあって、実はそこまで期待していたわけではなかった。ブランコの本気の謝罪をあっさりと受け取って、代わりに出来上がっているのものの中でも出来のいいものを一つだけ選んだ。
友人に渡すからといって手に取り、代金を支払おうとするとブランコは受け取れないと断る。一方でモンタナは絶対に払うといって譲らない。そうして払う払わないの、通常とは逆の言い合いの結果、代金を無理やり床に置いて出てきたのだった。
お互い頑固で面倒なところは似ているようだ。
そんな経緯で持ってきたショートソードと、店に置いてあったかなりお高いオーヴァンが打ったロングソードを、モンタナはブロンテスへと手渡す。ちなみに後者にもお金を払うつもりだったけれど、ディタに説得されて払うことができなかった。
母は強い。
「これ、言ってたお土産です。こっちが、僕の友達が打ったやつ。こっちが、父さんが打ったやつです」
「おお、軽い気持ちで言っただけだったんだがなぁ……。うーん、専門家ではないが、どちらも良い武器、に見えるなぁ。しかし……、こちらの短い方はモンタナ君のために打ったものじゃないのかな?」
「……わかるです?」
専門家ではないと言いつつも、ブロンテスの目は確かだ。
研究者肌のブロンテスの頭の中には、鍛冶の理論やデータが豊富に詰まっている。それこそ、かつてここにいたドワーフたちが脱帽して教えを乞うくらいには。
「うん、だってサイズが君の持っているものとぴったりじゃないか」
「……です。そのうちもっといいもの打ってくれるそうだから、待ってるですよ」
「そうか、お友達は修行中なんだね。それじゃあこれは私がもらっておこうか」
つまむようにして剣を手に取ったブロンテスは、それを壁につけた広いテーブルの上に立てかけた。
そこはいつもブロンテスが茶を啜っているテーブルで、毎日目をやる場所だ。
「ドワーフたちは、変わらず剣を打ち続けているんだなぁ。どれだけたっても頑固で、まっすぐな人たちだ。その友人もドワーフなのかな?」
「いえ、人族です」
「……おや、それにしてはドワーフっぽい剣だ。きっとその友人も口をへの字に曲げる頑固者なんだろうね。いい物をもらってしまったなぁ」
大層満足したようで、ブロンテスは嬉しそうに表情を緩めた。
そうしてテーブルに乗せていた麻袋を掴み、ハルカたちの前へ降ろす。
ブロンテスが持っていると大した大きさに見えないのだけれど、実際に目の前に降りてくると人が一人入っていてもおかしくないくらいの大きさだ。
「君たちの役に立つかわからないけれど、これは私からの贈り物だ」
「なんだこれ?」
何も考えずにアルベルトが手を伸ばし触ると、かさりと乾いた音がする。
「これはね、ここで育ててる草を乾かしたものだ」
「ヘカトルの飯?」
「いや、違うよ、食べるかもしれないけれどね。これはね、魔素をふんだんに含んだ草なんだ。今世界では、魔法を使える人がたくさんいるのだろう? その原理はおそらく、ヘカトルたちが雷を生み出すのと同じ理屈だ。魔素を取り込み、変容させ、体の外へ放出する。ヘカトルは楽園に住む生き物の中で一番魔法を巧みに使っている。その理由を蓄積してきた記録から自分なりに調べてみた。……この草にはおそらく、僅かながら、魔法を使うための回路を拡張させる力がある」
「……実験みたいな話になってきましたね」
今にも試してくれと言い出しそうな熱弁にハルカが苦笑すると、ブロンテスは慌てて首を横に振った。
「いやいやまさか。ああ、すまない、先にこれを見てくれ」
ブロンテスが指を一本立てると、青白い光が走り、バチバチッと何かがはじけるような音がした。鉄羊たちが使っている電撃と同じようなものがそこに再現されていた。
「これは、おそらく君たちが魔法と呼ぶものと同じものだ。これを初めて使えたとき、私は嬉しくて何度も何度も使ってみたのだけれどね、途中からひどい頭痛に襲われたんだ。おそらくそれが、君たちの言う魔素酔い、だ。しかしその魔素酔いによる頭痛は、この草を煎じた茶を飲むことですぐに和らいだんだよ」
「……それって、魔素酔いになってもこれで煎れたお茶を飲んだらすぐに戦いに復帰できるってこと?」
コリンが驚いた顔をして尋ねると、ブロンテスも真剣な表情で頷いた。
「……まぁ、そうだね。偶然の産物だけれど、君たちになら渡してもいいかなと思ったんだ。くれぐれも悪用だけはしないでほしいし、むやみに人に広めないでほしい。草を口の中に入れて噛んでいるだけでも効果はあるよ。ちょっと苦いけれどね」
「……貰わないほうが、いいかも」
「そうかな? 君たちの役に立てると思ったんだけど……」
「役に立ちすぎて、使いどころがわかんないだよねー……。いやでも、うーん、やっぱり持って帰ろうかなぁ、どうしようっかなー……」
「ちゃんと乾燥させているから、袋の口さえしっかり閉じておけば何年でも持つはずだよ」
ハルカたちのチームで、魔素酔いを気にするほど魔法を使うものはいないし、ハルカの場合はそもそも魔素酔いが発生しない。
そうなると使う可能性があるのは、ユーリや一緒に訓練しているサラくらいなものだろう。身内以外に分け与えるには便利アイテム過ぎる。どこかからこんなものがあることが広まったら、何とかして手に入れようとしてくるものが拠点に押し寄せてきそうだ。
さすがのコリンもこんなものをお金に替えようという気にはならない。
おそらくブロンテスはこの調子で当時も役に立つ研究を次々と世間に発表していたのだろう。
これでも反省した後だから控えているのであろうことを思うと、もしかするとまだ聞いていない当時の研究成果がまだまだ存在しそうだ。
「うー……、も、持って帰ろ……っかな?」
悩んだコリンはちらりとハルカの方を見る。
するとハルカは、両手の指を立てて、その間にバチリバチリと紫電を走らせている最中だった。先ほどブロンテスが使った魔法に感銘を受けて、なぜ思いつかなかったのだろうと、自分でもさっそく使ってみていたところだ。
コリンから向けられている視線に気づくと、さっと手を後ろに回して目を泳がせる。
話を聞いてなかったわけではないのだ、ちょっと興味に負けてしまっただけで。
「……折角なのでいただきましょう。普段からのお茶として頂いてもいいのでしょうし……、いざというときに役立つかもしれませんし」
「……ま、いっか、ハルカがそう言うなら」
いざってときは何とかしてもらおう、コリンは責任を放り投げてそう決めた。
「器用だな、ハルカさんは。私は鉄羊たちの真似をするまで結構な時間がかかったんだけれどな」
「この魔法、便利そうですね……」
「世間ではこんな魔法はないのかい?」
「おそらく、ないのではないかなと。帰ったら詳しい人に聞いてみます」
「うーん、魔法というのも興味深いね……」
聞いたことのない薬茶を土産に渡す巨人と、見たことのない魔法を即座に再現した特級冒険者。
異常な二人であったが、その会話ぶりは内容を除けば極めて普通で穏やかなものであった。