軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

すり合わせ

ほどなくしてハルカは三人に追いつくことができた。

普通通りのペースで進まれていたら、追いつくどころか引き離されているはずなので、まず間違いなくハルカが追い付くのを待っていてくれた形だ。

何度か振り返って様子を見ていたハルカだが、今のところ後ろについてくるものたちに欠けはなさそうだ。代わりと言っては何だが、先ほどの魔物大量虐殺現場の上空には、魔物らしき大型の鳥類が集まってきていた。

あのままのんびりしていたら犠牲が出ていたに違いない。

荒療治ではあるけれど、けが人を治さずに降りてきたのが功を奏したようだ。うかうかしていたら本当に見捨てられるのだというのがきちんと伝わったのかもしれない。

すぐ近くまで背中が迫ったところで、ハルカは少しだけ歩行速度を緩めた。

今後方についてきているものたちの一部は、モンタナの幼少期に嫌な記憶を植え付けてきた張本人だ。平時なら関わり合いになんてなりたくないし、依頼を受けるなんてもっての外だ。

それでも命の危機となると、なかなか見捨てるのは難しい。

例えば彼の身内が街で帰りを待ちわびていたとしたらと考えてしまう。助けられたものを見捨てて、関係ないものまで悲しませたくない。あんなでももし結婚をしていたら、家族は大黒柱を失うことになるかもしれない。

都合十数人、最大で数十人が路頭に迷うことになる。

そのおよそ半分の行きつく先は、厳しい仕事や飢えによる死。ハルカは上手くいっているからいいけれど、この世界は案外普通に街で生きていくものにとっては厳しかったりする。

この結果に伴って、いつかモンタナが後悔するときだって来てしまうかもしれない。

コリンやアルベルトなんかは、自分の事情ではないし、何があっても案外すっぱりと切り捨ててしまうだろうけれど、モンタナは事情が事情だ。

不幸になる人の中には、モンタナの知っているものだっているかもしれない。死ぬというのは、治癒魔法ではどうにもならない取り返しのつかないことなのだ。

なんて理論武装を改めてしてから、ハルカはこっそりとため息をついた。

彼らを助けたことに前の三人はもう気づいている。

結局助けたのは自分のエゴだとわかっているから、開口一番ごめんなさいをするつもりだった。謝るのはいいのだが、モンタナや、助けないことを決めたコリンに嫌な思いをさせるのが憂鬱だった。

考えながら歩いていると、いつの間にか横にモンタナが並んでいた。

少し離れた場所ではアルベルトが前だけを見て歩き、コリンがちらりと振り返って様子を見ている。

「気にしてないですよ」

言葉を選んでいるうちに、モンタナに先に言われてしまった。

「勝手なことをしました、すみません」

気遣ってそう言ってくれているのだろうと判断したハルカは、項垂れながら謝罪する。謝ることも先にできないのかと、ひどく情けない気分だった。

「そんなに落ち込まなくていいです」

「しかし、彼らとは何か遺恨があるのでしょう?」

「あるです。でもそのお陰で冒険者になったです」

「本当にそう思っていますか? 嫌な気持ちになってたら、怒ってもいいんですよ?」

怒られたい気分なのだ。

程度は違えど、昨日アルベルトに素直に殴られたブロンテスに近いような心持ちだった。

「……怒ってあげないです」

モンタナはうっすらとほほ笑みながら答える。

「あんなでも、小さなころから知ってる人です。あのまま僕が助けると調子に乗るですし、反省もしないです。……ハルカが助けてくれるだろうと思って知らんぷりしたです。だから、ありがとですよ」

「……そうなんですか?」

「です。でも死んだら死んだで仕方ないと思ってたです」

「あ、そうですか……、すみません」

「でも、謝罪は受け取っておくですよ」

やっぱり半分くらいは気遣いかとハルカが謝ると、モンタナは見上げながら尻尾をくねらせた。

話が終わったころに、前の二人と合流すると、すぐにコリンが口を開く。

「ハルカ、いい感じー」

「へ?」

「いい感じにビビってるから、途中で護衛料の交渉できそうじゃない?」

「あー……、それは確かにあるかもしれませんけど……。いえ、そんなことよりも勝手に助けてしまってすみません」

「ん? どうせ助けると思ってたしいいよ。私が厳しくしてー、ハルカが甘やかしてー、これで金払いが良くなるって作戦ね!」

声を潜めながらもコリンはちょっと楽しそうだ。

ハルカの行動を責めるような雰囲気はない。

「なんか、その、勝手なことをしておいてなんですが、少しほっとしました」

「何がー?」

「あの場面、彼らを助けることってそれほど益のないことだったと思うんです」

コリンからの返事がない。考え方としては間違っていないということなのだろう。

「それでも、助けても良かったんだなと」

「んー……。私はさー、別に見殺しでよかったけど、それだとハルカの気分悪いじゃん。どうしても助けたくなかったらちゃんと言うし、ハルカの腕引いてくもん。私そんなに薄情っぽい?」

コリンは唇を尖らせてハルカの横にぴったりくっついた。

どうなのと答えをせかすように、頭を肩に擦り付けてくる。

「……いえ、私が自分の考えに自信がなくなっていただけなんです。すみません」

「ふーん、ま、いいけどね。なんかあったらちゃんと相談してよね」

「つーか、本当に死んでもいいくらい気に食わなかったら俺は自分で殺すけどな」

「あ、はい……」

相変わらずハルカに甘い仲間たちの言葉だったが、最後に一言、アルベルトが思ったことをストレートにぶちまけた。

結局のところ、アルベルトたちくらいの実力になれば、本当に気に食わない一般人の命を奪うことなんて容易いのだ。それをしないということは、その程度ということである。ハルカが深く悩むほどのことではない。

今回ハルカが悩んでしまったのは、きっと少し前にゴブリンの命を大量に奪ったことも影響していたことだろう。

たくさんの命を奪わなければいけない時もある。

そんな非情な状況を身をもって体験して、価値観が若干揺らいでいたのかもしれない。

しかしまぁ、ハルカに甘い仲間たちは、これくらいのことは日常の一つと大して気にも留めないらしい。

ハルカのやることなんて大体お見通しだ。伊達に三年間も一緒に冒険者をしていないということになるだろう。