軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謀り

小鬼(ゴブリン) という種族には、たまに抜きんでて賢いものが出てくる。

そうすると狩りが効率化されたり、多くの仲間を犠牲に他種族を陥れて食料にしたりし始める。

ただ、圧倒的な数の暴力を持つ小鬼でも、やがて食料がなくなると共食いをはじめ、賢かったものもその飢餓の渦に巻き込まれて命を落とすことが大半だ。

つまり種として生き残ることに 長(た) けてはいても、種として繫栄することはほんの一瞬しかできない悲しい種族であると言えるだろう。

さて、ほんの数年前、小鬼の中に賢き若者が生まれた。

たまたま食料が潤っていた時期に生まれたその小鬼は、これまでの賢きものと同じように、効率的な罠を作ることを思いつき、オークを陥れて食料にする術を手に入れた。

近隣を支配して、仲間たちが増え始めたころ、賢きものは危機感を抱いた。

このままでは食料がなくなり、いずれ共食いになるであろうことを予見したのだ。

そして、それを打破するためには、新たなる獲物が必要であると判断した。

山の東に広がる森に暮らす主な 破壊者(ルインズ) は、小鬼たち、オークたち、それからアラクネだ。数では圧倒的に勝っている小鬼は愚鈍なオークを食料にすることはできるが、流石にアラクネは難しい。

そもそも巣にかかる獲物を待つタイプのアラクネとは相性が悪いのだ。

どんな大群で攻め入ったところで、糸に巻かれて非常食にされるのが落ちである。

海側に出てみると、今度は海の中で暮らす魔物が住んでいる。

そもそも交わることのない種族だし、海に入って勝てるような相手ではない。

そうなると自然と矛先は決まっていた。

山に住む馬鹿なハーピー、それから大群で向かえばまだなんとかなりそうなリザードマンが獲物だ。

偵察の小鬼を大量に放って情報を得た賢きものは、絶対の自信をもって作戦を決行した。

もし苦戦したとしても、大量に増えてしまった仲間たちを半分くらい処理できればそれで十分だと考えての雑な作戦だった。

はたして、予定通り進んでいた作戦に小鬼は満足していた。

どれ、今頃リザードマンの里にでも乗り込んだかなと、賢きものは念のため数人の比較的頭のまわる側近を引き連れて山へ向かった。

しかし賢きものたちがそこで見たのは、予想外の恐ろしい光景だった。

一面に広がる小鬼の死体。

ふさがれた道。

呆気にとられた賢きものは、この光景を作り出したものがまだ近くにいるかもしれないと思い至り、慌てて側近に指示を出して死体の山の中に体を伏せさせた。

そうしてあたりを窺い、やがて上空に何かが飛んでいることに気が付く。少しずつ近寄ってきたそれは、遺体の山をしばらくの間見下ろしていた。

賢きものたちは息をひそめる。

今見つかれば命がないと思ったから。

白銀の髪をなびかせたその存在は、首を動かしながらあたりを見渡し、そして目を閉じた。

直後賢きものたちは熱波に包まれる。

一呼吸する間もなく外皮が焼け焦げ、一呼吸した瞬間に体内が焼けただれ、思考する間もなく命を落とした。

リザードマンたちにハーピーたちの安全と対応をお願いしたハルカは、すぐさま現場へ取って返して小鬼たちの死体を焼き払った。

死体を長く放っておくと不衛生で、疫病の原因にもなり得る。ほとんどの小鬼の頭部を切り落としているので、めったなことではアンデッドは誕生しないはずだが、それだって可能性はないわけじゃない。

端から端まで、範囲を確認して、高温の炎を生み出した。

魔法の制御もしっかりできるようになってきているから、炎は必要な範囲に収めて発動させている。

魔素を基に生み出された炎は、ハルカが魔法を使っている間だけ燃え盛り、そして五分ほどで一斉に鳴りを潜めた。

そこに残ったのは焼け焦げた岩壁と、わずかに形を残す骨。

それもきっと、やがて風に吹かれて何処へと消えていくことになるだろう。

ハルカはほんの少しの間だけその光景を見つめ、目を閉じてからリザードマンの里へと戻ることにした。今回の騒動の元凶がここで命を落としたことには、当然最後まで気が付くことはなかった。

「ヘルカ、ミアーはここに住むこトにしタ」

帰ってきたハルカに、空を飛んでいの一番に近寄ってきたミアーが言ったことがそれだった。

「ハルカです、話し合いをしたんですか?」

「ハルカ! 話しタ。ヘイカが帰ッテからダッテいうから、一番に話しタ! ヘイカはハルカデ、ハルカはヘイカダ!」

「……ちょっとドルさんとお話ししますね」

地面に降り立ったハルカを、ドルはまたも頭を下げて迎える。

「お帰りなさいませ、陛下」

「はい、戻りました。あの、ミアーさんがここで暮らすとおっしゃっているんですが?」

「まぁ……行くところもないそうですし、空を飛べるというのは戦いにおいてかなり優位です。これからもゴブリンとの戦いがおこるようでしたら、協力するのもやぶさかではないなと」

「私に話してからというのは?」

「私たちの王は陛下ですよ。傘下に新たな一族を組み込むのであれば、陛下に通すのが当然でしょう」

「……あの、ちょっと耳を」

ハルカが言うと、ドルは少しかがんで顔を寄せてくる。

ハルカにはどこが耳なのかわからなかったが、身を寄せてくれる以上、そのあたりに話せば大丈夫なのだろうと、声を抑えてドルに尋ねた。

「ミアーは、傘下に加わると思っているんですか? ただ間借りをするつもりでは?」

「はて、どうでしょう? 働かないようでは困りますが。陛下から良く言い聞かせていただきたいのですが」

「私ですか?」

「ええ。どうやらレジーナ殿と陛下の言うことは聞きそうなので」

「…………あの、ミアーさん」

「なんダ、ヘイカ!」

「……ここはリザードマンの国です。ここで暮らすのなら、このドルさんの言うことを聞かなきゃダメなんですよ?」

「ん? ミアーは王様のハルカの言うこト聞くぞ。レジーナの言うこトも聞く、怖いから!」

今ひとつわかっていないように聞こえて、ハルカは頭を抱えそうになった。

「ええと……。私は、ドルさんにここの決まりを任せてるんです。なので、私の言うことを聞くなら、ドルさんの言うことも聞いてあげてください」

「……いいぞ! ミアー達に痛い痛いしないデ、ご飯くれテ、ハニートらないなら、言うこと聞く!」

「……だ、そうですけど」

「では決まりですね、ミアーさん、これから同じ陛下の部下としてよろしくお願いします」

「ハルカ強いから、ここにいるト安全!」

ミアーは翼をばたつかせてくるりと回って空へ飛びあがって、仲間たちのハーピーへ告げる。

「ここデ暮らすこトにした! ミアー達のこト、ヘイカのハルカがヘルカで守ッテくれるから、言うこトちゃんと聞く! 小鬼きテも大丈夫、ご飯もある、ハニーも安全!」

ハーピーたちが声を上げる。

その高い鳴き声は耳に響いたが、リザードマンたちも呆れた顔で耳を塞ぐだけで、水を差すようなことはしない。

ハーピー達との戦いで失われた命もあるというのに、なんとも鷹揚な種族だ。

その騒ぎは、やがてしかめっ面のレジーナが武器を片手にとって「うるせぇ!」と怒鳴りつけるまで続くのであった。