軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

喧嘩をする

訓練場で勝負とやらをするらしく、黙って歩く子供たちの後をついていく。

あちらから売ってきた喧嘩であったけど、そもそも大人として相手するべきじゃなかったかとか、大人げなかったかとかいう思いが、今更ながらに去来した。

「別にハルカがやるっていうならいいけど、手加減とかできるのかよ」

「いや、うーん、わからないですけど……」

アルベルトが手加減をする気があったらしいことに驚きながら、ハルカは自信なさげに曖昧な返事をする。

自分の体が丈夫なのはわかっているから、攻撃を受けながらでも適当に相手をしてあげればいいかなと思っていて、あまり深くは考えていなかった。

コリンは心配する様子もなく、中の様子をきょろきょろと見まわしている。何しているのか尋ねてみると、道を覚えてるのだという答えが返ってきた。廊下の端に置いてあるほうきとちり取りに注目している辺りを見ると、今回もダメだろう。

モンタナは右の袖から出した石を左の袖に、左の袖から出した干からびた果物を右の袖に入れ替える、といったような作業を繰り返している。整理しているようだったが、どんな基準でそれがおこなわれているのかは、傍から見るとさっぱりわからなかった。

「勝負をするのはわかりましたが、ルールはどうしますか?」

訓練場の広場に立ったハルカは、サラと呼ばれる少女にハルカは質問をする。サラを先頭に五人の子供たちがハルカに対面していた。二十メートル四方の広さの中に六人もいると、少し手狭に感じる。

一方でハルカの後ろには三人の仲間たちが、気楽に座り込んでハルカを応援している。

「ハルカ、ちゃんと手加減するんだぞ! 殺すなよ!」

物騒なことを言っているのはアルベルトで、それを聞いた子供たちは身をすくめている。ハルカとしてもそんなつもりは一切ないのに、どんどん凶悪なダークエルフ像が作られていっている気がして、勘弁してほしいと思っていた。

そんなに私は子供を本気でぼこぼこにしそうだろうか? アルベルトの中で自分の像がいったいどうなっているのかが一番気になっていた。

「ふぁんばれー」

「ですー」

もさもさとどこから持ってきたのかわからない葡萄のようなものをつまみながら応援するのは残り二人だ。緊張感がまるでなかった。信頼の証と思えばよかったが、もうちょっと真剣に応援してくれてもいいんじゃないかなぁとハルカは思っていた。

「こ、こ、殺すのは、な、なしです。殺したら、ままま、負けですからね!」

アルベルトの言うことを真に受けたサラが震えた声で言う。

殺しませんってば、心の中でハルカは返事をして頷いた。

「降参するか、この広場から出たら負け、でどうですか?」

「そ、それでいいです」

「ところで……、私が勝ったら、えーと、何かいいことがありますか?」

「そ、その時は、……わ、私があなたの 僕(しもべ) になります、だ、だから他の子たちには手を出さないでください!」

「あ、そうですか、はい」

どんどん悪者にされている気がする。

本当にこの子たちを上手に教育して、ダークエルフへの悪い噂を払しょくすることができるのかハルカは不安になった。

「では始めましょうか、よろしくお願いします」

頭を下げるハルカにつられて下げる子供たちは、本当は礼儀の正しいいいところの子たちなのかもしれない。

しかしその直後に子供たちが腰から一斉に指揮棒のようなものを取り出してハルカに向けると魔法の詠唱をし始める。

ハルカはうわぁ、魔法学校の奴にそっくりだ、と現実逃避をしながらどう動くべきか考える。魔法なんて当たったらふつうは死んでしまうと思う。殺すのはなしという約束はどこに行ったのだろうか? それともダークエルフはこんなことでは死なないと思われているのか。これもまた嫌な信頼である。

それにしても魔法の詠唱が随分とゆっくりだ。ほんの十メートルしか離れていないのに、そんなに悠長に詠唱をしていていいのだろうか?

疑問に思いながらも詠唱を邪魔してやるつもりでハルカは走り出す。それ見て詠唱を中断し、腰が引けた者が二人、詠唱を続ける者が三人。

詠唱を中断したものは後回しにして、続けている三人の方へ向かう。そのうち一人のローブの首元を掴み、そのまま空いた手でもう一人も捕まえる。

「あ、やめ、やめて!」

「はなせ、はなせよぉ!」

掴んだ子供たちの声を無視して、そのまま引きずるように広場の端まで行って、広場の外へ軽く放り投げる。芝生のようになっているから大きなけがはしないだろう。潰れたカエルのような声が聞こえたが、多分大丈夫、多分。

振り返ると詠唱をやめていた残りの二人は自発的に広場の外へ逃げ出しており、残っているのはサラだけになっていた。

振り返って走り出すころにはサラの指揮棒がハルカに向いて、ウィンドカッターが放たれる。うまく制御されていない場合、後ろに放り投げた子供たちに当たる可能性もあると踏んだハルカは、緊張しながらもそれに向かって腕を上げ、振り下ろした。

なにも勝算がなかったわけではない。ヴィスタに来るまでの旅の中、ハルカは自身の身体の耐久テストを繰り返し行ってきた。自分の魔法をできるだけ弱くして、自分に対して撃ってみて傷つかないことを確認する。次は少し強力なものを、その次はもっと強力なものを、と試してみる。それはレオに見つかって危ないことはやめてくださいと怒られるまで続けられた。

結構本気で怒られたが、そのおかげでわかったことがあった。

この体はウィンドカッターくらいでは傷ついたりしない。

上から勢いよく振り下ろされた腕は、ウィンドカッターをたたき落とすかのようにかき消した。

そのまま指揮棒を震わすサラの前に立った、ハルカは、上から見下ろしながら彼女に問いかけた。

「降参しますか?」

「し、し、しますぅ……うぅ……」

その場に座りこんで泣き崩れた少女を見て、弱い者いじめをしてしまったような気がして、ハルカはいたたまれない気持ちになった。