軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暗躍する男

「交代する?」

コリンがすぐにハルカへ声をかける。情報開示の段階がすぎたので、ここからはコリンの仕事だ。

「ですね、お願いします。できれば立場をかさにきて命令するような真似はしたくないですが……」

「評判悪くなってもやだもんね」

ハルカたちが真剣に話している間に、アルベルトとモンタナもヒソヒソと話をする。

「鉄のうんこだってよ、モンタナ知ってたのか?」

「知らなかったです。鉄羊は肉美味しいですかね」

「捕まえに行くか」

「巨人も気になるです。話できるなら会ってみたいですよ」

「すげぇ強かったらどうする?」

「強いと思うです、長命ですから。鍛冶もするらしいですから、でっかい武器もってるかもです」

「武器かぁ、神人戦争の頃からって言うと、真竜のばぁさんとかと同じくらいだろ」

ワクワクしながら話している二人に気づいたハルカとコリンは、途中からそちらに耳を傾ける。これは依頼を受けるにせよ受けないにせよ、山に登ることにはなりそうだ。

外部に漏らしてはいけない話を聞いて、そこへ興味本位で行くのはどうなのだろうと思うハルカだったが、冒険者にこんな話をしたらこうなるのは当たり前だとも思う。

とはいえ、せめて折り合いをつけて依頼を受けるくらいしておかないと、モンタナの父親の期待も裏切ることになる。

コリンは楽しそうな二人を見ながら「しょうがないなー」と呟いてため息をつく。

「はーい、ところでこの依頼で優先することって何ですか? 天辺までたどり着かせないこと? 巨人に会わせないこと? 変な動物を見せないこと? それとも若い職人たちの命ですか?」

「……まず、巨人に会わせんことだろうな」

愉快な顔を顰めさせたオルメカが腕を組む。

「これに関しては、噂が広がってしまうとこの街が丸ごとオラクル教に睨まれることになる。国としても面倒くさいことになるから、その場合儂は知らん顔をするか、こいつらと手を組んで街を独立させねばならなくなる」

「そんなことよく私たちにぺらぺら話しましたねー」

「誰にだってというわけじゃないぞ。おたくらオラクル教のコーディ=ヘッドナートと知り合いだろう。もし街に来て話が来るようなことがあれば便宜を図ってくれと言われとる」

ハルカたちは顔を見合わせる。

ここにきて突然出てきた名前にはよくよく聞き覚えがあるが、まさかこんな手回しをされているとは露ほどにも思わない。

『驚いてもらえたかな?』と笑うコーディの顔が想像できてしまってしてやられた気分だ。

「……コーディさんもこのことを知っているんですか?」

ハルカの問いかけに、オルメカは嫌な顔をして首を振る。

「話しちゃいないんだがな。しかし、ヴィスタには様々な文献が眠っているらしく、勝手に妄想したこの街の歴史を語っていきやがった。最初は警戒して、縊り殺してやろうかと思ったもんだが、いつまでたってもお咎めも来なけりゃ審問官も現れない。ほっほ、つまりそういうことだろう、おたくらも」

「やけにあっさり危ない話をすると思ったんだよねー……」

コリンも少し納得いかないような顔で頬杖をついている。

「あのおっさん暇なのか?」

「暇なわけないでしょ、一応偉い人なんだから」

「そです、あんなでも偉いです」

「あの、一応とか、あんなとかやめましょうね。ちゃんと偉い人ですから」

なんだか少し肩の力が抜けてしまったハルカ達である。

「えーっと、そんじゃあなんでもいいから諦めさせたらいいのね。それなら多分、師匠さえ説得できればなんとかなるでしょ。どうせ山の魔物の合間を縫って天辺まで行けるほど強い人いないんだから」

「ほっほ、まぁそれでいい。ついでに先導したものを諦めさせてくれるとなおいいんだが……」

「ついでにできたらやりまーす。報酬はたんまりもらえるんですよね?」

「うむ、酒豪会にたんまり貯蓄してる金があるからな」

「酒豪会?」

聞きなじみのない単語にコリンが問い返すと、オルメカ伯爵はほっほと笑う。

「儂と親方衆が毎晩酒を飲んで楽しく過ごすための会だ。向こう百年毎晩飲んでもなくならないくらいの金が倉庫に積んである。ほっほ、酒豪会のやつらは、金はあっても使い道がないような連中ばっかりでなぁ。だからと言って武器の販売価格を下げるわけにもいかんからなぁ」

「あ、はーい。じゃ、その無駄なお金からたんまりもらっていくことにしまーす。じゃ、じゃ、さっさと行った方がいいと思うから出発していいですかー?」

「他に確認したいこととかはないのか?」

「んー、さっさと追わないと余計に見つけるの難しくなりそうだし……。 巨釜山(おおがまやま) の地図とかあるなら欲しいですけど……」

「ない。あえて作っとらんなぁ」

「じゃ、ないでーす」

コリンが立ち上がったのに続いてハルカたちも立ち上がる。

腕を組んでいたオーヴァンはモンタナをじっと見つめて言う。

「頼んだ」

「頼まれたです」

モンタナがこくりと小さく頷くのを待って、ハルカたちは工房の外へ出る。

外はすでに暗くなり始めているけれど、街の中を歩く分には問題ない。外へ出たとしても空には月が出ているから、完全な暗闇にはならないだろう。

「じゃ、急いでいこっか。どーせさっさと依頼を終わらせて、巨人に会いに行きたいんでしょ」

「おう! 鉄羊もな!」

「楽園も気になるですから」

「そうですね、山の天辺にそんな場所があるなんて気になりますものね」

「はいはい、じゃ、しゅっぱーつ」

さっきまでは真面目に交渉について考えていたせいで混じれなかったが、ハルカだってファンタジーっぽい展開は好物だ。山の上の楽園、見たことのない不思議な生き物、そして鍛冶が得意な巨人。それも好戦的でないらしいことも分かっている。

少し離れた場所にあるひときわ高い山を眺めて、ハルカも少し気分が高揚してくるのだった。