軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解決しないけれど

「そうだな、いっそ殴ってもらえたらすっきりするのかもしれない。私は誰かに罰を与えられたいのかもしれないね。ハルカさん、その、彼を放してやってくれ」

「しかし……」

「放してやってくれ」

仕方なく押さえていた手を離すと、アルベルトはぐるぐると腕を回しながらブロンテスの方へ歩いていく。それをハルカ以外の二人は止めることもなく眺めていた。

「いや、そんな罰なんて……。そもそもブロンテスさんはそんな結末を予測して作ったんじゃなかったんでしょう?」

「作った結果どうなるか予測することは、研究者の義務だ。それが至らずあそこまでの事態を引き起こしたのだから、それは私の責任だ」

「包丁で人が殺されたとしても、その包丁を打った人に責はありません!」

よく聞く理論を展開してみたハルカだが、ブロンテスは首を横に振る。

「誰か殺したいと言っている人に包丁を与えたのなら、それは与えたものにも責がある」

「……よくわかんねぇけど」

ハルカが反論を考えているうちに、アルベルトが軽く助走をつけて地面から飛びあがる。

モノクルをテーブルの上において眼を閉じるブロンテス。

障壁を展開しようか迷い、結局やめたハルカ。

身体強化をした拳をふるうアルベルト。

「うじうじしてんじゃねぇ!」

圧倒的な質量の差があるはずのアルベルトの拳は、ブロンテスの頬に突き刺さり、その体をきちんと椅子から叩き落とす。側頭部を床にぶつけたブロンテスは、その意識をすこーんと綺麗に脳の外へ放り出した。

丈夫な巨人の体だから流血するようなことはなかったが、ブロンテスの右頬には早くも軽い内出血が浮かび始めていた。

「よし」

「やっぱ遠慮なしかー」

「手加減してんじゃん」

「もうちょっと手加減しても良かったと思うです」

「いや、こんなもんだろ」

「みんな冷静すぎませんか……?」

ハルカは治癒魔法を使うためにブロンテスに近づいていく。

「研究者だから、多分そういう時どうしたらいいかわからなかったですよ。わからないまま、ここで千年生きてきたです。ちょっとかわいそうです」

「開き直っちゃうか、いっそ辛いと思うことすればまだましなんだけどね。ずっと反省だけしてたんじゃないかなー、ブロンテスさん」

「俺はなんかよくわかんねぇけど、殴った方がいいと思ったから殴った」

アルベルトは論外としても、冒険者には冒険者なりの理論があるらしい。

ハルカにはわからないことだってある。

「ハルカはどっちかというとブロンテスさん系の性格だもんねー」

「……でも私は皆さんに話聞いてもらえますから。ブロンテスさんはきっと、誰にも発散できなかったのが辛かったんですよ」

ハルカはそんなことを言いながらブロンテスの怪我を治す。

見る間に怪我が消えたブロンテスの肩を軽く揺さぶってみるが、目を覚ます様子はない。大きな体はしているが、争いごとには疎いのかもしれない。

ハルカは姿勢を普通に寝ているような状態に直してやってから元居た席へ戻る。

「当時もさー……、今みたいに人を襲う 破壊者(ルインズ) はいたのかな」

目を覚ますまでの暇つぶしのつもりなのか、コリンが切り出した。いつ目を覚ますともわからないので、あまり繊細な話はしたくないけれど、気になる話題ではある。

「いたと思うですよ。人が魔道具をもって他を支配しようとしたのと同じです。体が大きいから、再生力に優れてるから、戦闘能力にたけてるから、他を支配していいと思う人はいるですよ」

モンタナにそう言われると否定もしづらい。

そうだとしたら、政治的な側面を見たとき、ブロンテスの思っている以上に、人族の立場が微妙だったなんて可能性もあり得るだろう。何かあったからこそ戦争に踏み入ったのかもしれないが、それはもう、当時の国の首脳部の話を聞いてみないとわからない。

事実今だって、人族だからと言って仲良しこよしでやっているわけではないのだ。

あちらこちらで内乱やら戦争が起きている。

王国では女王エリザヴェータと叔父である公爵が争っていた。

帝国では先代皇帝を葬ったソラウが今の皇帝だ。

ブロンテスが何かを開発しなくても、いつかは世界中で争いは加速したかもしれないし、結果は違えど多くの人間が死に追いやられたのかもしれない。

だからブロンテスのせいではない、とまでは言えないけれど、結局のところ全ては過去の話だ。

因果関係で言うならば、ブロンテスが作り出した発明がなければ冒険者なんて職業は存在しなかったかもしれないし、なんならハルカがこの世界にいなかった、なんて未来もあったかもしれない。

行動にどこまで責任を取るかなんて誰にも決められない。

本当にすべてに責任を取らなければいけないのならば、おちおち呼吸もしていられない。

頭を使う研究者であるブロンテスは、長い歴史の中、当然そんな結論を出したこともあっただろう。

それでもこうして今も苦しんでいる。

自分が悪いのだと決めつけて、過去に囚われたまま生きている。

千年もの間悩んでいるだけでも、ブロンテスの人間性は保証されているようなものだ。

ハルカは、できることならば目を覚ましたブロンテスが、多少なりともすっきりとした顔をしていればいいなと思っていた。