軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈グリヴォイ〉へ向かって

野営地は結構快適だ。

ナギが木の少ない地面に着地した後、軽く地面を均し、そのあとハルカが障壁を横に広げ、まとめてごみを端に寄せる。それだけでハルカたちとナギがこじんまりと生活できるくらいの空間ができるのだ。

ハルカたちの食事ができたころに、ナギも自分の獲物を咥えて戻ってくる。

丸々太ったイノシシは、人間が食べてもおいしそうだ。

ハルカたちの前に向き直って、一度地面に獲物をおき、ナギはフスっと鼻を鳴らした。

「大物ですね、良くとれました」

「狩りが上手になったです」

「昔はハルカの背中に引っ付いてたのにねー」

「俺も遭えば狩れるけどな」

「ナギと張り合わないでよ」

今日の収穫がなかったことを未だ気にしているアルベルトが腕を組んでむすっとして、コリンから肘でつつかれている。

褒められておおかた満足したのか、ナギは改めてイノシシを咥えなおすと、横を向いてバリバリと食事を始めた。ほっとくと毛皮から何からすべて食べてしまうのだが、それで腹を壊すわけでもない。

竜というのはなんとも丈夫な生き物である。

見た目が結構グロテスクなうえ臭いもあるので、ナギは一応気を使って少し顔を逸らして食べてくれている。とはいえハルカたちも慣れたもので、それで食事が進まなくなるようなこともない。

食後はちゃんとハルカが出した大きなウォーターボールでがぼがぼと口を漱ぐ習慣がある綺麗好きなので、普段から臭いがこびりついたりするようなことはない。

たまにどこかで水浴びもしているようで、鱗に魚をひっかけて帰ってくるようなこともあった。二十メートル級の大型飛竜であるナギだから、水浴びできるような場所も限られている。

なんとなくハルカにはその場所に心当たりがあった。

忙しくなくなったラルフがそこへやってきて、ショックを受けないように、そのうち環境整備に行かなければいけないと思っている。

高い山の近くへ行くとまだ雪が残っていて寒いので、谷の間を縫うように飛んでいく。寒いとはいえ着実に春は訪れているようで、山の裾には青々とした草花が茂っている。

ナギの背に乗っての旅は快適だが、たまには季節を感じて野原を歩くのもよさそうだとハルカは思う。しかしこれはもしかしたら年寄の感覚なのかなとも考えてしまう。

この世界に来てから丸三年。

なんと気づけばアラフィフになっている。

人間五十年なんて言葉もあるくらいだ。

今となっては寿命なんかよくわからなくなってしまったけれど、晩年くらいの老成した気持ちを持っていたいものだとハルカは思っていた。

むしろ日々生活も性格も若返っているような状態なのだが、ハルカだけは心の中におじさんを飼い続けているようだ。

谷間にある山道を眺めていると、たまに旅をしている一団がいて、ナギの姿を見ると一斉に荷をおいて左右の茂みへ飛び込んでいく。

申し訳ないような気持ちを抱えながらも、ハルカは一つ気づきを得る。

上から見ると、隠れているのはずいぶんと見つけやすい。

猛禽類が小さな獲物を捕まえられるのがよく理解できた。

南方大陸で月夜に傭兵たちと戦った時にも思ったが、戦いにおいて一方的に空を飛べるというのは圧倒的なアドバンテージだ。

知っていることと、やってみて理解することはずいぶん違う。

茂みから出ているいくつかの頭を眺めながら、そんなことを考えるハルカもまた、最初の頃に比べれば立派な冒険者になっているということだろう。

山を越えて一晩。

その翌日さらに昼過ぎまで飛んで、街から少し離れた場所に降りて道を歩く。

前と同じようにナギを後ろに歩かせているが、左右をずっと茂みや木にこすりながら歩いている。痛くないか確認をしてみたが、どうやら窮屈なだけで痛いとか痒いとかはないようだ。

国境から続く道で、首都を通る本道ではないから、多少狭いのは仕方がない。

左手に山を望みながら進んでいくと、日が暮れる前には〈グリヴォイ〉の街近くへと到着した。山の裾に広がって作られており、街を越えて進んでいくと海も臨むことができる。

鉄を扱うものだから、おそらく潮風が届かないことを計算してここに作られたのだろう。

なかなか風光明媚な場所であるが、この街の名物はそんなものよりも剣や鎧だ。

木材と鉱石、それに水。

鍛冶の街として有名になるにはあとは職人さえいればいいといううってつけの場所であった。

街が見える前にハルカたちは二手に分かれて先触れを出すことにした。

ナギと留守番をするのがアルベルトとコリン。

街へ行って事情を伝えるのがモンタナとハルカの役割だ。

ナギがいることでトラブルが起きても、コリンがいればうまく説明できる。

逆に街方面は、モンタナの顔見知りが多いだろうから、ナギがきている事情が話しやすいはずだ。

モンタナと二人で街へ向かうと、途中で山から続く分かれ道から、沢山の薄汚れた男たちが歩いて出てきた。背が低くがっしりとした体つきの男たちは、肩に鶴嘴を担ぎ、車に石をのせて引っ張っていく。

そのうちの一人がすぐ後ろからやってきたハルカたちに気が付き、おやっと眉を上げ、仲間に何事か声をかけてから近寄ってきた。

「お、おお、おいおい、もしかしてマルトー工房の坊ちゃんか!? 大きく……は、なってねぇかぁ。おいらのこと覚えてるか?」

「セパルトさんです。久しぶりです」

「はっ、はっは、おー! 久しぶりじゃねぇかぁ」

セパルトが手を伸ばしてきたのに合わせて、モンタナが飛びのいてハルカの後ろに隠れる。

「なんだ、小さな時はいつも高い高いしてやってたのに」

「もうすぐ十九になるですよ、子供じゃないです」

「十九かぁ、そうかぁ、よーく帰ってきたなぁ。……んで、なんだこの別嬪は。耳がなげぇな、エルフか?」

「ハルカ=ヤマギシと申します。モンタナと冒険者のチームを組んでいます」

「おっ、マジかよ。それらしいじゃねぇか。手紙もよこさねぇんだから、親方も心配してたぞ」

そこまで話したところで、がやがやと男たちが歩いてやってきて、口々に好き勝手なことを言い始める。

しばらく黙って聞いていたモンタナだったが、ハルカの後ろから顔を出すとドワーフのおじさんたちに向けてはっきりと言い放つ。

「人待たせてるから早く街に入りたいです。どいてほしいです」

ドワーフたちは顔を見合わせると、ガハハと笑い、誰ともなしに「そんじゃあ行くか」と歩き出す。それでも何してたんだ、どうなったんだとドワーフたちは順番もなく次々と、楽しそうにモンタナに問いかける。

モンタナは少し鬱陶しそうにしていたが、ドワーフたちはお構いなしだ。

どうやらモンタナは、うまくいかないことがあっただけで、街で孤独だったというわけではないらしい。