軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そろそろお迎えの時間

昨日よりも少し暖かい。

そんな日が毎日少しずつ積み重なって季節は春へ向かっていく。

カトルが岳竜街を出発してからすでに数日が過ぎた。

仲間たちはあまり気にしていなかったが、ハルカは何かにつけては思い出して、息災にしているだろうかと心配していた。

窓際に椅子をおいて物憂げな顔で時折ため息をつく。

おじさんの姿だったらおそらくただ草臥れた姿だが、今であれば絵になっている。

あれ以降の岳竜街の生活は穏やかなものだった。

すっかりハルカが特級冒険者であることが噂で広がり、街を歩くといかつい男たちがさっと目をそらして歩くようになってしまった。ついでに街の人もちょっと遠慮をするようになってしまった。

仕方がない。

しかし積極的に人とかかわらないくせに、避けられると少し寂しいと思うのがハルカのめんどくさい性分である。

街へ出るとあからさまに人の営みの邪魔をするようなので、仕方なく今はこうしてリヴ邸の窓際とお友達になっているというわけだ。

レジーナやアルベルトは好き勝手歩いて、あちらこちらでちょっとしたトラブルを起こしたらしく、これもまた喧嘩を売ってくる人がいなくなってしまい暇そうだ。

そんなわけで街へ出ているのは、毎日楽しくお買い物をしているコリンくらいだ。

夜になると美味しいお酒を飲みながら、年上組としっとり話をする時間が設けられている。誰にも迷惑をかけないからと、ユーリ以外の面々も酒を飲み始めたのだけれど、だれも酒を飲んで暴れるタイプでないから静かなものだ。

唯一アルベルトがちょっと元気になるのだが、翌日ひどい頭痛に襲われるらしく、二日目からは自主的に酒を飲まなくなった。

どうやらアルベルトは酒に弱いらしい。

冒険者は酒を飲んで元気に騒ぐというイメージを持っていたらしいアルベルトは、ちょっとばかし落ち込んでいるようだったけれど、酒に関しては体質なので、もう仕方がない。

酒を飲んだモンタナは、ベッドやテーブルと一体化していくし、レジーナは飲んでも端っこで黙って座っていることに変わりない。コリンはザルなのか枠なのか、顔が赤くなった様子すらなかった。

そんなこんなで穏やかな休息の日々を過ごしたハルカたちだったが、いつまでものんびりばかりはしていられない。

三月の中旬過ぎには、ユーリの血縁であるナディムとシャディヤを拾って拠点へ帰る約束をしているのだ。

来た道を戻るでも、ナギに乗るでもいいのだが、どうせなら別ルートから帰ろうという話になっている。

カロキアには十日後くらいには到着しておきたいから、途中からはナギに頼ることになるかもしれないが、それまで歩いてみるのもまた一興だろうとなったのだ。

リヴによれば、来た道に関してはかなりの数の冒険者が巡回をしているから、あまり邪魔をしないほうがよさそうだとの意見もある。

そんなわけで、そろそろ岳竜街ともリヴとも一度お別れだ。

いつもの通りのんびりと酒を飲み、夜に休み、朝食を一緒に食べて、普通に出発の準備を整える。

ソルカスやポーチ辺りには別れの言葉を告げておいた方がいいんじゃないかとハルカは思ったのだが、どうやらエトニア王国の件で駆けずり回っていて、捕まえるのも難しいらしい。

「それではリヴさん、お世話になりました。ソルカスさんやポーチさんによろしくお伝えください」

「わかった。ああ、カロキアの庭は好きに使っていいからな。ナギが留まる場所が必要だろ」

「ありがとうございます」

「用事があるなら別にここも自由に使っていいからな」

「……よくしてもらってばかりで何も返せずすみません」

「……長生きしそうな友人は少ないんだ、それくらいしてもいいだろう」

出会って数秒で戦闘になったリヴと、ここまで仲良くなれたことにハルカは感動していた。考えてみればハルカたちが過去最高にささくれ立っていたタイミングで出会った相手だ。

今こうしていられるのが奇跡ともいえるだろう。

差し出された手を取って握ると、リヴがハルカを見上げてふっと笑う。

「南方大陸に来たらちゃんと俺のところに訪ねてこいよ」

「いつもどこにいるんですか?」

「だいたいカロキアだ。あとはここと、鵬に家がある。どっかに出てなきゃその辺にいるだろ」

「庭が草だらけの大きな家を探せばいいのかな?」

「……そうだ」

イーストンの言葉を、リヴがやや不満げに肯定する。

この二人も結構な時間喋っていたから、かなり気安い関係になっているようだ。

「お前もひ弱そうだからせいぜい死ぬなよ」

「リヴは胃とか悪くしないように気を付けたほうがいいと思うよ」

軽口をたたき合えるほどに、というところだろうか。

握手を終えたリヴは一歩下がって、全員に向けて言葉を投げかける。

「ま、何かあればソラウから預かったやつ見せとけば特に問題は起きない。それでも逆らうようなやつは叩きのめしていいからな」

ハルカたちを順々に見てから、リヴは追加でお小言を投げる。

「だからと言って積極的に問題起こすなよな」

問題を起こしそうなやつがいると判断したらしい。

挨拶を終えたハルカたちは、順番にナギの背に乗り込んでいく。

さて出発というタイミングで、下から声がかかった。

「じゃあな。最初はどうなることかと思ったが、お前らがいい奴らでよかった」

「リヴさん、また訓練相手してくれよな!」

「もうちょっと強くなっとけ」

「わかってるっての!!」

アルベルトが大きな声を出すと、ナギが首を曲げてお伺いを立ててくる。『もう出発していいの?』と言ったところか。

「いきましょう」

ハルカが言うと、ナギが軽くはばたいてゆっくりと空へと昇っていく。

見下ろしてみるとリヴが腕を組んでいた。

ハルカたちが手を振っても、そのまま黙って見上げているのがリヴらしい。

ナギが空を進み始める。

街が見る見るうちに小さくなる。

きっと相変わらず眠っている 岳竜(グルドブルディン) に向けて、ユーリは小さな声で「またね」と呟いた。