軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昔話と今話

「これはある程度裏付けのある真実に近い情報だと思ってほしい。背景のこともあるから少し長くなる」

コーディがそう前置きをして話し始めたのは帝国の事情だった。

南方大陸の北部を牛耳っている【グロッサ帝国】は、元々【ディセント王国】ほど大きくなかった。数代前から少しずつ勢力を拡大したり縮小したりしながら、今の大きさになっている。

その最大版図を誇ったのは、北方大陸に侵攻した百年前ほどのことだったが、【ドットハルト公国】の独立により、それはほんの一瞬の出来事でしかなかった。

帝国の野望をよく知っている【ドットハルト公国】は、南部に十分な兵力を駐屯させて、その侵攻に蓋をしている。当時の王国としても、広すぎる国土を抱え、野心的な国と接していることは大きな負担となっていたため、むしろ【ドットハルト公国】が盾となっている今の状況は悪くはない。

おかげで侵略をされたにしては、友好的な関係を築いている。

【ドットハルト公国】への怒りからか、北方への侵略を意固地に続けた先々代皇帝だったが、そのせいで徐々に南方からの反撃を受け、帝国の規模は一時的に縮小する。

志半ばで急病に倒れたとされる先々代の後を継いだのは、兄弟を殺し、追放した先代皇帝だった。噂では先々代の皇帝も先代皇帝に毒殺されたとされている。

帝国が方針転換し、南へ注力したのは先代皇帝からだった。一時的に取り戻されていた旧領を取り戻し、苛烈な攻撃で更に領土を広めた先代だったが、年と共に帝都に引きこもりがちになり、やがて息子に軍の支配権を移していく。

精神のバランスを崩したのはその頃からだった。

才能ある子に権力を徐々に移行させる形をとったはいいものの、親や兄弟を殺して手に入れた地位を、同じように息子に奪われるのではないかと怯えたのだ。

前線の朗報を聞けば聞くほどその疑念は深まる。

「で、ぎくしゃくした結果起こったのが、三年前の帝位簒奪だ。そして、たった一人の息子が遠征している間に、街の女性を娶り、生まれた子供というのがユーリ君だね。ここまでが概要」

お茶を啜って一息ついたコーディは、表情をやや引き締める。

「ここからは、いやここまでもだけどね。まぁ、あまり面白い話じゃない。街から半ば攫うように娶られたユーリ君の母親は、今の皇帝ソラウ=バニ=グロッサに殺されている。ユーリ君を連れていた人は、仕えていた人だったのかな。そうだとしたら立派な人物だったのだろうね。あそこまで命を懸けて、主人の子を守ったのだから」

「あ……」

ユーリが一瞬口を開いて、すぐに黙った。使用人なんかではないことを知っていて、それを正したかったが、今この場で言うことではないと思い口を閉ざしたのだ。

そこにいる全員が注目したが、結局誰もなにも尋ねたりはしなかった。ただ、ハルカはユーリを抱き上げて膝の上に乗せる。

ユーリは賢い。話を間違いなく理解している。

体を近くに寄せることで、少しでも寂しくないよう、悲しくないようになればいいと思ってのことだった。

「先々代の教育を受けているのならば、皇帝ソラウも、きっと血縁関係者を信用しない。それこそ、災厄の種くらいに思っているだろう。時間が経てば諦めるような相手ならば、身を隠し続けるのも手かもしれないけれど、その可能性は低いだろうね」

「……ユーリと出会ってから丸二年です。まだ捜索しているということは生きていることを確信していますものね。それどころか、的確に私たちの周りに捜索の手が近づいてきています。他国であるのにもかかわらず」

「そうだね。だったら、ずっと撃退し続けるか、話をつけるかの二択だ。受け身に回るくらいならこちらから、というのが今回の話だろう? いやぁ……」

またズズズっとお茶を啜ったコーディは、体を椅子に預けて笑う。

「いかにも特級冒険者らしい、権力を無視した単純明快な考えだ」

「無謀でしょうか」

「無謀だ。と言いたいところだけど、それをひっくり返すからこそ特級冒険者なんじゃないのかな? ユーリ君の人生に不自由を強いないための手はそれしかない。待っていても帝国の力は増々強大になっていくだろう。機会を窺っていたところで、今以上の好機がこの先訪れるとは限らない」

「回りくどいんだよ、おっさん。言いたいこと言えよな」

「おや、ようやく喋ったね。レジーナ=キケロー君」

「……んで名前知ってんだよ」

「うん、君に聖女の称号を贈ったのは私だからね。役に立つことはあったかな?」

「ねぇよ、きめぇな」

改めてバチバチに警戒心を露にしたレジーナの眉間の皺が深くなり、口をへの字にして閉じてしまった。

「さて、その子の言う通り端的に述べよう。好きにしたらいい、余程の失敗がない限り私は君たちとの付き合い方を変えることはないから」

「正直ですね」

「君相手に嘘をついても仕方なさそうだからね」

どこまでモンタナのことを理解しているのか、そう言ってコーディは目を細めた。

「……では、そうしてきます。ご迷惑はかけないようにしますので」

「うん、でも何かあったらオラクル教会は頼っていいよ。あとで、私の紹介状をあげよう。北方大陸に比べると、オラクル教会の勢力は大きくないから、役に立つかわからないけどね」

「失敗した時迷惑かかるですよ?」

「その時はそんな奴らだとは思っていなかったとでも白を切るさ。そもそも、失敗するとは思っていないけどね」

それはオラクル教会の渉外部長であるコーディとしては、破格の信頼だった。ハルカもその気持ちを十分に感じて頷く。

「頑張ってきます」

「……うん、じゃあ、話はこれくらいにしようか。エステルが……、ああ、妻がね、ユーリ君に会うのを楽しみにしていたからさ。少し時間を貰えるかい?」

「ええ、もちろんです」

「じゃあちょっと待っててね」

ようやく気の抜けたハルカと、一度席を立つコーディ。

コーディがドアをくぐったのを確認して、ずっと立っていたレジーナがぼそっと呟いた。

「なんであたしのこと知ってんだよ、まじできめぇな」

どうも二人の相性は悪そうである。