軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロマンスのない

ハルカに問われてアルベルトは考える。

アルベルトは父であるドレッドに育てられた。母親の顔は憶えていない。

魔法使いでありドレッドの相棒であった母親は、アルベルトが生まれてすぐの護衛任務で命を落としていたからだ。

でも寂しいことはなかった。

父親は立派な冒険者だったし、いつも一緒に行動しているハン家の人間がにぎやかで、アルベルトのことを大事にしてくれたからだ。

アルベルトの母親は明るいけれどしっかりした女性だったらしい。

ハン家の人とも仲が良く、コリンとアルベルトが生まれた年、将来この子達を結婚させようと面白半分に言っていたのだとか。つまり半分本気だった。

アルベルトの母親が亡くなってからは、どちらの家族もそれが実現したらいいなと思っていたから、なんとなく二人をいつも一緒にいさせていたわけだ。

だからアルベルトは漠然と、これからもずっとコリンと一緒にいるんだろうなと思っていた。

おとなしいコリンを守ってやるのは自分だと思っていたし、冒険者になったらハン家の護衛をできるくらいに立派になるんだと思っていた。

ところが、ドレッドに失恋してからのコリンは、なぜか冒険者になると言い出した。今までとは違って活発になって、日に日に性格も明るくなっていく。

本当は物語の中の冒険者のように、自由に各地を回りたいと思っていたアルベルトにとって、コリンが一緒に冒険者になるというのはひどく嬉しい話だった。コリンも一緒に冒険者になってくれるなら、一緒にどこにだって行くことができる。

まぁ、つまり、強がったり反発したりしながらも、アルベルトはコリンと離れようと思ったことはなかったのだ。

父であるドレッドも、コリンに妙な影響を与えてしまったことに責任を感じたのか、いつの間にやら『後衛や魔法使いを守ってやれ』から『コリンをちゃんと守ってやれ』ということも増えてきていた。

アルベルトは言われなくたってそんなことわかっていると、少しだけもやっとした気持ちを抱えながらも素直に父親の話を聞いていた。

「……結婚したらなんか変わんのか?」

「……どうなんでしょう?」

「私に振らないでよ」

答えを持っていないハルカはそのままエリの方へ話を受け流す。

「結婚したら子供作るんじゃない? あとは……財産とか……、親戚づきあいとか……。……あんたたちの場合は変わらないわね、確かに」

「だろ? 俺はもともと色んな奴に挨拶しろとか言われたり、窮屈な服着せられたりすんのが嫌だったんだよ。あとは勝手に話進められんのが気に食わなかった。これ以上余計な介入されなくなった分だけよかったんじゃねぇかな?」

「それ、コリンの前で言わないほうがいいわよ」

エリが忠告すると、アルベルトは少し背筋を伸ばして、コリンが眠り込んでいるのを確認してから口を開く。

「なんか怒りそうだよな」

アルベルトの認識は、せいぜい『なんか』程度だ。この調子だと、コリンから何かアクションがない限り関係が進むことはなかっただろう。

あとはもうコリンの気持ちの問題だ。

アルベルトのことを嫌っているわけではないから、本当に手順の問題と、勝手に決められたことへの怒りなのだろう。

まだまだ若いとはいえ、アルベルトが普段からもう少しコリンのことを大切にしている雰囲気を醸し出していれば、ここまでの怒りはなかったのかもしれない。

「女心のわかんない奴ね」

「わかるわけねぇじゃん、男なんだから」

「わかろうとする努力くらいしてあげなさいよ」

都合が悪くなってきたのでアルベルトはだんまりだ。

さっきの本音を、コリンが怒りそうだから言わないでおこうと判断しただけでも上出来である。

結局その日は一滴も酒を飲まなかったアルベルトは、翌朝頭痛を訴えるコリンを面白がってからかい頭をたたかれていた。一晩経ってコリンも吹っ切れたのか、すっかりいつもの調子である。もしかするとただ二日酔いがつらくてそれどころじゃないだけかもしれないけれど。

結婚騒ぎで街へ来た目的を果たせていなかったコリンに代わって、ハルカは一日かけて拠点に必要なものを買いそろえる。障壁で囲って持ち運ぶことができるので、大量に買い物をするときは本来ハルカがいる方がいいのだ。

その途中でトットが女性相手に楽しそうに話している姿を見かけたが、ハルカはそっとしておくことにした。ラルフが結婚を決めたことで、トットの懸想相手もようやくトットのことを見るようになったのかもしれない。

季節が春めいてきて、あちらもこちらも春模様だ。

「この季節になると少しだけ故郷が恋しくなるでござるなぁ……」

今日連れ歩いているのはモンタナとエリ、そしてぽつりとつぶやいたのはカオルだ。

「神龍国『朧』でしたっけ? この時期に何かあるんですか?」

「春になると綺麗な花を咲かす木があるでござるよ。島によって少しずつ色が違ってそれはそれは綺麗なんでござる」

侍と忍者がいる、日本と極めて近い性質を持つ国。そんなところまで似通っているらしい。ハルカは『朧』の話を聞いていると、たまにこの世界と元の世界がつながっているんじゃないかと思うくらいだ。

「いいですね、さぞかし綺麗なんでしょう。お花見とかするんでしょうか」

「よくご存じでござるな。その木の近くで敗れ血を流したものが多いほど、より鮮烈な赤色の花を咲かすでござる。たまに花見の席取りで殺し合いになるでござるよ。そのお陰で翌年はさらに美しい花が咲くんでござるなぁ」

「あ、そうですか……」

ハルカが思っていたよりずっと物騒なお花見の世界だった。

会社の新人時代半日以上前から場所取りをさせられていた嫌な記憶も、この物騒な世界と比べれは平和で些細なことのように思える。

「物騒ね、行きたくないわ」

「あ、エリ殿、勘違いしないでいただきたい。そんなことをするのはほんの一部のもので、そもそも花見合戦をするために場所取りをするような連中でござる。風流に楽しむものは、最初から合戦に交じらずに花を愛でるでござるよ」

「血の色の花をです」

「花見合戦……」

名前がついているくらいだからきっと季節の風物詩なのだろう。嫌な風習である。

「い、いや、しかし本当に見事なんでござるからして! 皆さんも一度見に行くといいでござるよ」

「ははは……、機会がありましたら……」

機会がなければいかないでおこうという結論だった。