軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神子

僕(しもべ) になる、いらない、という話は、ハルカが「じゃあ、その話はもうやめましょう」と折れたことでひと先ずの決着がついた。

ハルカは自分の意志を曲げたつもりはなかったが、サラにしてみれば認められたと思っているので、その場しのぎでしかない。

隣のスペースを見ると、モンタナとアルベルトが木刀をもって訓練をしている。

アルベルトの力強い斬りかかりに対して、モンタナはその起こりを見て体を動かし、切り結ばずに反撃をする。アルベルトは軽く素早い反撃に対して、振り切った木刀を戻さずに、持ち前の身体能力で無理やり後ろへ飛びずさり距離を取った。

ハルカはたまに彼らの訓練風景を見ることがあるが、大体いつもこんな調子だ。

モンタナは目がいいのか、相手の身体が動き始めるころには自分も動き、攻撃をかわす。

アルベルトはどんな体勢からでも次の動きにつなげることができるので、攻撃がかわされても反撃を喰らわない。

実力がちょうどよく拮抗していて、決着がついた時を見たことがなかった。

見るたびに動きが鋭くなっているのがわかるので、いい訓練になっているのは確かなようである。

最近では攻撃のやり取りが見えて、その進歩もわかるくらいには目が肥えてきているようで、ハルカも自分の成長を感じていた。しかし、彼ら以外の人たちの戦いをあまり見たことがないので、二人がどのくらい強いのかというのは、今ひとつわかっていなかった。

「話がつきましたよ、きりのいいところで街の観光に行きましょう」

声をかけると、にらみ合いを続けていたアルベルトが体の力をふっと抜いてハルカに振り返った。その瞬間、モンタナがささっとうごいて、アルベルトの脇腹を木刀でつつく。それは本当に触れるだけで、攻撃というほどのものではなかったが、モンタナは勝ち誇った顔をしてから宣言する。

「これで終わりです」

「……おい、なんだよ今の」

「……? 街行くですよ?」

「おい、モンタナ、俺負けてないぞ、今の引き分けだからな、おい、聞いてるか?!」

「買い物行くですよー」

ついてくるアルベルトに取り合わずに木刀を片付けると、小走りにハルカ達へ近づいてくる。

「きりのいいとこっていったですから、きりよく勝つところまでやったです」

「認めねー、俺は絶対認めねーからな! な、ハルカ、今のは引き分けだよな」

「え、ええ、まあ、そうなんじゃないでしょうか?」

「ほらな、引き分け、引き分けだからな!」

「ですですですー」

耳をペタッとたたんで聞こえないふりをするモンタナは結構意地悪だった。

訓練場からでたあたりで、ハルカの後ろについてくるサラに気づいたアルベルトは、怪訝な顔をする。外に出るくらいまでなら方向が一緒ならと思っていたのだが、外に出てきてまで付いてくるのには疑問が浮かぶ。

「なんでこいつ付いてきてんの?」

「ハルカさんの僕になったからです」

「今の聞かなかったことにしてください」

サラの返答をすぐにハルカが否定する。ふーんと横目でサラのことを見るアルベルトは、困った顔をしているハルカに気づいて、それ以上追及するのをやめた。

「んで、お前、サラだっけ? 付いてくるなら自己紹介くらいしろよな」

「そうですね、そうでした。私はサラ=コートです。十三歳で、今はレジオン神学院に通っています。両親はオラクル教の司祭で、私もいずれはそうなりたいと思っています。魔法が少し得意で、それから、予知夢の神子と呼ばれています」

「ふーん、俺アルベルト=カレッジ。十六歳の五級冒険者。護衛依頼でオランズからここまで来た。ハルカが自分で戦うって言ってなかったら、お前ら全員骨の一、二本くらい折ってやろうと思ってた」

真顔でそう言ってのけたアルベルトと、その言葉にうんうんと頷く残りの二人に、ハルカとサラは同時に顔を青くした。

冒険者というのは荒っぽい。それを思い知らされた。ハルカは冒険者なのに、今更それを思い知った。未だにこういう認識の違いがたまに発生するから恐ろしい。

「あ、あ、ありがとうございます、ハルカさん」

ハルカの上着の袖をひしっとつかんだサラは、上目遣いで礼を言った。

「い、いえ、無事でよかったです」

ハルカもよそ様の子をケガさせないで済んでよかったと、自分で戦う判断をした数十分前の自分を褒めていた。

「ハルカがそれでいいならいいけど、それぐらいのことだったっていうのは忘れるなよ」

サラを睨みつけてから、すぐにそれをやめたアルベルトは、ところで、と話をつづけた。

「その神子ってのなんなんだ? さっき他の奴らも言ってたよな」

「神子というのは、他の人にない特別な技能を持った者のことを指します。魔法や戦闘能力に優れたもののことをそう呼ぶこともありますが……。神に愛されし子、という意味で神子と呼ぶそうです」

「ふーん、あんまり聞いたことないわね」

「神聖国内で生まれることが多いので、それも能力者を神子と呼ぶ理由です。よそでは別の呼ばれ方をされているのかもしれません」

話を聞きながら、超能力者みたいなものだろうかとハルカは思っていた。魔法のある世界だと、それほど貴重なものであるような気はしないのだが、わざわざ名前を付けるくらいだから、その能力は魔法では再現しにくいのかもしれない。

「私の能力である予知夢は、自分に関係する未来を夢で見ることができる能力です。指定してみることはできませんし、あまり役に立ったりはしませんけど……。あと神子は大概の場合、魔素を上手に扱うことができます」

サラは、緊張した様子でハルカをみて、息を吸う。

何かを言いたそうにしていたので、ハルカは彼女に先を促してやる。

「どうしましたか?」

「その……、今回ハルカさんにあんなことをしたのも……、予知夢でハルカさんをみていたからでして……」

なるほど、無意味に喧嘩を売ってきたわけではないようだった。

事情を説明してくれそうだったので、ハルカは黙って言葉の続きを待った。